[東京 26日 ロイター] – 日本のファーストレディー、安倍昭恵氏はかつて、革新的な思想と言動で保守的な夫との対立も辞さないことで知られた。しかし今、彼女は自らが関わりを持った愛国的教育を看板にした学校への土地売却をめぐる疑惑で渦中の人だ。
大手製菓メーカー経営者の娘として生まれた昭恵氏は、政治家の妻は後ろに下がって陰の存在となってきたこの国で、米国型の公人としての「ファーストレディー」の役割を実践しようと試みた――そのリスクを必ずしも考慮せずに。彼女を知る人や評論家はこう見ている。
昭恵氏とボランティア活動を通じて知り合ったという、無農薬農業などに取り組むNPO法人の豊永有氏は「彼女の認識は、これまでの日本の総理大臣の妻とは違う」と指摘する。「男社会の中で『使える女』になろうとするのではなく、自立した人間として夫や社会と接触しようとしている」。
野党は今、昭恵氏の国会での証人喚問を要求している。森友学園に対し国有地を大幅に値引きし、官僚が公文書を書き換えたことが明らかになったこの問題で、安倍晋三首相の世論調査の支持率は低下している。
財務省は12日、公文書を書き換えたことを認めたが、書き換え後の文書からは昭恵氏に関する部分が削除されていた。安倍首相は、自分と妻はこの土地売却に一切関与していないと否定した。首相は、昭恵氏の証人喚問に応じるつもりはないとしている。
26日付の日本経済新聞朝刊によると、同社の世論調査で昭恵氏の国会招致が「必要だ」との回答は62%だった。安倍内閣の支持率は42%となり、不支持率が49%に上昇した。
2012年の第2次安倍政権誕生時から昭恵氏は、性的少数者(LGBT)のパレードに参加したり、原発に反対したり、沖縄の米軍施設建設反対運動の拠点を訪れたりと、リベラルな政治姿勢に同調する行動で話題となった。
有機野菜を使った料理を出す居酒屋を経営し、医療用マリフアナの合法化を支持する意見を述べたこともある。
<矛盾する思想>
こうした革新的な言動から昭恵氏は「家庭内野党」とも呼ばれ、安倍晋三首相のタカ派的なイメージをやわらげるのに一役かってきた。
他方、夫である安倍首相の保守的な政治的スタンスと同じような姿勢を取ることも多い。
中国と韓国が過去の日本の軍国主義の象徴とみなす靖国神社に参拝したこともある。安倍首相は2013年12月に一度靖国に参拝したが、それ以来、行っていない。
森友学園をめぐる問題が明らかになる前、昭恵氏は森友学園が開校しようとしていた小学校の名誉校長を務めていた。また、教育勅語をカリキュラムに取り入れた同じ経営者の幼稚園も訪問している。
昭恵氏を知る人は、こうした彼女の一見矛盾する思想に基づく言動は驚くにあたらない、という。豊永氏は「彼女は理論で行動するのではなく、好きかきらいか、という感覚で行動する」との見方を示した。
今月になって森友問題が再燃してから、昭恵氏はこの問題に直接コメントはしていないが、福祉をテーマにしたイベントに出席し、難病を抱える男性との対談の中で「私も過去を後悔したり、反省したりするが、後悔したり、先に起こることを心配したり、恐れたりするのではなく、日々の瞬間を大切にしたい」と語ったことがメディアで取り上げられた。
こうした言動は、自分が置かれている状況を理解していないのではないか、との批判を招いている。
森友学園の土地取引に関わった近畿財務局職員が自殺した可能性で、当局が捜査中と報道された3月9日夜、昭恵氏は芸能人の主催するパーティーに出席していたと一部で報じられた。昭恵氏の写真がこの芸能人のインスタグラムにアップされたが、その後削除されているという。
同じ日にまた、昭恵氏は国際女性デーのアートイベントに出席し、笑顔の自身の写真をフェイスブックにアップした。これに対し一般の人から「能天気」との書き込みや、「人殺し」とまで表現した書き込みが見られた。一方、彼女を支持するメッセージも多くあった。
スポットライトのあたる場所は少し避けたほうがいいのでは、と昭恵氏に助言する人もいる。
保守的なメディアとされる産経新聞の田北真樹子記者は20日付のコラムで「昭恵氏は多くの人が認める魅力的な女性である。従来の『首相夫人』の枠にはまらない自由な生き方は多くを魅了する」と書いた。
「しかし、いま、政権は窮地に立たされている。昭恵氏の不用意な言動は政府与党内だけでなく安倍首相を支持する層にも疑問符を広げ、政権の脚を引っ張りつつある」と指摘し、最後にこう締めくくった。
「首相夫人に対して大変僭越(せんえつ)ながら、ここは行動を自粛なさってはいかがだろうか」。
*カテゴリーを変更しました。
(リンダ・シーグ 翻訳:宮崎亜巳)
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