世界大手検索エンジン・グーグルの最高経営責任者(CEO)は、物議をかもしている中国向けの検閲機能付き検索エンジン開発の可能性を排除していない。個人情報が共産党に利用される恐れがあるとして、米政府や議会、社内からも懸念する声が上がっている。
グーグルCEOサンダー・ピチャイ氏は11日、下院司法委員会の公聴会で証言台に立った。「私たちは内部努力を図っている。現在は中国で検索サービスを立ち上げる予定はない」と同氏は述べた。しかし、再参入のチャンスを模索していることを示唆した。
ネットメディア・インターセプトは今年8月、内部告発者の話として、グーグルは中国再参入のために、「トンボ(Dragonfly)」と名付けられた中国当局承認の検閲システムを搭載した検索エンジンを開発していると報じた。報道を受けて議員、人権団体、社内からも批判の声が噴出した。ペンス副大統領は10月の対中政策演説で、トンボ開発の即刻中止を提言した。
社会主義体制の中国で、海外企業が参入する場合、自由主義や民主主義、人権、現在進行中の法輪功弾圧、チベットやウイグルなど民族弾圧の情報にアクセスする手立てを遮断している。こうした弾圧は法律を超越して共産党が決定している。同時に、海外企業は所有するデータや技術が当局や中国企業との共有を余儀なくされる。
インターセプトに語った内部告発者によると、「トンボ」では中国当局の検閲システム「グレート・ファイアウォール」で禁じられたサイトやキーワードが、自動的に表示されない仕組みという。
ピチャイ氏は、グーグルが中国の関係者と検索エンジン開発について議論していないと述べた。しかし、「内部努力の最中」と述べていることから、計画が進行中であることを示唆させる。ピチャイ氏は、トンボ計画の責任者を明かさなかった。現段階では、社内の調査チームによる限定的な行動だという。
デビッド・シシリン議員が今後、グーグルが中国で検閲機能付きツールを立ち上げるのかと尋ねたところ、ピチャイ氏は次のように述べた。「会社は利用者に情報を提供するという重要な使命がある。私たちは思慮深く進歩していきたい」
グーグルは2006年から2010年まで中国ドメインGoogle.cnを所持していた。しかし、中国由来のサイバー攻撃がグーグルの電子メールを狙ったとして、撤退を決定した。対象となったメールは中国の人権活動家のアカウントだった。
グーグル創業者セルゲイ・ブリン氏はサイバー攻撃事件について「全体主義を彷彿とさせる」と強く批判した。ブリン氏はソ連生まれ。2010年、グーグルは中国から撤退した。
中国は世界で最悪レベルの人権問題を抱える国のひとつ。近年、ウイグル人、地下教会のメンバー、法輪功学習者に対する弾圧が深刻化する一方だ。
全体主義による危険性を感じ取り撤退を決めたグーグルだが、中国の人権状況が改善されていないにもかかわらず、中国の再参入を選択しようとしている。8月31日、ピチャイ氏は複数の議員への文書回答で、共産主義体制の要求と表現の自由との間に「バランス」を見いだしながら、中国のビジネスを拡大するとの展望を説明した。
(文=ペートラ・スバブ/翻訳編集・佐渡道世)
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