Christine Kim and Joori Roh
[ソウル 10日 ロイター] – 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長とトランプ米大統領が12日開催する首脳会談の最大の焦点は、北朝鮮の非核化だ。だがシンガポールに降り立った北朝鮮政府の要員にとっての最重要事項は、もっと狭い範囲に絞られている。
それは、彼らの指導者を守ることだ。
トランプ大統領と初の会談に臨む金委員長のセキュリティは、最大限に厳しいものになり、4月27日に行われた南北首脳会談を上回る手段が講じられる可能性が高いと、専門家やアナリストは予想する。
4月の南北首脳会談では、金委員長が乗ったメルセデスベンツが南北軍事境界線を移動するたびに、その周りを取り囲むように走って警備していた細身の男性ボディガード12人が国際的な注目を浴びた。
このような目立つ警備は、テレビの生中継向けの演出という側面が大きかったかもしれない。だが、指導者となって以降、中国と韓国以外では初となる金正恩氏の外国訪問に際し、北朝鮮の政府関係者がいかなるハプニングも未然に防ごうと全力を挙げることは、ほぼ間違いないと、韓国体育大学校のKim Doo-hyun教授は言う。
「首脳会談の場所と時間はすでに発表されているので、金正恩の警備は他のどんな要人よりも厳しくなるだろう」と、韓国の大学で初の警備に関する専攻を創設したKim教授は指摘。「警備について、北朝鮮は米国よりも多くの要求をシンガポールに対して行ったと考えていいだろう」と付け加えた。
防弾仕様の車両に加えて、北朝鮮の警備担当者は、首脳会談会場の周辺に何重にも警備を張り巡らし、金正恩氏の車両が移動する際は、その車両から周辺の注意を逸らそうとするだろうと、Kim教授は予想した。
「この首脳会談は、いま世界で最重要の問題であり、地上、海上、そして上空で、前例のない規模の警備が敷かれるだろう」と、韓国の著名警備会社トップガードのChae Kyou-chir最高経営責任者(CEO)は話す。
「金正恩は、北朝鮮では神のような存在であり、一方、国外ではその統治姿勢が理由で敵意の対象になっている。それだけで、北朝鮮政府関係者は、常に安全を心配しなければならない」とChae氏は指摘した。
また、金委員長はは、自国から同行するシェフが準備した食事をとる可能性が高いと、Chae氏は付け加えた。
シンガポールで米側との警備の詳細も含んだ事前協議を終えた金正恩氏の秘書役の金昌善(キム・チャンソン)氏の姿が、先週には北京で目撃されている。
シンガポールに向かう機中で、金昌善氏は日本のTBSテレビに撮影されたが、その際目を通していた書類には、このように書かれていた。「(米朝)首脳会談の成功を保証するため、 第1と第2のプライオリティーは、金正恩委員長の安全を確保することだ」
安全確保に加え、北朝鮮の代表団は、金正恩氏のイメージ作りのために、警備担当者の陣容を調整する可能性もあると、韓国に脱北して今は世界北朝鮮研究センター所長を務める安燦一(アン・チャンイル)氏は言う。
「金正恩氏は、より親しみやすいイメージを演出するため、容姿の優れた女性ボディガードを同行させるかもしれない」と安氏は話る。
そうなれば、南北首脳会談後に韓国で改善した金正恩氏のイメージがさらに和らぐことになりそうだ。
<シンガポールの支援>
4月の南北首脳会談では、南北軍事境界線がある板門店の韓国側施設「平和の家」で、北朝鮮の警備担当者が、金正恩氏が記帳するために座る椅子を拭いて消毒。その際、芳名録や用意されたペンも消毒したが、金氏はそのペンは使わなかった。
別の警備担当者が、爆発物や録音機器を探知する装置を使ってこの部屋を調べる姿も目撃されている。
「4月の時と同じ規模の北朝鮮警備陣や安全プロトコールが用いられるかもしれない。だが今回は、特殊車両やスタッフなどはシンガポールに支援してもらうだろう」と、国家安保戦略研究院の主席研究員チョ・ソンリョル氏は予測する。
シンガポールの首脳会談の会場や、道路、ホテルの警備は、シンガポール警察の精鋭部隊「グルカ兵」が担うことになると、シンガポールの要人警備に詳しい外交筋は話した。
首脳会談が行われるシンガポール南部のリゾート地セントーサ島は、週内はシンガポール政府により特別行事区域に指定されている。
そのため、警察は通行者やその所持品をより厳重にチェックすることになるほか、域内では拡声器やドローンの使用が禁止されている。
チョ氏は、世界でもっとも安全な国の1つに数えられるシンガポールが、北朝鮮側に安全な場所を提供するのに苦労することはないと指摘する。
シンガポールの航空当局が6日に出した航空関係者向けの予告によると、シンガポール上空の飛行は首脳会談開催中は制限される。アジアで最も発着数の多い空港の1つであるシンガポールの空港で、遅延が発生しそうだ。
(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)
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