中国共産党は対外宣伝を強化するため、中国に住む外国人の動画作成者を資金面で支え、プロパガンダに利用している。このほど英紙タイムズは、ある英国人親子のVチューバー(動画コンテンツなどで社会的な影響力を持つ個人)が中国公的支援を受けていると報じた。
英国中部出身で現在中国深圳に住むオリー・バレット(Oli Barrett)さん22歳は、父親のリー・バレット(Lee Barrett)さんとともに動画共有サイト・ユーチューブでチャンネル「Barrett」を運営している。バレット親子は2019年6月にチャンネルを開設し、2021年1月までに19万人以上の登録者を獲得した。動画は、新疆ウイグル自治区の収容所に関する西側の報道、華為技術、米中貿易戦などあらゆるテーマを取り上げるが、すべて中国官製メディアの主張と一致した内容となっている。
バレット親子は、中国当局のプロパガンダに迎合しているとの批判に対して、タイムズ紙の動画で反論し、新疆ウイグル自治区などにおける中国共産党の「再教育キャンプ」を支持した。
息子のオリー・バレットさんは、米国務省が発信する中国共産党による人権侵害に関しても「噂話だ」と一蹴している。ポンペオ国務長官は1月9日、「中国共産党は建党以来、すべての信仰に極端な禁止制度を敷いている。チベット(密教)、カトリック、クリスチャン、法輪功学習者らは迫害されている」と述べた。これに対して、「私は中国に住んでいるが何の証拠もない」とオリーさんは主張している。
バレットさん以外にも親中国、親中共コンテンツを作成する動画製作者は複数いる。白人男性のJaYoeさんもタイムズ紙の記事のなかで中国の公的資金を受けていると名指しされた1人だ。彼は反論のために作成した動画のなかで、実際に複数の中国各地の映像には、渡航費や滞在費の支援を受けた映像も撮っていると認めたが、地域プロモーションとして請け負っているに過ぎないと主張した。
米国出身のネイサン・リッチさんは、中国で親中共、反米のスタンスの明確なユーチューバーの1人で、60万の登録者を持つ。最も人気のある動画は160万再生回数を超え、華為技術の中国軍とのつながりやスパイ活動に関する批判を「根拠のない噂話」と否定した。また、ある動画では新型コロナウイルス(中共ウイルス)は「米国から広がった」と主張している。
中国共産党は、こうした外国人ユーチューバーを「中国官製のインフルエンサー」として勧誘していると、ジャーナリストのトーマス・ブラウン氏は2020年1月のブログで指摘する。同氏は、「中国共産党は外国人を利用して、党の路線を押し通し、矛盾する情報を弾圧している。たとえば中国国外のプラットフォームにいる欧米人の人気者を誘い出し、親中共コンテンツを増やそうとしている」と書いている。
政府プロパガンダに詳しいオックスフォード大学の研究機関によれば、こうした欧米人の親中共ビデオは、世界中の中国外交官ら共産党高官にシェアされ、拡散している。これには、駐英国中国大使や中国日報欧州支局長も含む。
ブラウン氏によれば、ともに中国人の妻を持ち、中国で最も人気を集めたVチューバー「SerpentZA」のウィンストン・スターゼル(Winston Sterzel)さんと「Laowhy86」マシュー・ティー(Matthew Tye)さんの2人は、中国の組織からチャンネルの買収案を幾度となく持ちかけられた。
たとえば2人は、チベットや新疆で起きている人権弾圧の話題を避け、同地への観光を促進する動画の制作を勧められたことがある。2人が、中国共産党当局を「時代遅れ」と批判して以降、2人に対して別の西洋人ユーチューバーが「人種差別主義者だ」「CIAから資金を得ている」などと嫌がらせを働いた。中国当局による頻繁な家宅訪問や追尾も始まり、身の危険を感じた2人は2019年初めに中国を離れた。
英タイムズ紙の取材に対して、英保守党で外交委員長のトム・トゥーゲントハット(Tom Tugendhat)議員は、中国共産党のプロパガンダに乗る人々を批判する。「暴君に服従するVチューバーたちの行為は、古臭いアイデアの新手法に過ぎない。独裁者はいつも利用できそうな愚か者を使い、犯罪をごまかしてきた。悲しいことに、現在の北京の指導者たちも同じ脚本を使っている」
(翻訳編集・佐渡道世)
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