中国経済界、フォックスコンの米国投資拡大を警戒

2017/08/11
更新: 2017/08/11

世界最大手EMS(電子機器受託製造サービス)、台湾鴻海精密傘下の富士康フォックスコン)科技集団が7月末、米国ウィスコンシン州でLCD液晶パネル工場建設に100億ドル(約1.1兆円)を投資すると発表した。

同月26日、鴻海の郭台銘会長とトランプ米大統領がホワイトハウスで記者会見を開き、同投資計画を発表した。8月2日、トランプ大統領は郭台銘会長から米国で300億 ドル(約3兆3200億円)の投資を行うと非公式に伝えられたことを明らかにした。

一方、中国香港実業家でアジア大富豪の李嘉誠氏が率いる和記電訊(ハチソン・テレコミュニケーションズ)は香港の固定通信関連資産を米インフラファンド運用会社のアイスクエアドキャピタルに145億香港ドル(約2030億円)で売却した。李氏は7月27日に412億香港ドル(約5768億円)でドイツのエネルギー管理会社イスタの買収を発表したばかり。近年、李氏は中国本土にある資産を次々と売却し、ヨーロッパを中心に投資を拡大させている。

中国国内経済界では、郭氏と李氏の「中国離れ」が今後中国経済の不透明感を表したと警鐘を鳴らす。

一部の専門家は、郭氏の「鴻海精密」の撤退は李氏の中国資産売却よりも、中国経済へのダメージが深刻だと懸念している。

中国は安価な労働力と土地を頼りに、「世界工場」になれた。EMS企業の代表格である富士康にとって、今までの中国のビジネス環境は魅力的だった。しかし、近年中国不動産価格の上昇で、現在中国の土地価格はすでに米国より高くなり、人件費も高騰した。「世界工場」としての優勢はすべて失った。

昨年、国内民間企業家の曹徳旺氏が投資額10億ドル(約1100億円)で米国オハイオ州に自動車ガラス工場を設立するのを発表した。曹氏は国内メディアに対して、米国の物流、エネルギーと法人税などのコストが中国より安いことや、工場の土地代がかからないことが投資を決めた理由だと示した。

専門家「中国の製造業の優勢が完全に失った」

 

国内経済評論家の斎俊傑氏は8月3日、ビジネス情報サイト「中国経営網」に投稿した。

斎氏は、世界各国の製造業をみると、工場のロボット化が今後大きな流れとなることから、富士康の米での新工場にもロボットが大量に投入されると予測した。「中国国内労働力の優位性は、人件費の高騰と科学技術の進歩で低くなっている」との見解を示した。

また、「李嘉誠氏は主に中国国内の不動産市場に投資してきた。しかし、富士康は製造加工業の大手企業だ。米での新工場が稼働開始した後、富士康が一定の収益が上がれば、富士康の後を追う中国企業が続出するだろう。なぜなら、中国と比べて米国での生産コストがより低いからだ。これは中国製造業にとって危機的な状況であり、中国製造業の優勢が完全に失ったことを意味する」と指摘した。

さらに、この状況の下で、中国当局が経済構造転換を早期実現できなければ、海外への工場移転をする企業が急増するとともに、中国市場に進出する外国企業が激減すると予想される。

「これは中国経済の最大な脅威だ。景気が悪化し、中国企業の工場が続々と海外へ移り、大量な失業者が出現することは、中国社会に計り知れない打撃を与える」と斎氏が強い懸念を示した。

台湾ビジネス界と在米中国経済専門家は、郭台銘氏が米国での工場建設を決定したのは経済的と政治的な考量があったと分析する。

経済的には、米製造業の国内回帰を目指すトランプ米大統領が規制緩和し、米への工場投資に関して積極的に誘致していることにある。富士康に製造業務委託する企業の多くは、アップル社などの米国企業だ。この点では、トランプ大統領の「メイド・イン・USA」政策に一致する。

政治的には、中国本土は中国共産党一党独裁の国だと挙げられる。市場と投資の面において、不確実性が常にある。「朝令暮改」が日常茶飯事だ。このリスクを回避するために、郭台銘氏が米への投資拡大を決めた一因になったとされる。

(翻訳編集・張哲)