[ストックホルム 5日 ロイター] – ノーベル文学賞を5日受賞した長崎県生まれの英国人作家カズオ・イシグロ氏(62)は、「びっくり仰天して喜んでいる」と受賞の驚きを語った。
「フェイク・ニュースの時代でもあり、最初はいたずらだと思って、(出版エージェントに)確認するよう頼んだ」とイシグロ氏はロンドンの自宅で記者団に語った。携帯電話でニュースを知った妻が、美容室から大急ぎで帰宅してきたという。
「そのうちに、スウェーデンから非常に感じのいい女性が電話してきて、まず私に賞を受けるか聞いた。何かのパーティーに招待しているかのような、とても控えめな感じだったので驚いた」と同氏は語った。
今回の受賞理由についてスウェーデン・アカデミーは、イシグロ氏の代表作「日の名残り」など一連の小説が「世界とつながっているという幻想的な感覚にひそむ深淵」を明らかにしたと評価。
受賞についてイシグロ氏は、「世界がその価値やリーダーシップ、安全についての不確実性を増しているなかで受賞した。この名誉を受けることが、少しでも、よりよくするための力となることを願っている」と語った。
また日本についても、「私はこの国(英国)で育ち、教育を受けたが、私の世界の見方や芸術的なアプローチの大部分は日本のものだと、キャリアを通じてずっと話してきた。なぜなら、私は日本人の両親に日本語で育てられたからだ」と述べた。
昨年のノーベル文学賞は米歌手ボブ・ディラン氏に贈られており、イシグロ氏の受賞は、同アカデミーが従来の文学解釈に回帰したことを示している。賞金は、約900万クローネ(約1億2400万円)。英国人作家のノーベル文学賞受賞は、2007年にドリス・レッシング氏が受賞して以来10年ぶり。
<オースティンとカフカを足した世界>
「彼は、この上なく優れた小説家だ。(19世紀の英小説家)ジェーン・オースティンと、(プラハ出身の小説家)フランツ・カフカを足すと、イシグロ氏になると思う」と、スウェーデン・アカデミーのサラ・ダニウス事務次官はロイターに語った。
「日の名残り」は、世界的に権威ある文学賞の一つである英国ブッカー賞を受賞し、俳優アンソニー・ホプキンズ氏の主演で映画化もされている。
アーサー王の時代の鬼や竜が棲むイングランドを旅する老夫婦を描いた直近の小説「忘れられた巨人」についても、同アカデミーは「記憶と忘却、歴史と現在、ファンタジーと現実の相関を探った」ものだと評価した。
現在はグラフィックノベルの執筆を検討していると語るイシグロ氏は、英国政治についてもたびたび発言しており、欧州連合(EU)からの離脱を決めた国民投票後の移民への敵意の高まりについて、「英国の魂を巡る戦い」だと述べている。
今回の受賞により、イシグロ氏は、アレクサンドル・ソルジェニーツィンやトニ・モリスン、サミュエル・ベケットやアーネスト・ヘミングウェイなどの過去の受賞者に肩を並べることになる。
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