ハイテクヘッドセットで国境防衛を強化するインド

2021/06/30
更新: 2021/06/30

冷戦中の中印国境紛争以来、衝突の火種となっていた山岳地帯において、過去40年余で初の発砲を伴う中印軍隊間の流血乱闘が発生してから1年を経た今、インド政府が陸上配備型の防空ミサイルシステム改善を目的として拡張現実ヘッドマウントディスプレイ(ARHMD)技術の開発に着手した。

同システムでは対象物を写した画面にレーダーと熱画像が同時に表示されるため、兵器の有効性と領空侵犯の防御能力が向上する。インド国防省は、「提案されている同システムは、夜間[作戦]と悪天候下における交戦能力の強化を目的としたものである」と説明している。

中印の支配地域を分ける実効支配線(LAC)が存在するヒマラヤ地域では、い雲量と降雪により視界が制限される。そのため同システムは実効支配線沿いの警備に不可欠な機能となる可能性がある。

インド陸軍退役大佐のテジ・クマール・ティクー(Tej Kumar Tikoo)博士はFORUMに対して、「PLA[中国人民解放軍]の干渉阻止および当国の後方連絡線や要塞の防御を図り、中印国境沿いにおける中国の挑発行為から兵站資産を保護する上で、実効支配線における前方展開部隊の対空能力を強化することが絶対不可欠となる」と説明している。

BBCニュースが報じたところでは、過去6年間で悪化していた中印国境での緊張が2020年6月のガルワン渓谷の衝突に発展し、中印両軍合わせて20人超の兵士が死亡した。衝突が発生したのはインド連邦直轄領のラダック地域と中国の区域自治区であるチベットの国境であった。

2021年1月下旬にも、インドのシッキム州とチベット自治区を結ぶナクラ峠で新たな小競り合いが発生している。同地域は紛争の要因となっている3,440キロの国境の東方に当たる。

南アジアを専門とするアナリストのダニエル・S・マーキー(Daniel S. Markey)博士が著述した2021年4月の外交問題評議会(CFR)報告書によると、中印両政府は2021年2月、ラダック連邦直轄地とチベット自治区の実効支配線に位置するパンゴン湖からの軍隊「同時撤退」に合意したが、両軍が完全に撤退するかどうかはなお予断を許さない。

マーキー博士は、「今後も中印間の緊張が持続し紛争が再度発生する可能性は依然として高い」と述べている。

インドのPTI(Press Trust of India)通信の報道では、実効支配線の中国側で中国人民解放軍のヘリコプターが飛行するのは日常的な光景であるが、ガルワン渓谷での衝突が発生するわずか数週間前に当たる2020年5月にも国境付近でヘリコプターが作戦出撃するのが確認されていた。

インド国防省によると、拡張現実と熱画像を組み合わせた拡張現実ヘッドマウントディスプレイ技術により、インドの国境警備が確実に強化される見込みである。

インド陸軍は2021年2月、556台の拡張現実ヘッドマウントディスプレイ装置を調達すると発表している。機器や兵器システムの国内での設計、開発、製造を推進する国防省の「インドでモノづくりを(Make in India)」の「Make-II(「業界出資」のサブカテゴリ)」イニシアチブの下、インドの製造業者に同システムのプロトタイプ開発が要請されていた。 同省の発表では、携帯式防空ミサイルシステム(MANPADS)と対空機関砲を操作する兵士がヘッドセットを使用することになる。

「携帯式防空ミサイルシステムにより低空を飛ぶ航空機、特にヘリコプターを撃墜できる」と説明したティクー博士は、対空能力に同装備は不可欠な機能であると付け加えている。 

(Indo Pacific Defence Forum)