[東京 5日 ロイター] – 米朝首脳会談に臨むトランプ米大統領が朝鮮戦争の終結宣言に意欲を示したことで、日本では在韓米軍の撤退につながることを懸念する声が出ている。東アジアにおける米国の防衛線が後退し、日本が中国やロシアと直接向き合う「最前線国家」になる恐れがあるためだ。6日から訪米する安倍晋三首相は日本の考えを改めてトランプ氏に伝え、情勢認識をすり合わせたい考え。
<幻のアチソンライン>
「北朝鮮と平和協定が締結されれば、在韓米軍の存在を正当化し続けることは難しい」──。4月下旬、米国の外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」にこんな記事が載った。寄稿したのは、韓国大統領府の文正仁・統一外交安保特別補佐官。文在寅大統領の側近で2000年、07年の南北首脳会談にも同行した重要人物だ。安全保障環境を大きく変えかねない主張に、日本の関係者の間では衝撃が走った。
1953年に停戦した朝鮮戦争は、65年が経った今も休戦しているにすぎない。南北は4月下旬の首脳会談で、年内の終戦宣言を目指すことで合意。トランプ大統領も米朝会談を今月12日に開くことを発表した際、戦争を終結させることに前向きな姿勢を見せた。休戦協定が終戦宣言を経て平和協定に転換されれば、韓国防衛を主目的とする米軍が駐留する根拠は乏しくなる。
「アチソンラインが現実のものになるかもしれない」、「日本はフロントライン・ステート(最前線国家)になる恐れがある」──。
安倍政権に安全保障政策を助言する日本政府の元高官はこう語り、日本は在韓米軍が撤退する可能性に備えるべきだと指摘する。
アチソンラインとは、米国が冷戦初期に西太平洋に引こうとした共産圏に対する防衛線。アリューシャン列島から日本、沖縄、フィリピンを結び、韓国は除外された。1950年1月にアチソン国務長官が演説の中で表明してから5カ月後、北朝鮮は38度線を南下して韓国に攻め入った。
朝鮮戦争の勃発でアチソンラインは幻となり、韓国は日本にとって緩衝地帯となったが、これから「米軍が韓国防衛への関与を減らせば、朝鮮半島が中立化するリスクが出てくる」と、政策研究大学院大学の道下徳成教授と指摘する。「中立化された朝鮮半島は、長期的には中国の勢力圏に落ちざるを得ない」と同教授は話す。
<38度線が対馬に南下>
「つまり、38度線が対馬海峡まで南下してくるということだ」と、自民党の河井克行・党総裁外交特別補佐は懸念する。「日本は憲法、外交政策、安全保障政策を根本から見直す必要が出てくる」と河井氏は言う。
安倍首相は、米朝首脳会談を控えるトランプ大統領と7日に会談する。拉致問題、日本を射程に収める中・短距離弾道ミサイルの廃棄、在韓米軍の取り扱いなど、トランプ氏に日本の懸案を改めて伝え、金正恩・朝鮮労働党委員長と拙速な合意をしないよう念押しする見通しだ。
「トランプ大統領は秋の中間選挙と大統領再選に向けて頭がいっぱいかもしれないが、(安倍)総理は、金委員長との間で結論を急ぐなと助言するだろう」と官邸関係者は言う。「われわれとしては、大統領が何かを決める前には、必ず日本と韓国に相談してもらいたい」。
6月2日にシンガポールで講演したマティス米国防長官は、米朝会談で在韓米軍の問題が取り上げられることはないと強調した。
その一方で「北朝鮮による脅威が減少し、検証可能な形で信頼関係が醸成された場合には、米韓の間でこうした議題が浮上する可能性はある」と付け加えた。
(久保信博、ティム・ケリー、リンダー・シーグ 編集:田巻一彦)
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