オピニオン 大紀元評論員・謝天奇

江派最大の「金庫番」拘束から見る 習政権の「打倒江派」策

2017/02/16
更新: 2017/02/16

  江沢民派の主要メンバーの親族と深い関わりを持ち、「金庫番」を担ってきたとされる中国本土の実業家・肖建華氏。伝えられるところによると、肖氏は1月27日夜、香港から中国本土へ連れ戻され、北京で調査されているという。大紀元コラムニストの謝天奇氏は、習政権による今回の動きは、少なくとも「十九大までに江派の常委を失脚」「金融業界での粛正を強化、江派の『経済クーデター』阻止」「香港情勢を有利に動かす」など3つの狙いがあると分析している。

その1「十九大」までに江派の常委を失脚させる

中国本土へ連れ戻されたとされる香港の実業家・肖建華氏
​(getty images)

伝えられるところによると、肖建華には、江派の多くの主要メンバーの親族と親交がある。例えば、曽慶紅の息子・曽偉を始め、前中央銀行頭取である載相龍の娘婿・車峰、梁光烈前国防部長(国防大臣)の息子・梁軍、2015年に失脚した周永康の息子・周浜、賈慶林の娘婿・李伯潭など。

肖が絡んだ最も知られる政商結託の例は、07年、曽偉が、資産価値738億元(1兆2,108億円)の山東省最大の国営企業「魯能集団」を、わずか30億元(約492億円)で買収した一件。肖はその出資者だったとされる。


​ 2月2日、ある人物は中国のSNS微信(WeChat)のグループチャットのなかで、「今回の肖建華拘束には、中共の現職高官と退職高官の親族の不正蓄財がからんでいる。来たる19大の人事にも影響する」と投稿した。

さらに、肖建華の設立した企業グループ「明天控股集団(明天系)」は、いわゆる利権を握る政府・企業高官のために、早くから不正な取引やマネーロンダリングを行ってきたと指摘。

投稿者は、明天系と繋がる江派高官を「長者(江沢民)」「軍師(曽慶紅)」「慶林(賈慶林)」「雲山(劉雲山)」「徳江(張徳江)」とのコードネームを記した。

2月3日、信頼できる中南海の消息筋は大紀元に対し、肖建華は、中南海でも高層レベルで重要議題とされ、彼が動かせる資金はおよそ2兆元で、江派最大の「金庫番」であると認識されていることを明かした。

また、肖建華は現在、北京で調査を受けているが、取り調べの目的は、江沢民や曽慶紅、現職の常委張徳江らを含む多くの江派高官の汚職証拠を掴むことだという。

その2 金融業界での粛正を強化し、江派の「経済クーデター」を阻止する

 

肖建華は、40代後半という若さで、中国資本主義市場の大物に名を連ねた。中国の雑誌『新財富』が13年に行った調査によると、同氏の企業グループ「明天系」は9社の上場企業を抱え、金融機関30社の株式を大株主として所有する。これら金融機関30社の総資産は1兆元(約16兆4000億円)近くと推計されている。

伝えられるところによると、肖建華自身も多くの金融詐欺や金融犯罪に関わっているため、その調査を突破口にして金融業界の黒幕を一掃することを念頭に置いて、習政権は今回の拘束を行う決意を固めたという。

15年の6月から7月にかけて、中国で株価が大暴落したことは記憶に新しい。その後に相次いで報じられたところによると、この時の大暴落は習政権をターゲットにして仕組まれた「経済クーデター」で、江沢民、曽慶紅、劉雲山ら多くの江派高官の家族が関わっていた。

江派利益集団の資産管理を行っている肖建華に取り調べを行うことは、習政権が彼らに対する追及の手をさらに強めることを示している。今年行われる慣例の党指導者層における人事異動の前に習陣営が粛正を行うことによって、江派メンバーを牽制し、新たな「経済クーデター」を事前防止する狙いもある。

その3 香港における江派の勢力を削ぎ、香港情勢を有利に動かす

長い間、香港は江派の重要な拠点として位置付けられ、江沢民や曽慶紅は香港の表社会と裏社会を牛耳り、胡錦濤前国家主席や習近平国家主席の政権運営を妨害し続けてきた。現在、香港とマカオに関する一切を取り仕切っているのは江派の常委・張徳江で、香港マカオ特別行政区行政長官・梁振英は、曽慶紅派とされる。香港は江派の「なわばり」といえる。

習政権は、いわば敵陣営に等しい香港で、江派の残存勢力を叩くために、同地でマネーロンダリング(資金洗浄)を行っている肖建華を拘束し、中国本土に連れ戻すという大胆な行動に出た。

消息筋によると、肖建華は、曽慶紅が香港に派遣した諜報員であり、江派のマネーロンダリングを行うほか、政治的な役割も担ってきた。肖建華と梁振英や中国政府駐香港特区連絡弁公室(中聯弁)のトップ、張暁明は、それぞれ深くつながっており、香港で勢力を保っている。

肖建華は、香港の多くの資産家、官僚、企業家、政治家と、あらゆる権力層の人脈を築いている。とりわけ、香港特別行政区行政長官の選挙権を持つ金融業界の選挙委員会とは、選挙の際には「十数人から二十数人の有権者に影響を与えることができる」という(訳注)。

今年3月26日に行われる香港特別行政区行政長官の選挙日まで2カ月を切ったこのタイミングで肖建華事件が起きたことは、香港各界を震撼させた。特に金融業界の選挙委員会の動向が左右されるため、選挙結果にも影響が及ぶと思われる。

新たな年の初めとともに習政権は肖建華を拘束したが、真の狙いは江派の常委クラスの党幹部を失脚させることにある。今年、習陣営と江派の攻防がさらに激化することは間違いない。肖の拘束は、ただの序章に過ぎない。


訳注:香港特別行政区行政長官の選挙は、香港住民すべてに選挙権があるのではなく、選挙委員会の投票によって行われる間接制限選挙。

(翻訳編集・島津彰浩)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。