Yawen Chen Christian Shepherd
[忠県/宜興、中国 8日 ロイター] – 長江のほとりの丘陵地帯に広がる中国南部の地方都市・忠県は、当初の計画では「エコシティ」導入による町おこしによって、貧困から脱出するはずだった。
だが土地の権利を巡る地元政府との軋轢(あつれき)から、開発業者が緑をテーマにしたこの計画から撤退。後に残されたものは、建設途中で放棄された建造物と、廃棄物の山だった。
忠県の地元政府はいま、別の経済活性化計画を押し進めている。総工費14億元(約276億円)のオンラインゲーム向け複合施設を建設し、中国で急成長する「eスポーツ」市場で儲けようというのだ。
完成すれば、この施設は6000人を収容できるスタジアムのほか、ゲーム関連スタートアップ企業の支援拠点も併設する。だがこの街には、空港も鉄道駅もない。
人口100万人の多くが低収入に苦しむ忠県は、2020年までに1000の特別地区を設けるという中国政府の呼びかけに応じた多くの都市の1つだ。
中国政府は、内陸地の地元産業を中心とする、持続可能な地方経済を発展させようと計画している。だがその計画により、地方政府が抱えるリスク債務を統制する困難さも浮き彫りになっている。
政府の呼びかけに応えて地方政府が計画した産業振興策の中には、クラウド・コンピューティングや、チョコレート製造、伝統絵画など、さまざまな産業が含まれている。新興産業のほか、伝統産業や、自然環境を生かした観光による振興を目指すものもある。
経済的に遅れた地方の経済成長が、長期的に促される可能性はあるものの、エコノミストは、中央政府が解消しようと努めてきたリスク債務が新たに積み上がり、国内各地で扱いに困る案件が増大する結果を招くことを懸念している。
中国政府の広報官室を兼ねる国務院新聞弁公室は、ファックスによるコメントの求めに応じなかった。
忠県のような特区の多くは、正式認可を受ける前に計画に着手しており、潜在的リスクを拡大させていると、エコノミストは指摘する。
「こうした計画は地方発展を巡る不平等解消に役立つ可能性がある一方で、多くの人が特区ファンドを利用しており、財政的な混乱を招いている」と、中国のシンクタンクである中国グローバル化研究センターのアナリストGao Wei氏は話す。
中国の発展計画や、住宅問題、土地利用、環境保護を担う各当局は5日、地方政府の負債や不動産開発に対する偏重によってリスクが拡大しているとして、特区についての新たなガイドラインを出している。
鄭州市を拠点とする都市計画の専門家Guo Li氏は、最大6000カ所の特区計画が進められていると推計しており、発表された投資額の平均が30億元であることを踏まえると、投資総額は18兆元規模になるとみている。
忠県の場合は、財政担当部署が設立した代理会社を通じて資金を調達したことが、同社の公式登録情報から明らかになった。
こうした会社は、地方政府の資金調達手段として知られており、地方政府による借入規制を迂回することができる。だが監視当局は、こうしたスキームがもたらす透明性の欠如に懸念を表明している。
他の特区では、いわゆる官民パートナーシップを利用し、民間企業から投資を呼び込んでいる。中国政府はこの方式を好んでいるが、監視当局は、地方自治体の中にはパートナーシップを借入れ拡大の「隠れみの」として利用しているところもある、と懸念を表明している。
<地方の活性化>
比較的貧しい内陸地方を活性化し、繁栄する沿岸地域との格差を縮める試みは、習近平国家主席の政権下で加速している。習主席は、減速しつつある中国経済をけん引する、公平でクリーン、かつ持続可能な原動力となる産業を見つけるよう、地方政府に圧力をかけている。
習主席は最近、中国社会が直面する「主要な矛盾」は、「バランスを欠いた不適切な開発」と、「より良い生活を求める人々の拡大し続けるニーズ」にあると発言。格差縮小に向けた試みを改めて強調した。
この発言は、取り残された地方における持続可能な発展に向けた注力を官に促す、大きな政策転換であり、特区のような取り組みを過熱させる、と中国政治の専門家は受け止めている。
中国が製造業ブームを迎えていた時代は、靴下やクリスマス用のライトなどに特化した工場の周りに自然発生的に町が生まれ、単一産業都市として発展した。
今回の特区制度は、対照的に、政府の許認可制であり、地方政府や中央の担当官庁の承認が必要になる。1つの地方自治体が開発できる特区は、通常、特定産業に特化した3平方キロの面積に限定される。
報道によると、浙江省の特区5地区が8月、売上げや投資額、イノベーションの目標額が未達だとして、地方政府の担当当局から警告を受けた。
そのうち1つは、「ペットタウン」の特区構想で、犬小屋やリード、犬用の噛むおもちゃの製造販売や、骨の形をしたビジターセンターを建設して観光客を誘致する内容だった。この特区は投資に見合う収益を上げることができず、粗雑な建物建設に資金を使い過ぎたと報じられた。ロイターは、浙江省政府に接触することはできなかった。
<希望と疑惑>
忠県の住民は、ゲーム関連施設が収入を押し上げ、雇用を生むことを期待していると語る。地元政府は、まだ特別地区の申請を出していないが、手続きを進めているという。
忠県文化委員会のYu Hui氏は、特区計画はまだ初期段階にあるため、具体的な投資収益率などの目標は立てていないと語る。eスポーツ産業を選んだのは、大きな将来性を見込んだからだという。
急拡大する中国のゲーム産業は「必ずやわれわれの経済によい効果をもたらしてくれる」と、Yu氏は言った。
12月にオープンする忠県のスタジアムは、将来的にはゲーム競技会による賃料収入やチケット収入をもたらすと、Yu氏は話す。忠県は、政府が後援する中規模競技会「China Mobile E-sports Games」の決勝戦を今後5年間ホストする権利を得たという。
中国では、主要なeスポーツのイベントは上海などの大都市で開かれることが多い。最寄の主要都市重慶からの主な交通手段が所要時間3時間のバス便しかない忠県がファンを呼び込むのは、より困難だろう。だがYi氏は、スタジアムがオープンすれば、訪問者のためにシャトルバスを運行すると話す。
忠県は、ゲーム特区により、最低でも36億元の新たなビジネスや投資、観光客を呼び込む効果を見込んでいる。
太湖のほとりにある江蘇州宜興市丁蜀鎮は、すでに特区として政府の認可を受け、焼き物の「茶器の街」としての歴史を活用している。また、同時に小規模な航空産業を発展させるという、両輪作戦を取っている。
産業パークを設立した同市ではすでに、太湖用の小型水上機や航空機器を製造する会社が稼働している。市当局はさらに航空関連ビジネスを招致し、空港を建設したい考えだ。
とはいえ、最も期待をかけているのは、丁蜀鎮の焼き物産業だ。
宜興市の広報担当者は、航空産業パークは、焼き物特別地区とは別の独立した計画だと述べた上で、丁蜀鎮の経済発展をこのパークがより豊かなものにするだろうと述べた。
地元住民は、特区の指定がどう焼き物産業を後押ししてくれるのか不明だと話し、競争の激化を心配する。
「いまのところ、丁蜀鎮が特区になって変わったことは何もない」と、焼き物を売っていたZhangさんは話した。
(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)
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