[ニューヨーク 8日 ロイター] – トランプ米大統領が先週、他国から輸入する鉄鋼に対し25%、アルミニウムの輸入品には10%の関税を適用する方針を表明して以来、世界的な貿易摩擦が激化するとの警戒感から米金融市場は大きく動揺した。
輸入制限には共和党内部にも異論があり、諸外国も反発していたが、トランプ氏は8日、輸入制限に正式に署名、発動した。ただカナダとメキシコは除外、その他の国についても除外を申請することができるとした。当初計画ではすべての国を輸入制限の対象とするとしていた。
投資家はカナダなどが除外されたことについて、当初計画の緩和であり、北米自由貿易協定(NAFTA)やその他の自由貿易協定の交渉を有利に進めるための戦略、と指摘する。それでも、関税が引き金となって貿易摩擦が激化、報復合戦が勃発しかねないとの懸念は強い。
カンバーランド・アドバイザーズ(フロリダ州サラソタ)のデービッド・コトク会長兼最高投資責任者(CIO)は「カナダとメキシコが除外され、その他の国についても一定の柔軟性を持たせたのは良いニュース」と述べる一方で「輸入関税や割り当て、障壁というものが好ましくないことは事実だ。貿易戦争で勝者はない」との見方を示した。
以下に、トランプ大統領の関税構想がこれまで資産価格に与えた影響と、今後の市場への影響について、株式・ドル・債券別にまとめた。
<株式>
先月の10%調整の記憶が新しい米株市場は、それでなくとも相場が振れやすい環境にあった。そこにトランプ大統領が関税計画を打ち出し、貿易戦争への懸念が強まったことから、不透明感が一段と増した。
UBSのストラテジストは、貿易戦争がエスカレートすれば、将来の成長見通しと株式バリュエーションが押し下げられる、としている。
マーケットストラテジストらは、鉄鋼とアルミへの関税それ自体については、全般的な影響は限定的と考えている。しかし、コスト上昇が警戒され、機械や自動車など特定の産業の株価が圧迫された。
投資家の反応の1つは、国内事業が中心の米小型株を買うことだった。輸入制限が発表される1日前に当たる2月28日以来、小型株指数のラッセル2000<.RUT>は約4%上昇した。対象的に、多国籍企業も含まれるS&P総合500種指数<.SPX>は約1%の上昇にとどまった。
<ドル>
外為市場は一般的に、政府が貿易に介入することを嫌う。米政府がこれまでに保護貿易主義的な措置を導入した際にも、ドルは下落した。
アナリストによると、ドルにとって最大のリスクは資本流出。ドルは従来、安全通貨として新興国通貨に対する優位性を持っているが、リスク懸念が大幅に高まった際には、そうした優位性は失われかねない。
輸入制限が先週打ち出された後、ドルは大半の通貨に対して下落し、対円では2年超ぶりの安値水準に沈む場面もあった。トランプ大統領が正式に署名した8日は、カナダなど一部の国が除外されたことから安心感が広がり、ドルは通貨バスケットに対して0.5%上昇した。
<債券>
関税の米国債市場に対する影響は、他のアセットクラスほどには明確ではなく、通商制限が経済にどのように影響するのかにかかっている。関税によりインフレ圧力が強まれば、米連邦準備理事会(FRB)が追加利上げに迫られ、債券にマイナスに影響する可能性がある。
輸入制限で、米国債の大口保有国である中国などの貿易相手国を怒らせるリスクもある。中国が報復措置として、米国債の購入を減らしたり、保有する米国債を大量に売る可能性も否定できないが、アナリストらは今のところ、中国がそうした行動に出る公算は小さいとみている。
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