性犯罪や父子鑑定などに広く利用されている「Y染色体ハプロタイプ参照データベース(YHRD)」は当事者の同意なしにデータ収集している可能性が出ている。英誌「ネイチャー」15日付は、倫理的な問題があると指摘した。
YHRDは2000年、オンライン上で公開され、現在、30万を超える匿名のY染色体プロファイルが保存されている。特定の遺伝子マーカーは1300以上の異なる民族の男性の血統特徴を示している。
「ネイチャー」誌は欧州の遺伝学者の話を引用して、YHRDデータベースに倫理的な問題があると指摘した。
YHRDが保有するプロフィールのうち数千件は、インフォームド・コンセント(説明と同意)を得ていない可能性の高い男性から入手したものだという。その中には、中国のウイグル人や東欧のロマ人など、少数民族のデータも含まれている。
同誌の記事は、ベルギーのルーヴェン・カトリック大学の計算生物学者イブ・モロー(Yves Moreau)氏の研究について紹介した。2019年3月、同氏は中国の少数民族を対象とした研究を調べ始めた。研究はYHRDに所蔵されている、中国人男性の約3万8000件のY染色体プロファイルについて行われたレビューに着目した。2017年に行われたこのレビューの共著者に中国の公安機関や警察の研究者が含まれている。
「YHRDには問題があると思った」と同氏は言う。ウイグル人など迫害を受けている少数民族から、どのようにしてインフォームド・コンセントを得たのかわからないと、モロー氏は主張する。
現在、米国在住の中国の著名な人権派弁護士の滕彪氏は、「新疆のような抑圧的な社会環境の下で、インフォームド・コンセントなど存在しない。誰もノーと言えない」とその違法性を指摘した。
中国当局は2016年からすでに新疆で数千万人を対象とした全民健康診断を実施している。ウイグル人や人権団体によれば、当局はその過程でDNAサンプルなど生体情報を採取したとしている。
中国で男性DNAが大量に採取されている
オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が昨年発表した報告書によると、中国警察は、全土の成人男性と少年から血液サンプルを集め、約7億人の男性の遺伝子地図を作製し、DNAのデータベース構築を進めている。このプロジェクトは、少数民族など標的となるグループの追跡に焦点を置き、遺伝子を利用して国民をコントロールするという共産党の取り組みの一環だと指摘した。
国際人権NGO(非政府組織)ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)中国部長ソフィー・リチャードソン氏は、サンプル収集は中国全土で行われているが、新疆で特に懸念されていると指摘した。
「12~65歳まで全員がDNA採取される。その割合は他の地域の漢民族に比べ、はるかに高い。新疆のような厳しい状況下で、ウイグル人は拒否が出来ない」と述べた。
現在、米国在住のウイグル人映画監督のタヒル・ハムート(Tahir Hamut)氏は米ラジオ・フリー・アジア(RFA)に対し、自身も以前に血液、指紋、声、顔情報を新疆の地元警察署で採取されたと明かした。政府の指示でその1カ月後に指定クリニックで無料の健康診断を受けたが、検査結果は最後まで手に入らなったという。
HRWのソフィー・リチャードソン氏は、「中国には個人情報の収集を規制する法律がないため、このようなDNA情報収集はデータ乱用の温床になっている」
「DNAは生物学的サンプルの中で最も重要なデータだ。それは個人情報だけでなく、家族との関係も明らかにできるからだ」と指摘した。
中国全国人民代表大会(全人代=国会相当)の常務委員会は10日、国家安全の観点からデータの取得や保存を制限する「データセキュリティ法」を可決した。政府はすべての企業が所有するデータを審査できるようになり、市民のプライバシーがさらに失われるとの懸念が上がっている。
(翻訳編集・李凌)
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