焦点:東南アジアで相次ぐリゾート地閉鎖、観光客膨張で極限状態

2018/04/11
更新: 2018/04/11

John Geddie and Amy Sawitta

[シンガポール/バンコク 6日 ロイター] – フィリピンの人気観光地ボラカイ島が、同国のドゥテルテ大統領から「下水のたまり場」と呼ばれたことを受け、清掃のため6カ月間閉鎖されることになった。東南アジアのビーチリゾートを訪れる観光客が急増する中、観光地にプレッシャーが高まっていることを示している。

とりわけ海外で休暇を過ごす中国人が増えるなど、記録的な観光客数の増加により、東南アジア地域のインフラ設備は悲鳴を上げていると、観光専門家は指摘。さらに思い切った措置が今後とられると予想している。

空港はカオス状態、ホテルは安全面や衛生面を軽視し急場しのぎで建設され、ビーチはごみにまみれ、サンゴ礁は死にかけている。

タイはすでにピピ島にある有名なマヤ湾を4カ月閉鎖する計画を明らかにしている。また、インドネシアの観光地バリ島の「危機」に取り組むよう、環境保護団体は同国政府に訴えている。

「アジアでは、コントロール不能となっている多くの観光地の浄化が必要となるだろう」と、香港理工大学のホテル・観光経営学部のブライアン・キング副学部長は指摘。「それは政府や業界、あるいはNGO主導の地域活動によるものかもしれない。深刻な事態になるまで行動をほとんど起こさない恐れがある」

「ボラカイ島の閉鎖ケースは初めてでも最後でもない」とキング氏は付け加えた。

航空各社は4月26日の閉鎖を前に、すでにボラカイ島へのフライトを削減し始めている。同島には昨年、観光客200万人が訪れた。最も多い外国人観光客は中国人と韓国人だ。

2桁成長の3年間を経て、昨年は記録的な観光客数の増加を見たフィリピンは、ボラカイ島の閉鎖により、国内総生産(GDP)が年間で0.1%削減する可能性があると試算している。

同国はまた、ミンドロ島のビーチリゾート地プエルト・ガレラの調査も計画。パラワン島のエルニドとコロンの調査にはすでに着手している。パラワン島のこれらリゾート地は、観光客の流入と急速な開発により、インフラに負担が重くのしかかっている。

だが、同地域で競合する他の人気観光スポットは、こうした閉鎖で回ってくる観光客による収入増を手放しで喜んでいるわけではない。

タイ・プーケット島の観光当局責任者であるKanokkittika Kritwutikon氏は、島が「極限状態」にあると話す。同島では近年、特に空港を何度も改良し、処理能力を上回る利用客に対処しようとしてきた。

プーケットからあまり知られていない目的地へと観光を分散させるのが当局の政策方針だとKanokkittika氏は説明。「空路でやってくる観光客のほか、クルーズ船など海路で訪れる人もいる。プーケットにどれだけの観光客がいるか想像できるだろう」

観光客や温暖化でダメージを受けたサンゴ礁を保護するためのマヤ湾閉鎖は、タイでは2016年の10カ所の人気ダイビングスポットの閉鎖に続くものだ。これらダイビングスポットは、最大8割のサンゴ礁が白化しているとの国立公園局による調査を受けて閉鎖された。

また、タイ首都バンコクの南にあるパタヤも教訓を与えてくれる。

パタヤには1960年代から西側諸国の観光客が流入し始めた。ベトナム戦争の従軍兵士が休暇中に訪れるようになったのだ。その後、1990年代の建設ラッシュにより、絵のように美しかった漁村は怪しいナイトライフと高い犯罪率で知られる街へと変貌と遂げた。

タイ観光省は、今年の観光客数について、史上最高を記録した前年の3500万人を上回る3755万人と予想。昨年の観光客のうち、980万人は中国人だった。

<遅すぎた閉鎖>

 

ボラカイ島とマヤ・ビーチの閉鎖は「テストケース」となる可能性があり、人気ビーチリゾートを抱える他の諸国は注視するだろうと、シンガポールの大学テマセク・ポリテクニックのビジネススクール講師を務める観光学が専門のベンジャミン・カシム氏は指摘する。

インドネシアの非営利団体は、政府に対し、同国で最も人気のあるバリ島の「環境危機」に取り組むよう訴えている。同島には昨年、550万人以上が訪れた。

インドネシア当局は、バリ島の稲田をゴルフコースや別荘などに変える無計画な開発を許したとして長年批判を受けている。年に数カ月、ビーチは海から打ち上げられたプラスチックのごみでいっぱいになる。

にもかかわらず、ウィドド大統領は景色の美しい自国の他地域に10カ所の「新しいバリ島」建設を推進しようとしている。

「バリ島の環境状態は現在、加速度的に悪化が進んでいる」と、同国の環境NGO「Indonesian Forum for Environment」のI Made Juli Untung Pratama氏は指摘。

「原因は、バリの環境を適切に考慮せずに行われる大規模な観光宿泊施設の建設にある。そのような開発がバリに環境危機をもたらしている」と同氏は語った。

ボラカイ島のような観光地の閉鎖は、今に始まった事態ではない。マレーシア当局は2004年、世界有数のスキューバダイビングの名所があるシパダン島の全ホテルを閉鎖した。同島の生態系を保護するためだ。その後、観光客の数も制限した。

しかし、このような徹底的な対策は遅きに失することがしばしばで、地域全体でより持続可能な解決策が必要だと指摘する声もある。

「積極的な環境保護対策は、後手に回る対策よりもはるかに効果的なアプローチだ」と、観光コンサルティング会社「ホーワスHTLインドネシア」のマット・ゲビー氏は指摘。

「サンゴ礁や侵食されたビーチ、荒廃した森林を6カ月で回復させることなどできない。積極的な保護こそ、リゾート地の長期的な持続可能性には不可欠だ」と同氏は語った。

(翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)

 

 4月6日、フィリピンの人気観光地ボラカイ島が、同国のドゥテルテ大統領から「下水のたまり場」と呼ばれたことを受け、清掃のため6カ月間閉鎖されることになった。東南アジアのビーチリゾートを訪れる観光客が急増する中、観光地にプレッシャーが高まっていることを示している。写真はボラカイ島のビーチ。8日撮影(2018年 ロイター/Erik De Castro)

 

 

 4月6日、フィリピンの人気観光地ボラカイ島が、同国のドゥテルテ大統領から「下水のたまり場」と呼ばれたことを受け、清掃のため6カ月間閉鎖されることになった。東南アジアのビーチリゾートを訪れる観光客が急増する中、観光地にプレッシャーが高まっていることを示している。写真はボラカイ島のビーチ。8日撮影(2018年 ロイター/Erik De Castro)

 

 

 4月6日、フィリピンの人気観光地ボラカイ島が、同国のドゥテルテ大統領から「下水のたまり場」と呼ばれたことを受け、清掃のため6カ月間閉鎖されることになった。東南アジアのビーチリゾートを訪れる観光客が急増する中、観光地にプレッシャーが高まっていることを示している。写真はボラカイ島のビーチ。8日撮影(2018年 ロイター/Erik De Castro)

 

Reuters