CPTPP、中国加盟に菅首相が難色も 中国が周到に計画

2021/01/08
更新: 2021/01/08

中国共産党が、米国不在の環太平洋経済連携協定(CPTPP)への加盟を狙い、着実に動きを進めている。菅義偉首相は1月3日、中国が加盟を検討している話について「中国の国有企業主導の運営下では敷居が非常に高く、現在の体制では容易でない」と否定的な意見を述べた。しかし、中国共産党は今後、日本の親中派を通じて日本政治や世論への働きかけを進めるとみられる。

米国が2017年に脱退したことから、環太平洋パートナーシップ(TPP)は「包括的かつ進歩的な環太平洋パートナーシップ(CPTPP)」と名称を変更し、現在11カ国が加盟している。日本は加盟国内で国内総生産(GDP)で先頭に立ち存在感を持つ。

2020年11月20日、中国の習近平国家主席はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の非公式会合で、中国はCPTPPへの加盟を積極的に検討していると語った。

いっぽう、専門家は、菅氏の言葉は政権の真意ではないと見ている。中国問題グローバル研究所所長の遠藤誉氏はボイス・オブ・アメリカ(VOA)の取材に対して、管政権最大の勢力である二階俊博自民党幹事長は親中派であり、CPTPPの中国加盟を期待していると語った。

遠藤氏はさらに、2020年10月に制定された、中国共産党当局による恣意的な運用が予想される「中国輸出管理法」は、日本の対中強硬派の外交姿勢を抑止するものと考えている。同法は、米国への報復行動の準備との見方があるが、日本も、中国共産党の攻撃対象範囲になりうる。

中国輸出管理法の施行について、日本企業への影響が懸念される。NHKによれば、電気自動車や家電製品の生産に欠かせない希少資源であるレアアースが輸出管理の対象になるのではないかと、日本メーカーの心配材料になっている。日本のレアアースの6割が中国からの輸入となっている。

中国共産党のイデオロギーを日本国内に拡散する親中共派は、日本政治がトランプ政権に合わせた強硬路線から、協調路線に変わることが見込まれると発言している。福井県立大学名誉教授の凌星光氏はVOAの取材に対して、「菅義偉政権の対中政策はまだ確定されておらず、バイデン政権発足後の対中政策を見据えている」とした。また「今後、米バイデン政権により、中国との対話路線へと調整される可能性が高いため、日本の世論も変わる可能性がある」と述べた。

グローバルな枠組みにおける中国共産党の周到な戦略

遠藤誉氏によると、2017年に米トランプ政権がTPPから離脱して以来、中国はこの国際貿易の枠組みへの参加に向け、綿密な戦略を練り、一歩一歩実行してきたという。

中国側から見れば、米国のTPP離脱後は厳しい貿易条件が引き下げられ、中国にとってかなり不利だった第5章、第9章、第10章の補助条項が「適用停止」となり、参加の敷居が低くなった。

さらに、中国は2020年11月には地域包括的経済連携協定(RCEP)を締結し、明らかに外交的な利益を得ているとした。

15カ国が加盟する世界最大の貿易圏・RCEPは、8年間の交渉の末、2020年11月15日にハノイで事実上署名された。中国はこれまでの外交慣行からRCEP内で影響力を行使すると見られる。

識者らは、米国の政権交代期という空白をついて中国主導のルールが形成されたとみている。

法政大学大学院教授の真壁昭夫氏は「ダイヤモンド」誌11月の寄稿文で、RCEPの調印を成功させた背景には中国の存在があり、国際社会で孤立感を強めている中国は、RCEPを契機にアジア地域でのプレゼンスを高め、対米戦力を強化しようとしていると指摘した。

ジャーナリストの加谷珪一氏は「ニューズウィーク」誌の記事の中で、RCEPは中国をはじき出すグローバル・チェーンであったTPP網の突破口だと指摘している。また、中国の入るRCEPは、今後TPPの復帰が考えられる米政権への交渉の切り札と見られる。

遠藤誉氏によると、中国EU投資協定交渉にも注目すべきだと指摘する。RCEPと中国EU投資協定は、中国がCPTPPに参加するための布石と考えるが、国有企業や知的財産権などの問題に関しては、中国はCPTPPに参加するにはまだ道のりがあるとした。

RCEPは中国初の多国間貿易協定であり、中国と日本、韓国が加わる貿易協定は初。

国際政治経済学を専門とする浜中慎太郎・JETRO開発研究センター所属の研究員は11月20日発表の分析記事で、RCEPやTPPのような多国間貿易協定は今日、経済的利益よりも政治的影響力の側面が重視されると考えている。

浜中氏は、「国際政治という観点から、RCEPは中国にとって威信政策であるという点を見落としてはならない。中国にとってRCEPが重要なのは、それが中国は地域の盟主であることを示すツールだからである」「今後RCEPメンバーが拡大すれば、それは中国主導で書かれたルールが世界に拡散することを意味する」と分析している。

浜中氏は、RCEPは日本の主張が通らず、逆に中国の意向が多く含まれることから、中国の交渉力の強さを反映していると見ている。例えば、日本にとって特に重要なルールは、投資の紛争解決処理システムと、電子商取引のデータローカル化の禁止だが、RCEPにはいずれも含まれていない。TPPには含まれている。

当初RCEPに参加表明していたインドは2019年、加盟を見送ることを表明した。インドは中国製品の輸入依存が高まる傾向にあり、国内産業が圧迫されている。また、RCEPではインドの輸出の強みであるサービス貿易が進展せず、失望を示していた。

インドのピユシュ・ゴーヤル鉄道・商業・工業大臣は、11月28日の記者会見で、同国がRCEPに加わらなかった理由の一つに、中国の不透明な貿易慣行があると、国名は名指しせず「RCEP参加国のある一つの国は、民主的で透明性のある貿易システムではない。公正な競争の場や相互アクセスを与えない相手との取引には慎重にならざるを得ない」と語った。

インドと中国は2020年6月、係争地域における両軍の衝突が勃発して以来、両国関係は悪化している。中国が加盟する貿易協定のなかで、日本はインドの交渉力を期待したが、継続する中印関係の悪化と不信感から、インドが早期にRCEP参加交渉に戻る可能性は低いとみられている。

シンクタンク・国際問題戦略研究所(IISS)の地経学および戦略担当のロバート・ワード氏は、RCEPでは中国が利する条件が揃っていると指摘する。ワード氏は、IISS公式サイトが11月25日に発表した分析記事のなかで、RCEPには、公正な競争条件を崩す政府の巨額産業補助金や国有企業の支援などを審査する内容はないと指摘した。

過去に行われてきた米国、欧州、日本の三極貿易大臣会合では、中国を念頭にした政府による国内企業の公的支援問題を取り上げてきた。3大臣の声明によると、政府の介入で深刻な過剰生産や不公正な競争条件を引き起こし、国際貿易にも波及しているという。

「中国政府は、一帯一路加盟国に対して行っているように、域内最大の経済大国としての経済力を使い、RCEPの規制や基準設定に影響力を行使するだろう」とワード氏は分析している。台湾の中華経済研究院地域発展研究センター代表・劉大年氏は、メディアのインタビューに対して、中国は短期間内にCPTPPを進めることはできないが、長期的には、世界情勢と米国左派グループの発展、中国の軍事・経済力の増強により可能性は高まるとみている。また、中国は「多国間主義」を謳い、日本に対する抱き込みは考えられるとした。

CPTPPは現在、人口規模が5億人に近い経済圏であり、全世界人口の約7%を占める。加盟国の総GDPは11兆ドルを超え、世界の約13.1%を占める。

(翻訳編集・佐渡道世)