この記事は、中国政府報道機関「新華社」で28年間勤務し、フランス国際放送局(RFI)中国語放送部の責任者を務めた、記者歴40年のジャーナリスト・呉葆璋氏へのインタビューをまとめたもの。中国国内と海外で、ジャーナリストとして長年、中国を観察してきた。
海外メディアを対象に「アンチ法輪功」宣伝
中国のあらゆる政治問題の核心に位置する法輪功問題が、海外のメディアに取り上げられる機会は非常に少ない。取り上げられても、マイナスの角度から報道されることが多い。これは、北京当局が海外メディアを相手に「アンチ法輪功」の宣伝を行っていることと関連している。
例えばフランスでは、中国大使館の外交官がアンチ法輪功の宣伝資料を、フランス外務省の官員らのデスクまで届けている。北京当局はその強大な対外宣伝網を起動し、各国の外交部に対してアンチ法輪功の宣伝を行っている。フランスでは国際問題に関しては、外交部の顔を伺いながら報道するメディアが多い。
私がフランス国際放送局(RFI)中国語部の編集長を勤めていた際、よく中国大使館から電話があった。ある日、大使館の領事から一緒にコーヒーを飲もうという誘いの電話があった。コーヒーショップで会うと、領事はいろいろと温かい挨拶をした後、かばんの中から分厚い資料を私に手渡した。アンチ法輪功の宣伝資料だ。「今後、あなたたちの放送局で、法輪功関連の報道をストップしてくれないか」と彼は切り出した。
それに対して、「私たちの放送局は、独立運営の放送局であり、中国国営の放送局ではない。法輪功問題について、あなたたちはどうしてそこまで警戒しているのか。かえって新聞記者としての好奇心が沸いてくる」と私は彼に答えた。それを聞いた彼は、慌てて、「いやいや、私は単に気を付けてほしいと思っていることを伝えただけだ。呉さんのためだから」と言葉を濁した。
ウソを見抜けない記者が宣伝の餌食になる
「中国政府が法輪功問題を本当に解決したいならば、一番いい方法は、海外の記者を中国に入国させ、法輪功学習者への自由な取材のチャンスを許可することだ。あなたたちはそれができるのか」と私は彼に聞き返した。
この出来事から、私は更に、法輪功問題は中国のあらゆる政治問題において核心的な位置にあることを確信した。国際メディアに対して、北京はいろいろな働きかけをしているが、その工作の重点の一つがアンチ法輪功宣伝である。
中国共産党政権は、海外のメディアに対し、かなりのエネルギーを費やして、働きかけている。会議や訪問参加の名目で彼らを北京に誘い、北京の報道方針を彼らに伝え、浸透させようとしている。北京の意図を見破れない記者が、標的にされる。
それらの記者の中から、北京当局は一部の影響力のある記者にさらに働きかけ、利益を提供して彼らを丸め込み、何を報道すべきか、中共政権の好む内容と好まない内容は何かを彼らに教え込んでいる。悲しいことに、利益関係が生じた記者たちは、事実報道をしなくなってしまった。
中共のメディア独占に対抗する大紀元メディアグループ
どうして法輪功問題において、北京政権はそこまで警戒しているのか。答えは簡単だ。中共政権の歴史上、法輪功のような被害者団体は一度も現れたことがなかった。迫害されるグループの中で、法輪功のように中共政権に立ち向かい、その本質を徹底的に暴露する団体は、他になかった。11年の迫害を経て、法輪功は消滅されるどころか、かえって受難から蘇り、我が道を歩んできた。
特に、法輪功学習者らが創立した大紀元メディアグループは、海外中国語メディアに浸透し、独占する中共メディアに対抗してきた。現在、このメディアグループは、中共と抗争するグループの世論の発言の場になっている。欧米では、メディアに従事する多くの人々は、大紀元メディアグループの中国報道に気付いている。彼らの中国語報道は、速報に加え、他のメディアが入手できない独自の情報をしばしば報道している。
大紀元メディアグループはすでに、中国情報の報道において権威的な存在である。
日中関係における日本の落とし穴
日中関係について、日本政府に理解してほしいことがある。中国共産党政権が存在する限り、その政権維持の需要から、第2次世界大戦の歴史を利用した日本社会への脅迫は続くだろう。中国共産党政権の本質は、虚言と暴力に過ぎないからだ。
日本を含めて海外の民主国家は、中国共産党政権が崩壊したら、中国は無政府の混乱状態に陥るため、自国が害されてしまうと恐れている。私から見れば、それは中共政権が散布した論点である。目的はほかでもなく中共の政権維持だ。
一つの落し穴がある。つまり、「独裁政権に希望を抱く」ということだ。これらの人は、自国の利益を、中国共産党独裁政権との友好関係作りに託してしまっている。西洋各国の伝統的な考えともいえる。中国の強力な皇帝と国交を結び、協力することで、自らの利益を守る。
このような考えは非現実ではないだろうか。21世紀の現代、世界の潮流は独裁・専制ではなく、民主・自由である。中国が民主化、自由化に向かう潮流は、歴史のトレンドであり、妨げることはできない。海外の民主国家が、自国の希望を独裁政権の中国に託してしまうと、中共という独裁政権と結びつくことになり、中共と一緒に沈んでしまう可能性がある。
日本と中国との最大の差は政治制度にある。ヨーロッパ諸国間にも異なる主張や利権があり、衝突もあり摩擦もある。しかし、火と水のように相容れない関係ではない。民主国家の政治家に分かってほしいのは、まず、中国の民主自由のトレンドを、自己の利益を考慮して妨げるべきではないということだ。さらに、中国と他国間の友好的な関係作りは、共同の社会政治制度の基盤である。同じ民主制度があって初めて正常な関係作りができる。中共独裁政権に希望を持つ政治家が腐った樹を抱いて海で泳ぐことのないよう、願っている。
日本の報道機関が中国報道する際の観察点
経済、政治、環境、資源、あらゆる面で世界に影響を与える中国に、海外メディアはますます眼を向けている。しかし、中国の核心の問題はどこにあるのか、どのような目で中国社会とその行方を読み取るのか、現在、中国の状況を本当に把握している海外の記者は多くない。
現代の社会では、メディアも商業体となり、市場の変化に価値付けられている。新聞記者はジャーナリストの価値観に従うより、上司に従い、企業に従わなければならないというジレンマがある。
企業経営者は、市場の価値から判断する。例えば、中国に駐在する記者が真相を報道したため中国当局から国外追放処分を受けたら、本社は彼にエールを送るどころか、解雇の方針を取るだろう。中国当局の不満を買ったら、中国を観察するための窓口を失ってしまうと考える経営者もいるため、記者の行為は、会社に損失をもたらしたとみなされる。
この意味で、海外記者で、本当に独立した立場から中国を客観的に報道できる人は多くはない。仕事やキャリアなど、自己の利益に影響されず、ジャーナリストの原則に従い中国について報道できる記者は稀少といえる。
中国の真相を客観的に報道・観察する記者や賢明な政治家であれば、中国を観察する目は、中南海から離れ、中国社会の各階層に移すべきだということを理解できると思う。社会の正義を唱える力や政権の被害にあった人々を対象に報道すべきだ。それによって、これらの力や人々を助け、共産党独裁の専制を早く終わらせることができる。それこそ、良知を職業にするジャーナリストや政治家の着目点だと信じる。
本記事は、2010年4月26日に掲載されたものを、再掲載しました。
インタビュー記事において示された見解は、呉葆璋氏個人のものであり、大紀元のオピニオンを代表するものではありません。
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