カナダのトロント大学でこのほど、学生会長に就任したチベット出身の女子大生が、中国人留学生から抗議を受け、騒動となった。また、別の大学で開催された講演で、中国人留学生がウイグル人のスピーカーに暴言を浴びせた。一連の出来事の背後に中国共産党政権の影が見え隠れしており、カナダや米国で関心が高まっている。
チベット出身の新学生会長を中傷
カナダのトロント大学スカボロ校(UTSC)心理学専攻の学生で、4年のチェミ・ラーモ(Chemi Lhamo)さんが最近、学生会長に選出された。同氏はチベット出身で現在カナダ国籍を持つ。一部の留学生は、ラーモさんは「フリー・チベット」の賛同者だと批判し、ネットで同氏の辞任を求める署名活動を展開した。14日の時点で、1万人以上の署名が集まった。
同大学の学生新聞「バーシティ(The Varsity)」10日付によると、学生会新会長の発表前から、同氏のインスタグラム・アカウントに、英語と中国語で書かれた人種差別の言葉や誹謗(ひぼう)中傷のコメントが数多く書き込まれた。
ラーモさんは「バーシティ」に対して、新会長選挙が始まった翌日から、非難のコメントが増えたと述べた。「私個人の安全よりも、カナダ人の持つ権利が脅かされた事態に不安を覚えた」と話した。
ウイグル人活動家への攻撃
マクマスター大学(McMaster University)では2月11日、カナダ・ウイグル人協会の会長を務めた女性ウイグル人活動家、ルキエ・トールダッシュ(Rukiye Turdush)氏は、中国新疆ウイグル自治区の「再教育施設」について講演した。講演中、中国人の留学生数人が会場に入り、うち1人がトールダッシュ氏に対して大声で暴言を吐いた。
その後、マクマスター大学の中国学生・学者聯誼会(CSSA)など5つの中国人留学生団体が共同声明を発表した。声明は、大学側が開催した同講演について「反中講演」と糾弾した。また、講演の開催を「12日に、駐トロント中国総領事館に報告した」としている。
いっぽう、ドイツメディアのドイチェ・ベレ(14日付)は、匿名の留学生からの情報を引用し、駐カナダ中国大使館は講演について、留学生にさまざまな指示をしたと報じた。
同報道によると、中国大使館側は「講演開催時に大学の担当者がいるか」「主催側に華僑がいるか」「講演内容を撮影し録音する際、安全対策を講じるよう」「常に連絡し報告するよう」などと命じた。留学生らは、ソーシャルメディアのウィーチャット(WeChat)を通じて、大使館からの指示を共有した。
トールダッシュ氏は大紀元に対して、留学生が中国大使館に利用されていることに「非常に不安を感じる」と述べた。また、「中国当局は、留学生を通して共産主義のイデオロギーをカナダまで拡散しようとしている」と危惧した。
カナダの公共放送CBC15日付によると、マクマスター大学側が同事件について調査を始めた。同大スポークスマンは、「校内で開催されたイベントが監視されたことを懸念している」と述べた。
利用される中国人留学生
中国共産党政権は中国人留学生や中国系住民を利用して、各国で影響力拡大を図っている。
カナダ在住の中国人ジャーナリスト、盛雪氏は大紀元の取材に応じ、この度の一連の出来事は「その典型的な例だ」と述べた。
「中国当局は国内にとどまらず、海外にいる中国人も支配している。国際社会でこのようなネットワークが出来上がっている。中国当局は金品、利益、どう喝、虚言などの手法で海外の中国人をコントロールしている」
「中国人留学生が真っ先に利用されている」。留学生は現地の華僑と違い、中国籍であるため外国政府に守られることがなく、なかには将来帰国する人も多くいるため、中国当局にとって利用しやすいのだという。
いっぽう、盛雪氏は中国人留学生に強く同情した。「留学の目的は、中国国内の政治環境にない、自由・民主などの理念を学ぶことだった。しかし、自由な国に来ても、中国当局に植え付けられた考え方で物事を理解しようとする」
中国統一戦線工作とCSSA
中国政治に精通する大紀元コメンテーターの横河氏は、「中国学生学者聯誼会(CSSA)」は中国当局が中国人留学生を支配するツールそのものだと強調した。
2015年、中国当局が開いた「党中央統一戦線工作会議」で、習近平国家主席は中国人留学生を、統一戦線工作の重点対象と位置付けた。
2017年、米国のカリフォルニア大学サンディエゴ校がチベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世を卒業式に招く計画に対して、中国人留学生が強く反発した。同校のCSSAも同様に、中国の総領事館に報告した。
横河氏によると、2017年オーストラリア放送協会(ABC)時事報道番組「フォー・コーナーズ(Four Corners)」の記者が同国シドニー大学のCSSA会長を取材した際、「民主化活動に参加した留学生にどう対処するのか」と質問した。CSSAの会長は迷わずに「(中国の)領事館に報告する」と答えたという。
「CSSA幹部の多くは、中国国内にいたとき、すでに学生幹部であった。中国当局の政策に詳しいため、指示がなくても、中国当局の意向に沿って動いている。CSSAを直接管轄しているのは中国大使館または領事館の教育関連部門だ。少なくとも米国のCSSAの経費は、中国大使館からもらっている」
横河氏によると、自らCSSAに加入しようと思う中国人留学生は実に少なく、多くは周りに流されて加入した。なかには、中国当局からの圧力や脅迫を受けて、CSSAに入った人もいる。また、熱心に活動しているのはCSSAの責任者や幹部だけで、多くの中国人留学生は受動的な立場にいるという。
横河氏は、西側諸国の政府は中国人留学生を監視し利用するCSSAの幹部らを厳罰するよう呼び掛けた。
(翻訳編集・張哲)
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