竹本能文
[東京 26日 ロイター] – 日米首脳は25日の会談で通商交渉の大枠で合意、9月にも予定されている次回の首脳会談で署名を目指す方針を確認した。来年に大統領選を控え、通商面での成果を急ぐトランプ大統領に配慮し、早期決着を演出した恰好だ。ただ、焦点の自動車では、米国の輸入関税撤廃が先送りされたほか、日本車に対する追加関税の発動回避の確約は取れていないもようで、発動期限の11月まで日米間の交渉が引き続き注目される。
<大統領選配慮、早期合意演出>
主要国(G7)首脳会議(サミット)に合わせフランス・ビアリッツでトランプ大統領と会談した安倍晋三首相は、会見で日米通商交渉が原則で合意したと明らかにし、9月の国連総会前後に予定されている米国での首脳会談で署名を目指す方針を強調した。
戦後、日米間の通商交渉は日本側に厳しい結果となった例が多く、与党内では「日米通商交渉で合意を急ぐ必要はまったくない」との声も多かった。それでも安倍首相や茂木再生相が大筋合意を急いだのは「9月までに合意しないと、日本側で関連法案を臨時国会で通すことが出来ず、再選を目指すトランプ大統領に好ましくないため」(政府高官周辺)。米国は「中国・EUとの通商交渉が座礁しかかっているなか、日本との(交渉で)早期の成果を求めており、日米合意が遅れれば遅れるほど、米側の要求が厳しくなるリスクがある」(政府関係者)との判断もあったようだ。
<米、自動車輸入関税撤廃は先送り>
首脳会談に同席したライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、日本側が撤廃を要請していた米国による自動車および部品に対する関税ついては変更がないが、農産品では日本で70億ドルを超える規模の市場が開放され、牛肉、豚肉、小麦、乳製品、ワイン、エタノールといった製品が恩恵を受けるとの見解を示した。
昨年9月に両首脳が署名した共同宣言は、日本の農産品市場開放は環太平洋連携協定(TPP)など過去の協定での譲歩内容の範囲とするとともに、米国の自動車生産・雇用を拡大すると明記していた。日本側は日系自動車メーカーの米国現地生産が拡大しやすいよう、米国の関税引き下げを求めていたが、米側は慎重姿勢を堅持したようだ。
一方、トランプ大統領によると、日本は、余剰になっている米国産トウモロコシを購入することに同意した。安倍首相はトウモロコシ購入の「可能性」に言及し、国内の害虫被害に対応し、民間セクターによる米国産トウモロコシの早期購入を支援する緊急措置を講じる必要があるとの認識を示した。九州に上陸した害虫ツマジロクサヨトウにより国内で飼料用トウモロコシを栽培している農家に被害が出ている。
<日本車への追加関税には楽観論も>
首脳会談に先立ち茂木敏充経済再生相とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は3日にわたりワシントンで協議した。ある経済官庁幹部は、日米間で最大の焦点である、日本車に対する米国の追加関税に関し、「日本は除外するとの確約は取れなかったのではないか」と説明する。
菅義偉官房長官は26日の会見で、米国通商拡大法232条に基づく自動車への高関税適用の回避を取り付けることが出来たかとの質問に「交渉が継続中でコメントを差し控えたい」と述べている。
米国は安全保障を理由に日欧からの輸入自動車に対して25%の追加関税を課す検討しており、今年5月には課税判断の期限を11月まで半年間先送りしている。
もっとも日本政府内では「日本は欧州連合(EU)と異なり米国との対話に応じており、追加関税を課されるリスクは小さい」(政府関係者)との楽観論が多い。「ドイツの自動車メーカーと異なり日系メーカーは部品も米国で現地生産しており、米国での雇用創出で貢献が大きいことはトランプ大統領も評価している」(経済官庁幹部)ためだ。
一方、今後の動向は予断を許さないと警戒する声も政府・与党内には依然ある。
5月に米ブルームバーグが「米は日・EUに対し関税賦課を遅らせる代わり対米輸出の『制限ないし規制』を条件に180日間の猶予を与える案を検討」と報じた直後、茂木再生相は「米国が日本に対し自動車の輸出数量制限を求めない方針であることをライトハイザー代表を通じて確認した」と説明した。
しかし複数の政府・与党関係者によると、年間7兆円の対日貿易赤字の過半を占める自動車に関し、日本からの輸出削減と米国での現地生産拡大を求める声が米側には依然あるという。ある政府関係者は「日本政府には民間企業の輸出を規制する権限はないため、どうしても米国が日本の自動車輸出を抑えたいならば、追加関税しかない」と話す。
みずほ総合研究所の菅原淳一主席研究員は「日本は232条の適応対象外だという確約が得られないと今回の合意は危ういと思っている」と指摘している。
(取材協力 金子かおり 編集:石田仁志)
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