東南アで中国製ワクチンに疑いの目、欧米製追加も検討

2021/07/12
更新: 2021/07/12

[バンコク/ジャカルタ 8日 ロイター] – インドネシアとタイは、中国・科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)製の新型コロナワクチンの効果に疑念があるとして、同ワクチンを接種済みの医療関係者に対して欧米製ワクチンの追加接種を検討している。シノバック製は両国の接種計画を支えてきたが、今後は国民の間で信頼が薄れそうだ。

中国製ワクチンを巡っては、より感染力の強い変異株への効果が低いのではないかとの懸念が広がり、すでにトルコやアラブ首長国連邦(UAE)など複数の国が、中国製を接種済みの人への欧米製の追加接種を開始した。

ただ、東南アジア諸国が直面している課題ははるかに大きい。多くの国は欧米製ワクチンの供給が少ないため中国製への依存度が高く、接種率は10%以下と低い。

東南アジア諸国は、インドを起源とする感染力の強いデルタ株が広がり、新規感染者数と死者数が記録的水準に急増。医療関係者の間ではシノバック製の2回接種を終えたにもかかわらず感染する人が増え、もともと手薄の医療体制がひっ迫している。

インドネシア医療協会のサルメト・ブディアルト副会長は5日の議会で、「多くの医者や医療関係者が2回の接種を終えているが、中等症もしくは重症に見舞われ、死者すら出ている」と証言した。

インドネシアでは医療関係者数百万人がシノバック製の接種を受けており、今ではこのうち数千人が検査で陽性となっている。

議会の医療問題委員会のメルキ・ラカ・レナ副委員長は「より恐ろしい、心配な変異株から医療関係者を守るため、3回目の追加接種を受けさせるべき時期に来ている」と述べた。

インドネシア保健省の当局者によると、追加接種について専門家組織とインドネシア食品医薬品局からの勧告を待っている状況だという。

シノバック製ワクチンは一部データにより、入院や重症化を防ぐ効果が示されているが、デルタ株に対する効果についてはまだ詳細なデータがない。

タイは寄付されたファイザー/ビオンテック製ワクチン150万回分が月内に米国から届く見込みで、これを医療関係者70万人の接種に充てるが、対象者のほとんどはシノバック製の2回接種を終えている。

医療当局の幹部Udom Kachintorn氏は、ファイザー製の追加接種は免疫を高めるのが目的だと説明。デルタ株の感染が増えており、シノバック製の接種が完了した医療関係者の多くが感染しているためだとした。

医療関係者への欧米製の追加接種を巡っては今週、流出したタイ保健省の内部メモにより、政府が国民に間違ったシグナルを送る可能性を懸念していたことが明らかになった。シノバック製に効果がないと認めることになるからだ。

オーストラリアのグリフィス大学のディッキー・ブディマン氏は「ワクチンの信頼性に影響を与えるのは間違いない」と指摘。「シノバック製は必ずしも効果がないわけではないが、6カ月後に効果が弱まる。これが私の予測だ」と述べ、当局に追加接種を実施し、この問題を国民に周知するよう促した。

一方、タイ当局はシノバック製の接種を擁護し、追加購入する計画だと言う。Udom氏は「効果が比較的低いことが分かっているとしても、シノバック製を軽視すべきではない。重体の患者や死者を減らしている」と述べた。

インドネシアの医師もシノバックが最良のワクチンではない可能性を認めるが、今はそれしかなく、何もないよりは良いと言う。

ペリタ・ハラパン大学のEka Julianta Wahjoepramono医学部長は「今のところインドネシアは自力でワクチンが作れないのだから、他に選択肢はない。シノバック製が唯一の選択だ」と話した。

<干天の慈雨>

中国にとって国産ワクチンの効果に対する疑念の拡大が、「ワクチン外交」に影響する可能性がある。中国はこれまでに国産ワクチン数億回分を海外に送っている。

シンガポールは今週、シノバック製ワクチンは特にデルタ株に対する効果のデータが不足しているとして、同ワクチンを接種した人を接種完了者の統計から除外した。

一方、中国は、中国製ワクチンは安全で効果があると繰り返している。

中国外務省の汪文斌報道官は5日、諸外国から中国製ワクチンへの懸念が出ているかとの質問に対して、「中国製はその安全性と効果が広く知れ渡り、国際社会で高い評価を得ている。これまで100カ国が中国製を承認している。多くの発展途上国は到着した最初のワクチンが中国製だ。こうした国で中国製は干天の慈雨と呼ばれている」と述べた。

Reuters