「南シナ海仲裁裁判」から5年 判決を継続的に無視する中国

2021/07/12
更新: 2021/07/12

フィリピンが南シナ海の領有権紛争に関して裁判を申し立てた通称「南シナ海仲裁裁判」で、国際仲裁法廷九段線に基づく中国の海洋権益主張には法的根拠がないという判決を下してから2021年7月12日で5年目を迎える。にも関わらず、中国は継続的に同判定を無視し領有権を巡る他の紛争解決にも協力的な姿勢を示していない。

2016年にオランダのハーグに設置された常設仲裁裁判所は、九段線だけでなく、歴史的権利に基づき南シナ海の大部分の領有権を訴える中国の主張も国際法に違反するという画期的な判定を下した。同判決により、中国政府との間で領有権紛争が発生しているブルネイ、インドネシア、マレーシア、台湾、ベトナムの政府に肯定的な影響がもたらされるという点で同裁判所の判断は非常に重要な意味を持つと、アナリスト等は強調している。

2021年6月、この2016年の判決を「最終的な裁定」および「これまでの国際法事例の中で画期的な判断」と表現したテオドロ・ロクシン・ジュニア(Teodoro Locsin Jr.)比外相は、国営のフィリピン通信社(PNA)に発表した声明で、「裁定により、南シナ海における歴史的権利と海洋主権の問題は最終的に決着が着いた」と述べている。

ロクシン・ジュニア外相はまた、「法廷は(中国の訴えは)国連海洋法条約(海洋法に関する国際連合条約/UNCLOS)に基づく地理的および実質的な制限を超えていることから、法的効力のない海洋権益主張であると明言した」とし、「とりわけ中国の『九段線』を否定し、同事例に『現実の占有は九分の勝ち目』(法的に完全な所有権がなくても、現に占有している者が他よりも遥かに強い権利を持つという意味)という諺は当てはまらないとした。単に実質的に所有しているというだけでは、他の領海のような法的効力は生成されないためである」と発表している。

しかし、仲裁裁判所の判決には法的拘束力はあるが裁判所は執行権限を持たない。中国は判決を無視しただけでなく審理に出廷することすら拒否した。

東南アジア諸国と複数の領有権紛争を抱える中国共産党(CCP)は、ここ数ヵ月の間に領空侵攻や他国の排他的経済水域(EEZ)への侵入活動を激化させている。2021年6月中旬に開催された拡大ASEAN(東南アジア諸国連合)国防相会議(ADMMプラス)で、中国国防相は中国が南シナ海の領有権紛争の解決に協力して平和の維持に取り組むことに合意した。

中国外務省(外交部)は拡大ASEAN国防相会議で発表した声明で、「諸国は団結と協力を強化して南シナ海の安定を維持し紛争激化に繋がる可能性のある一方的な行動は回避するべきである」と述べている。中国は言葉では南シナ海の行動規範の確立を呼びかけてはいるものの、行動では逆のメッセージを送っている。

たとえば、同国防相会議のわずか1週間前に中国人民解放軍空軍(PLAAF)軍用機がマレーシア領空を侵犯したことで、マレーシア政府が戦闘機をスクランブル(緊急発進)するという事態が発生している。

中国に対して法規制の遵守と他諸国の主権尊重を継続的に要請している米国は、南シナ海全域で「航行の自由」作戦を継続し、同盟・提携諸国と協力を図りながら「自由で開かれたインド太平洋」の維持に取り組んでいる。 ロクシン・ジュニア外相がフィリピン通信社に語ったところでは、フィリピンも南シナ海の平和の確立と維持に取り組むことを繰り返し明言した。

同外相は、「フィリピンは国が存在する限り、平和維持に取り組んでいく」とし、「諸国が軍事力ではなく法治を優先する限り、国際仲裁法廷の判決は諸国に正しい方向を示す道標となり、将来的に万が一虚弱や無為により方向性を見失う状況が発生した場合も正しい道を指し示す指標となる」と話している。

(Indo-Pacific Defence Forum)