[ニューヨーク 29日 ロイター] – スポーツタイプ多目的車(SUV)の需要は米国で拡大を続けている。しかし各メーカーの新型車投入ペースはそれをしのぐ速さとなっているため、せっかくこれまで享受してきた大きな利幅が削られていく恐れがある。
今週開催されたニューヨーク国際自動車ショーでは、各メーカーが新しいSUVを披露。トヨタ自動車<7203.T>は主力SUV「RAV4」をアピールし、高級車ブランドのキャデラックやリンカーンのほか、かつては別格扱いだったフィアット・クライスラー・オートモービル<FCHA.MI>のマセラティ部門までもが新SUVの売り込み合戦に参入している。
米ゼネラル・モーターズ(GM)<GM.N>のキャデラック部門責任者、ヨハン・ダネイシン氏はSUV市場について「旺盛な需要があり、皆が同じ夢を見ている」と述べた。ダネイシン氏はキャデラックが投入する新型SUV「XT4」を紹介しながら「誰もがこの分野に魅力的な新型車とともに入り込もうとしており、勝者と敗者が出るのは明白だ。当社はもちろん、勝者になることを目指す」と主張した。
自動車コンサルティング会社LMCオートモーティブによると、2023年までに米国市場ではSUVとクロスオーバー車の標準モデルと高級モデルがいずれも90種類になる見通し。17年はそれぞれ65種類と53種類だった。
17年の米国市場でのSUVやクロスオーバー車の標準モデルと高級モデルの販売台数は10年から倍増し、ともに5─7%ずつ伸びた。一方で、全体の販売台数は2%減だった。
高級車のBMW<BMWG.DE>やメルセデスベンツ、フォルクスワーゲン(VW)<VOWG_p.DE>のアウディは、米国内のSUV工場で生産能力を拡張している。
ただLMCは、新型車の投入が増加する勢いだとしてもSUVなどの販売台数は今年から25年まで毎年、鈍化するとみている。また今後数年のうちには、年式が比較的新しいSUVがリース契約解除によって市場に戻ってくるため、新型車との販売競争が始まる。
自動車調査会社ケリー・ブルー・ブック(KBB)の幹部カール・ブラウワー氏は「リース契約が終わったSUVが増えれば、新車の価格設定にはさらに下落圧力が加わりそうだ」と指摘した。
予測調査会社オートフォーキャスト・ソリューションズのサム・フィオラーニ副社長は、もう少し楽観的。乗用車に対する消費者のニーズは細分化しており、SUVやクロスオーバー車市場が成長を続ければサイズ別や限定車、スポーティーなタイプなどを細かい区分で展開する余地が出てくるためだ。副社長は「市場はまだ飽和状態ではなく、満たされていないニッチなニーズはある。飽和状態になることを考え始めるのさえあと5─10年かかりそうだ」と述べた。
メーカー各社も、新モデルがひしめく中でも差別化はできるとの立場を維持している。
フォード・モーター<F.N>のリンカーン部門責任者、ジョイ・ファロティコ氏は「新規参入も多いが、当社ブランドは他とは全く異なる見た目で違いを打ち出せる」と自信を見せる。同社は19年に中型の新SUV「アビエーター」を展開する予定で、競合他社では自己主張の強いモデルが多い中、「美しさと物静かさ」を感じさせるデザインだという。
だが、KBBのブラウワー氏は「車種が増えればそれぞれの販売台数が減るのは明白なのは簡単な計算で分かる。多くの車種が全て売り上げを伸ばすのは無理で、どれかは(シェアを)差し出さざるを得なくなる」と厳しい見方を示す。
ブラウワー氏が注目するのは、SUVやクロスオーバー車の平均価格。KBBによると、1台当たりの平均価格は17年が3万5991ドルで、前年比0.5%低下した。
成長の減速がみられる市場で競争が激化する中、メーカーは値下げで販売数量を稼ぎ出すことを迫られ、必然的に利益率が圧縮される結果となる。
ブラウワー氏は「3年前と同じ利益が出せるとは思わないほうがいい」と警告した。
(Nick Carey記者)
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