オピニオン インタビュー

緊張の朝鮮半島 日本がしめす姿勢は=櫻井よしこ氏

2017/04/26
更新: 2017/04/26

日本の対北朝鮮政策 対話と圧力

ー日本は北朝鮮に対して、どのような態度を示すことが望ましいでしょうか?

対話の余地を残しながら、圧力を掛けること。国際社会はこれまで制裁してきました。日本は、北朝鮮へ多くの国民が拉致された問題があるため、さらに厳しい外交政策をとり、制裁してきました。

拉致問題解決のために、拉致被害者の家族は、日本独自のこの厳しい制裁を、逆に解除すべきだとの意見があります。北朝鮮に拉致された日本国民を救うためにも、対話の可能性を示したほうがいいということです。

もちろん、安倍政権は国際社会と同じレベルの制裁は維持しますが、それよりも厳しい日本独自の制裁については柔軟に考えると思います。

トランプ政権 軍事行動「取るべきときは取る」姿勢

ー米国は北朝鮮に対して、軍事力を駆使してけん制しています。米国が実際に攻撃する可能性はあるのでしょうか。

シリア爆撃は北朝鮮を念頭に置いたもの、と言ってよいと思います。米中会談の最中、トランプ氏が習近平氏にそのことを伝えた意図は、中国へ警告を与えることだったと考えられます。

国際社会で認識されていることは、ロシアはシリアを擁護、中国は北朝鮮を擁護という構図。国連の制裁決定を邪魔してきたことは事実です。

北朝鮮がどのような行動にでるかによりますが、トランプ政権は軍事行動「取るべきときは取る」と思います。中国抜きで、米国は単独行動をする状況が考えられます。

ーもし有事に発展した場合は?

北朝鮮が有事なら、韓国のみならず、日本も相当な被害を受けることが考えられます。被害の拡散を防ぐために、米国政府は事を運ぶと同時に、短時間で制圧する方法をとるでしょう。

平壌攻撃ならソウルや東京の被害は避けられないとも

一部の専門家の話では、平壌を攻撃すれば、「ソウルや東京で被害が出ない方法などない」とも言われています。北朝鮮はミサイル・核を多く持っています。しかも、分散して地下施設などに隠しています。一度の攻撃ですべて壊滅することは不可能であると考えられ、このために北朝鮮に対する軍事行動は一概に簡単ではありません。

金正恩氏は、考え方の予測ができない人物です。ただ、確かなことは、シリアの事例を見て、「シリアが(米国)攻撃されたのは、シリアには反撃能力がないからだ」と思うでしょう。つまり、北朝鮮は兵器の実験を続けて、一日も早く核開発と小型化、米国を標的にできるICBM(大陸間弾道ミサイル)を完成させようとするでしょう。今、(有事)が起こらなくても、どこかで衝突が起こる可能性は否定できません。

限界のなかの現行法 何もできない日本

ーそのとき、日本国民は何ができるでしょうか?

我が国は現状、何もできない状態です。例えば、軍事行動に移る前に、連携諸国と経済封鎖を行うと仮定します。それを実行するのも憲法のしばり、自衛隊法のしばりがあり、他国と同じ行動をとることができません。

 

去年、政府は安保法制を成立させました。当時、野党は「日本は戦争する国になる」「人を殺す国になる」と主張しましたが、これは違います。実は、この安保法制でも、日本ができることは限られてるのです。

仮説「武器・弾薬をつんだ船が北朝鮮に入港・出港しても…」

例えば、北朝鮮に入港・出港する船が、武器や弾薬を積んでいると仮定します。各国海軍は、この船を臨検(停めて積載物を調査)することができます。海上自衛隊は、その船の船長が臨検を受け入れると同意しなければ、取り調べはできないのです。

仮説ですが、万が一、臨検がでるようになったとして、化学兵器や武器、弾薬などを運搬していることが判明しても、日本は押収する権利はありません。

海上自衛隊は、船長に、行く先をかえるよう要請することしかできません。

日本国を守るべきはずの法律ですが、現行法にはあまりにも多くの限界があります。安保法制に強く反対することは、他の国と同じような法律をつくることを妨げていることに等しいのです。

ー中国と北朝鮮は、今後はどのような関係になっていくとお考えですか?

中国は国際社会の前で「北朝鮮を制裁する」と言い、北朝鮮からの石炭の輸入を停めるとはいったものの、実際には、日本海には北朝鮮船籍が十数隻、いつも行き来しています。

船籍は北朝鮮でも、これは中国が契約した中朝間のチャーター便。中国は密貿易によって、北朝鮮の物資を買い付けたり、送ったりしています。これはルール違反です。口では「制裁を科す」を言いながら、裏では支援しています。

北朝鮮が潰れてしまって困るのは中国で、実際は擁護していると考えられます。中国が北朝鮮に本気で制裁をするというのは、私は疑わしいと思います。

南北分断が中国の理想

中国の理想的な朝鮮半島政策として、南北が分断されていること。北朝鮮は不安定な状況で、国民が飢えに苦しんでおり、中国のコントロールと支援が必要でなければならない、という状況にあるのが、中国の半島情勢としては望ましいのです。

中国政府の対北対応のなかで、北朝鮮が「平和な国」「法の支配」「民主主義的な社会」になるべきだとの考えは、そもそもないのではないでしょうか。

ー中国はいまの北朝鮮をどのように見ているのでしょうか?

米中首脳会談の中で、トランプ氏は「北京にとって平壌を支配するのは簡単じゃないか」と習近平氏に聞いたところ、「そうではない」として、朝鮮半島はかつて中国領土であったなどということを、長い紛争の歴史とともに説明しています。

私は、この習近平氏の発言は、これまでの中国の型どおりのものであり、「北朝鮮は中国に隷属するべきだ」との姿勢を示していると見ています。

かつては、朝貢政策(※明代を中心とした中国の外交政策。先進の中華文明・文化を手にするため、外国は金銀や奴隷を送った)により、北朝鮮は、確かに中国の文化圏の下にありましたが、かといって、中国の領土だったということはありません。

21世紀に中国の考えは通用しません。

習近平氏の掲げているのは「偉大なる中華民族の復興」「21世紀の中華帝国を創造」という構想です。したがって、中朝の関係は、常に中国が常に上に立ち、朝鮮半島は隷属するということを望んでいると考えられます。これを、現在の北朝鮮の人々がすんなりと受け入れるかどうかは、疑問視されるところでしょう。

(聞き手、文・佐渡 道世)


櫻井よしこ氏

ジャーナリスト、国家基本問題研究所理事長。
クリスチャンサイエンスモニター紙 東京支局の助手としてジャーナリズムの仕事を始め、アジア新聞財団 DEPTH NEWS 記者、東京支局長、NTVニュースキャスターを経て、現在に至る。

2007年にシンクタンク「国家基本問題研究所」を設立し、国防、外交、憲法、教育、経済など幅広いテーマに関して日本の長期戦略の構築に挑んでいる。


 本インタビューで示された意見やアイデアは櫻井よしこ氏の見解であり、必ずしも大紀元および大紀元メディアグループの姿勢、スタンスを示すものではありません。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。