アングル:サウジの汚職摘発、皇太子への権力集中で改革進展か

2017/11/07
更新: 2017/11/07

[ドバイ 5日 ロイター] – サウジアラビアはムハンマド皇太子率いる汚職対策委員会による王族や現職閣僚らの摘発が投資家の不安をあおり、金融市場に一時的な動揺を引き起こした。しかし摘発を契機に改革派であるムハンマド氏への権力集中が一段と進み、今後はむしろ経済改革に弾みがつきそうだとの見方も出ている。

新設の汚職対策委は、富豪のワリード・ビンタラール氏など王子11人や現職閣僚4人、元閣僚ら数十人を拘束。とりわけ富豪のワリード氏は米金融大手シティグループの株式を大量に保有し、サウジのビジネス界の「顔」とも言える存在だけに、身柄拘束は外国投資家にとって衝撃だった。

一方で国内投資家は、摘発が長期化して王族の不透明なビジネスにまつわるスキャンダルが白日の下にさらされ、関係者が株式の売却を迫られるのではないかと懸念を強めた。

ただ、銀行関係者やアナリストの間では、今回の摘発でムハンマド氏による権限の掌握と次期国王継承に向けて残っていた障害が取り除かれ、財政赤字の削減や女性の雇用拡大、国有資産の売却など大胆な改革を進めることが容易になるとの予想が広がっている。

5日のサウジ株式市場も摘発が伝わった当初は下落したものの、その後は持ち直し、結局小幅高で終わった。

投資銀行エキゾティクスの株式調査部門グローバルヘッド、ハスナイン・マリク氏は「サウジにおける権力集中の最新の動きだ」と指摘。前例がなく、物議をかもすだろうが、財政引き締めや改革といった課題を推進するにはこうした権力集中は不可欠だとの認識を示した。

<国民の支持拡大も>

サウジ経済には長いこと汚職問題がつきまとっており、今回の摘発でムハンマド氏は国民一般からの支持が高まりそうだ。

プリンストン大学のベルナード・ヘイケル教授(中近東)は「大衆迎合的な政策だが、理に適っている。王子やビジネスマン、官僚の多くは汚職に関わってリベートを受け取り、あらゆる怪しい案件に関与しているからだ」と話す。

金融市場にとっては恐ろしいのは、今回の取り締まりによって長年続いてきたビジネス慣行などが崩れることで、資金の流出や富裕層の国外脱出が起きれば逆効果になるかもしれない。

ヘイケル教授は、ビジネス界で指導的な立場にある人々が拘束されており、民間セクターが不安を強め、かつてないような資本逃避が起きるかもしれないと話す。

一方、企業幹部の多くは、ムハンマド氏が富裕層に対して、国外に溜め込んでいるドル資金を本国に還流するよう圧力を掛けるとみている。こうした資金はムハンマド氏が計画しているプロジェクトを立ち上げる資金になりそうだ。

<独断方式>

S・ラジャラトナム国際研究大学院のシニアフェロ―、ジェームズ・ドーシー氏は今回の摘発について、王族内や軍の内部で高まっていた改革への反発に対してムハンマド氏が反撃に出たと指摘。コンセンサスを無視した進め方に疑問を呈した。

しかしサウジで改革を進めるには、独断方式が最良との声が多い。地元大手銀行のチーフエコノミストは、改革がなかなか進まないことにムハンマド氏が業を煮やしていたことが摘発に結び付いたとの見方を示した。

例えば、サウジアラムコの5%株放出計画は、何カ月も話し合いが続いているのに具体的な動きがほとんどない。

アドバイザー業務を手掛けるMENAカタリスツのチーフエグゼクティブのサム・ブラティス氏は「今回外国投資家に送られているメッセージは、ムハンマド氏の改革失敗に賭ける投資は賢明でないというものだ。同氏はやりたいことがあればできると証明してみせた。これは権力の安定化ではなく、著しい強化だ。政策決定の推進力は加速する」と強調した。

(Andrew Torchia記者)

Reuters