北朝鮮は、今後3年間ほど続く可能性のある長期的な食糧不足に備えるために、自給自足を国民に呼びかけた。しかし、国民は政府の責任逃れに不満が高まっているようだと、同国の情報筋がラジオ・フリー・アジア(RFA)に語った。
国際連合食糧農業機関(FAO)は5日付の報告書で、「北朝鮮では今年86万トンほどの食料が不足する」との分析結果を公表した。つまり、今年は2-3カ月分の食料が足りなくなる計算だ。
RFAが4月に報じたところによると、当局は国民に対し、数百万人が犠牲になったとされる1994年から1998年の飢饉に匹敵する経済困難に備えるよう警告している。また与党の朝鮮労働党は、国民に自分で食糧を賄うように呼びかけているという。
北朝鮮住民にとって食糧調達方法は2種あり、ひとつは政府からの配給、もうひとつは自ら市場で食べ物を購入することだ。当局の通知は、今後の配給量の減少を示唆する。
北西部に位置する平安北道の住民が7月2日、「中央委員会は今月初めに、長期的な食糧不足に備える方針を示した」とRFAに語った。 安全上の理由から匿名を希望した関係者によると、「彼らは、省内のあらゆるレベルの組織、企業、ユニットに対して、食糧不足の問題を自分たちで解決するように指示を出した」という。
この指令は朝鮮労働党中央から各省の党委員会に送られ、中共ウイルス緊急事態が長期化する中での食糧不足の深刻さを強調した。 北朝鮮は2020年1月から中共ウイルス感染対策のため中朝国境を封鎖し、すべての貿易を停止した。そのため食糧輸入が断たれ、北朝鮮の農家は肥料の入手が困難な状況にある。
国連のトマス・オヘア・キンタナ北朝鮮人権状況特別報告者は、3月の報告書で、中朝国境の閉鎖と人の移動の制限は、「深刻な食糧危機」をもたらす可能性があると警告している。さらに同報告書には「家族が養えないために物乞いに頼る子どもや高齢者が増えている」と記されている。
当局が発令した新しい自給自足指令によれば、工場や企業の労働者は、割り当てられた協同組合の農場に従事させられる。
さらに、ある当局者は、感染症流行による食料危機が少なくとも3年は続き、当局は「長期戦」を口にしているという。長期戦とは、当局が問題が通常よりも悪化すると考えていることを示しているといえる。
苦しい生活を強いられている住民からは不満は募る一方だ。「3日間の食糧確保もできない状況なのに、3年間生き延びろと言われるは『死刑宣告』のようだと」とある住民は語った。また「ある組織の農地に畑を1つ増やしても、必要な食料の30%を生産することすら難しい」など、住民は自分で食料を賄いに行くのにも難しい状況にある。
しかし、飢えに苦しむ国民の気持ちを裕福な指導者や高官には理解できるはずがない。
「中国との国境が閉ざされたままになればなるほど、国民はどん底に落ちていく」と関係者は言う。「当局が正気を取り戻す前に、どれだけの人が餓死しなければいかないのか」
大阪に拠点を置く北朝鮮専門の報道機関「アジアプレス」の創始者兼編集長である石丸次郎氏は、現在の北朝鮮の食糧危機は、アジアで最悪の人道危機になりつつあると指摘している。
同氏は6日、コラムを掲載し「実情がほとんど世界に伝わって来ないのがもどかしい」と述べた。
「現金がなくなったら、隣人や知人からお金やコメ、トウモロコシを借りる。それが難しくなったら家財を質に入れたり売りに出したりする」と北朝鮮関係者の話を紹介した。「近所では借金取りが押しかけて、鍋釜まで奪うように取り上げていく光景が、近所でもしばしば見られる。残された手段は、犯罪に走るか、女性なら売春。最後に家を売ってしまうのだ」
さらに「コチェビ(ホームレス)」が路上で乞食をする姿が増えているという。北朝鮮では秋の収穫を前にして食料の蓄えがなくなってきているため、今後さらに「コチェビ」が増加するだろうと述べた。
また、栄養失調で路上で倒れている人もしばしば目にするとある情報筋は伝えた。
1990年の飢饉は、経済政策の失敗と、北朝鮮を支援していたソ連の突然の崩壊が原因であった。当時の北朝鮮の人口2300万人のうち、10%もの人が命を落とし、何十万人もの人々が中国に逃れたと言われている。
(翻訳・ NhungTran)
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