[東京 2日 ロイター] – 安倍晋三首相が2日に行った内閣改造と自民党役員人事は、留任する主要閣僚と党三役が多く、手堅さを前面に押し出している。ただ、詳細に点検すると、目に付くのは安倍首相の憲法改正に対する強い執念だ。
その政策実現のカギを握るのが、首相側近の加藤勝信総務会長と甘利明選挙対策委員長の2人であるとの見方が自民党内に広がっている。また、来夏の衆参ダブル選を想定する声も出始めた。
今回の人事の「目玉」について、ある与党関係者は「加藤・甘利両氏の重視だろう」と解説する。そこから浮かび上がるのは、安倍首相の憲法改正にかける思いの強さだという。
自民党の憲法改正推進本部長には、首相側近の下村博文・元文部科学相を起用し、同党の改憲案とりまとめの際に、安倍首相の意向が反映されやすい布陣を敷いた。
さらに自民党案として正式決定する際の「関門」となる総務会の議事運営をリードする総務会長に加藤氏を任命した。
ある経済官庁幹部は「やはり首相が最もやりたい政策は改憲(実現)なのだろう」との感想を漏らした。
加藤総務会長は2日の自民党新役員・共同記者会見で「自民党は国民政党だ。国民の意見をそれぞれの議員が政策に反映させ、党で活発な議論をし、決める時には結論を出す」と強調。
党内の憲法改正議論について、3月の党大会で条文素案をまとめた「改憲4項目」を引き合いに「各党への(協議の)呼びかけと並行して、党憲法改正推進本部で議論を深めることになるのだろう。安倍首相の指示を踏まえながら議論が深まっていく。関心を持って注目する」と述べた。
複数の与党関係者は、憲法改正がデフレ脱却、拉致問題解決と並ぶ安倍政権の3本柱であり、政権の求心力を維持していくため、その旗を掲げ続ける必要があると解説する。
ただ、連立与党・公明党の山口那津男代表は9月30日の党大会で、憲法9条改正について「緊急になされるべきとは、必ずしもいえない」と表明した。
公明党が積極姿勢に転じないまま、臨時国会で改憲案の審議を進めていくことは「かなり難しいだろう。改憲の早期実現は、相当にハードルが高い」(別の与党関係者)との見方が少なくない。
一方、甘利選対委員長に対しては、来年4月の統一地方選、夏の参院選を重視し、「必勝態勢」を取ったとの受けとめ方が多い。
9月30日投開票の沖縄県知事選で、与党系候補が8万票余りの大差で敗れ、自民党内では来夏の参院選で焦点となる「1人区」の動向が読みづらくなったとの観測が台頭。さらに6年前は、安倍政権の再登場直後の「ブーム」もあり、自民党に強い追い風が吹いていた。それらを勘案すると、大物・甘利氏の実行力で、選挙態勢を強化する必要があったとみられている。
ただ、自民党内では、来年10月実施予定の消費税10%への引き上げが、与党に不利に働くのではないかとの懸念も少なくない。このため、リフレ政策を強く支持する議員などを中心に「増税再延期とセットで、衆参同日選挙を行うのではないか」(別の与党関係者)との観測も絶えず、甘利選対委員長の人事によって、そうした見方が増幅される可能性もある。
他方、今回の内閣改造・党役員人事では、安倍色が当初の想定よりも弱くなったのではないかとの分析もある。
複数の与党関係者によると、一時は「甘利政調会長」説も流れていたという。しかし、岸田文雄氏の続投に落ち着いたのは、自民党総裁選で石破茂・元幹事長が地方票の45%を獲得。安倍首相が「安全運転」志向に傾いた結果ではないかとの受け止めも出ている。
また、総裁ポストを争ったグループに、人事で配慮する必要はないとの声が安倍首相を支持する派閥から出ていたとされるが、結果的には石破派から山下貴司法務政務官を法相に起用した。
今回の改造人事では、安倍内閣として最多の12人が初入閣となった。入閣適齢期とされる衆院当選5回以上、参院当選3回以上で閣僚経験のない「待機組」が80人程度いるなかで、閣僚になれなかった議員の不満を最小化するため、初入閣を増やさざるを得なかったとの評価が、自民党内では多い。
10月下旬には臨時国会が召集される予定で、野党側は9月26日の日米首脳会談で決まった新日米通商交渉の開始を巡り、政府の主張に矛盾点があるのではないかと「手ぐすね」を引いて待ち受けている。
改造後の新メンバーは、早速、その真価を問われることになりそうだ。
(竹本能文※)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。