[ベルリン 21日 ロイター] – つい半年前を見れば、欧州連合(EU)とユーロ圏の統合深化のための改革に向けた独仏首脳の足並みは見事にそろっていた。フランス大統領選に勝利したマクロン氏が欧州の再始動を約束し、首相4選が確実視されていたドイツのメルケル氏がこれに呼応する姿勢を表明していたからだ。
ところが今週、メルケル氏が率いる保守与党と自由民主党、緑の党の連立協議が決裂したことで、独仏主導による欧州改革が大きく前進する望みはかつてないほど薄れてきている。
メルケル氏の選挙プログラム策定に協力したエコノミスト、ジャン・ピサーニ・フェリー氏は「政治的な不透明感がライン川を越えて広がっている。欧州は明確な立場を持つ強力なドイツの政府がいることが当たり前になっていたが、それは当面なくなるかもしれない」と話した。
ドイツが今後しばらく政治空白に見舞われれば、ユーロ圏の統治改革やEUの防衛協力拡大、新たな移民政策の取りまとめなど既に合意への道筋が狭まっている問題は解決がさらに難しくなるだろう。
もしドイツが再選挙実施を余儀なくされた場合、新政権が発足する来年夏まで他の欧州諸国は協議することができない。そのころまでには欧州は、英国のEU離脱交渉で重大局面に突入する一方、長期的なEU予算を巡る議論への準備をしながら、欧州議会選挙への態勢も整えるという状況に置かれる。
ユーロ圏の指導者は12月の特別首脳会議で統合深化の議論を開始する予定で、EUのトゥスク大統領は来年6月までに何らかの結論を導き出すよう提案している。だがそうしたシナリオ通りに事態が進展する公算は乏しく議論は先送りされそうだ、と複数の当局者は話す。
あるユーロ圏の高官は「ドイツに国民の負託を受けていない政府しか存在しない中で、現時点で各国首脳が12月ないし来年6月にどんな動き方ができるのか見当がつかない」と打ち明けた。
<停滞する課題>
EUが加盟国の防衛協力強化のために打ち出した「常設軍事協力枠組み(PESCO)」の整備作業も、ドイツの政治空白の犠牲になる恐れがある。独仏両国は12月のEU定例首脳会議でPESCOの法制化のための署名にこぎ着けたいと考えていたが、外交筋の話ではもはやそれは高望みし過ぎる目標になった。
またドイツは2015年の欧州難民危機を踏まえ、EUの移民政策改革で中心的な役割を果たしてきた。現在でもイタリア、ギリシャなどとポーランド、ハンガリーの間で意見対立によって事態が紛糾している中で、ドイツが実質的な政権不在となれば、局面打開はほとんど期待できない。
欧州が抱える差し迫った問題のうち、恐らくドイツの政治空白で重大な影響を唯一受けないとみられるのはブレグジット(英のEU離脱)だろう。ドイツの主要政党間に幅広い政治的な合意が確立しているためだ。
つまり正式な政権発足まで暫定首相を務めることになるメルケル氏は、欧州委員会とバルニエ首席交渉官が主導する対英交渉において影響力を行使できる余地が十分にある。
<メルケル氏の選択肢>
欧州改革に関しては、ドイツでかろうじて3党連立政権が樹立されたとしても、メルケル氏がマクロン氏に対してどれだけ歩み寄れるか疑問が高まっていた。
その連立協議が決裂したことから、メルケル氏には今後3つの選択肢があるように見える。1つは社会民主党(SDP)を説得して再び大連立を組むこと、2つ目は緑の党もしくは自由民主党のどちらかと少数政権を立ち上げること、最後は再選挙に打って出ることだ。
今のところSPD指導部は、野党の立場を貫くという約束を撤回する気配は示していない。さらにメルケル氏は20日に少数政権を率いる可能性を排除しており、情勢が変化しなければ再選挙しか残された道はないかもしれない。
再選挙は来年3月ないし4月以降となる見通し。ただ足元の世論調査からすると、再選挙後もメルケル氏の連立に向けた選択肢が増えるわけではなさそうだ。実際に有権者が今回の連立協議失敗の責任がメルケル氏の保守与党にあるとみなせば、同氏の政治的立場はさらに弱まりかねない。そうなるとドイツの政治的な安定やマクロン氏が掲げる欧州改革の野望は、一段の逆風にさらされる。
(Noah Barkin記者)
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