焦点:禁断の大麻ビジネス、膨らむ商機に転身するエリートたち

2017/12/16
更新: 2017/12/16

Angela Moon and Chris Prentice

[6日 ロイター] – アラン・ガートナー氏は2年前、シンガポールでグーグルのアジア太平洋地域の営業チームを率い、1億ドル(約112億5000万円)を超えるビジネスを動かしていた。

現在、同氏はカナダのトロントにある小さなオフィスで1日をスタートする。大麻ビジネスのブランドを立ち上げ、ヴェポライザー(吸入器)や水パイプなど、最大価格が335カナダドル(約3万円)する高価な吸引器具を販売している。

ガートナー氏は、ITや金融セクターの高待遇な会社勤めを辞めて、急成長するマリフアナ業界へと転身した数多くの起業家や投資家の1人だ。

米カリフォルニア州で20年前、医療用のマリフアナが初めて合法化されて以降、大麻関連ビジネスは他業種から有能な人材を集め、米投資企業から大規模な資金を呼び込むことで発展してきた。新しいコモディティー指数は、大麻の相場データさえ提供している。

自身のキャリアチェンジについて、今でも驚かれることがあると、ガートナー氏は語る。彼の母親からは、「グーグルで他の仕事はなかったのか」と、聞かれたという。

それでも、この業界に根強く残るタブーや法的リスクにもかかわらず、ガートナー氏は「トーキョー・スモーク」の最高経営責任者として、10カ月で1000万ドルの資金を調達した。

年間売上高が現在約80億ドル規模の合法大麻市場は、2021年までに3倍の226億ドルに達する予想だ、と同業界を調査するアークビュー・マーケット・リサーチは指摘する。

そうなれば、米国で最も収益を上げているスポーツ、ナショナルフットボールリーグ(NFL)を上回る可能性がある。NFLの昨年の売上高は約130億ドルで、2027年までの目標は250億ドルだ。

調査会社CBインサイツによると、ベンチャーキャピタルによるマリフアナ関連企業向け投資件数は今年、現時点で少なくとも27件に上る。2016年は10件、2015年は9件だった。

こうした資金流入は、米国の合法マリフアナ業界で働く15万人の給料支払いに役立っている、と大麻関連ウェブサイト「リーフリー」は試算する。この業界の労働者数は昨年比で2割増加している。

1本20ドルの大麻入りチョコレートを製造する「デフォンセ・ショコラティエ」の創業者、エリック・エスラオ氏は、1年ちょっと前までアップル<AAPL.O>のシニア・プロダクション・マネジャーだった。

マリフアナ業界に転身することで自身のキャリアに傷がつくことを恐れる気持ちもあったが、それでも飛び込んだ。

「大きなチャンスを目の前にして見逃すわけにはいかなかった」

<法的リスクと課題>

 

米国では30州が娯楽用または医療用にマリフアナの使用を合法化しているが、連邦法は依然として所有・販売を禁止している。

マリフアナを巡り、トランプ政権は曖昧な姿勢を見せている。セッションズ司法長官が合法化している州での取引を取り締まると明言する一方、トランプ大統領は、同業界への介入に連邦予算を使用することを年内まで禁止している。

米国民の大麻合法化に対する支持は拡大している。ロイターとイプソスが10月27日─11月10日に実施した世論調査によると、少量のマリフアナ所有は「合法化されるべき」と考えている成人は54%に上り、5年前に行われた同様の調査での41%から増加した。

それでも連邦法が足かせとなり、マリフアナ関連企業が銀行サービスを受けるには困難が伴う。多くは現金で取引を行うか、高額な手数料を支払い続けている。

マリフアナ関連企業と取引する銀行は主に、合法化されている州のコミュニティー機関であり、サービスは預金に限られている。

大麻への投資は依然として富裕層の個人で占められているが、業界が成長するにつれ、ベンチャーキャピタルや、最近までマリフアナ関連企業に興味がなかった株式投資家を魅了するなど、その顔ぶれは変貌を遂げつつある。

大きく開かれたチャンスに、彼らは引き寄せられていると、ツイッター<TWTR.N>やバズフィードなど名の通ったメディア新興企業向け投資で知られる米ベンチャー投資会社レラー・ヒッポー・ベンチャーズのエリック・ヒッポー氏は話す。

「インフラ基盤も、何もないところから始まっている業界だ。前途有望な大麻関連のソフトウエア新興企業がたくさんある。こうした企業は簡単に稼げるだろう」

このような新興企業の一部は、栽培から販売までを管理する追跡システムのソフトウエアや在庫管理を提供している。ヒッポー・ベンチャーズは今年、マリフアナ薬局が在庫を仕入れるための市場を提供するB2Bプラットフォーム「リーフリンク」による300万ドルの増資に参加した。

大麻業界に好意的な他の有望なベンチャーキャピタルには、ペイパルの共同創業者ピーター・ティール氏が始めた「ファウンダーズ・ファンド」があり、同業界向けプライベートエクイティ(PE)ファンド「プライベティア・ホールディングス」に投資している。

米シリコンバレーの著名なベンチャーキャピタルである500スタートアップスやDCMベンチャーズ、そしてニューヨークに拠点を置くグレート・オークス・ベンチャー・キャピタルは、患者が医療用マリフアナを注文できる宅配アプリを提供するEazeに出資している。

「汚名は徐々に消えつつあり、テクノロジー分野の起業家や有能なエンジニアなど、本当の才能を持つ人材が出てきた」と、DCMベンチャーズのプリンシパル、カイル・ルイ氏は言う。

<リスクマネジメント>

同業界に投資する一部の投資家は、大麻そのものを栽培・販売する企業よりも、テクノロジーやサポートサービスを提供する企業に目を向けている。法的リスクが少ないからだ。

そのなかには、「ハイゼア」や「My420Mate」のようなマリフアナ使用者のためのデートアプリや、大麻の栽培方法を教えるアプリ「ウィーグロウ」などが含まれる。「HelloMD」は、医師とマリフアナを使用する患者をつなぐインターネット上のプラットフォームだ。

マリフアナ市場が成熟しつつあるという兆候の1つに、取引データを収集したり、指導価格を提示したりする情報サービスの発展がある。同様のサービスは、石油・ガスやトウモロコシ、綿など広くコモディティー市場に見られるものであり、市場参加者に相場のベンチマークとして使われている。

投資家はまた、北米大麻関連企業の上場投資信託「ホライズンズ・メディカル・マリフアナ・ライフ・サイエンシズETF」<HMMJ.TO>のような指数を利用して関連企業の価格推移を追うことも可能だ。

このETFは過去3カ月で約70%上昇。主なけん引役は、医療用大麻を栽培・販売するカナダ企業キャノピー・グロース<WEED.TO>やアフリア<APH.TO>で、両社の株価は今年それぞれ112%、132%上昇している。

「大麻ビジネスはリスク裁定取引と言える。リスクが高いが故に高リターンのチャンスが生まれる」。前出Eazeのジム・パターソン最高経営責任者(CEO)はこう語る。「投資家はそれを分かっている」

ただし、大麻合法化に対する支持が米国民のあいだで広がり、業界も雇用を創出し、税収入も上げていることから、長期的なリスクが低下する可能性がある。

米国民はまた、違法な大麻使用を防止することの無力さを一段と認識しつつあるようだ、と調査会社「ニュー・リーフ」の共同創業者で弁護士のイアン・レアード氏は言う。

「禁止措置の進化、あるいは撤廃は避けられない。それは、誰であれ入手を阻止するというようなものではない」

(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

 

 12月6日、ITや金融セクターの高待遇な会社勤めを辞めて、急成長するマリフアナ業界へと数多くの起業家や投資家が転身している。写真は9月、カリフォルニア州の麻薬見本市で撮影(2017年 ロイター/Lucy Nicholson)

 

 12月6日、ITや金融セクターの高待遇な会社勤めを辞めて、急成長するマリフアナ業界へと数多くの起業家や投資家が転身している。写真は9月、カリフォルニア州の麻薬見本市で撮影(2017年 ロイター/Lucy Nicholson)

 

 12月6日、ITや金融セクターの高待遇な会社勤めを辞めて、急成長するマリフアナ業界へと数多くの起業家や投資家が転身している。写真は9月、カリフォルニア州の麻薬見本市で撮影(2017年 ロイター/Lucy Nicholson)
Reuters