両会 何清漣評論

相次ぎ締め付けられる民間企業 「中共の信頼を得るのは容易ではない」

2021/08/22
更新: 2021/08/22

改革開放以来、中国でかつていなかった超富裕層が急ピッチに増えた。中国共産党(以下、中共)は一時、彼らを体制に迎え入れ、歴代の最高指導者も彼らの心を和ませる言葉を贈ったり、中共の仲間になったと思い込ませた。しかし、幸せな日々は終わりに向かっているようだ。2015年以降に繰り出された「新公私合営論」と「民営経済退場論」の脅威は、2018年11月の習近平総書記の談話によって一時的に緩和されたが、今ではスーパーリッチの頭上にたれ込める暗雲になっている。ほとんどの民営企業家は、昨年11月に始まった業界の「整理整頓」で、国有経済と民営経済の比重調整を避けて通れないと覚悟したのであろう。

整理整頓の標的は、政権にとって脅威になりうる企業だ

中国政府はテクノロジー業界を精力的に「整理整頓」している。アリババの創設者の馬雲(ジャック・マー)氏、ネット共同購入サイト「拼多多 (ピンドウドウ)」の創設者の黄崢(コリン・ホアン)氏、総合家電メーカー「小米科技(シャオミ)」の創設者の雷軍(レイ・ジュン)氏、字節跳動科技(バイトダンス)の創設者の張一鳴(チャン・イミン)氏など、業界大手の民営起業家は安泰を乞うため、慈善団体に多額の寄付を続け、当局の貧困緩和政策に協力することで、さらなる「整理整頓」のリスクを回避しようとしている。

もちろん、中国政府は手当たり次第に民営企業を締め付けているわけではない。よく分析してみると、ターゲットにされる企業には共通点がある。政権にとって(潜在的な)脅威と見なされたからだ。

馬雲氏を例に説明する。中国の大富豪のなかでその派手な振る舞い、自信家ぶりは一際目立っていた。結社や、多角的な社会事業の展開にかかわるのが好きで、彼自身も不安を覚えたのであろう。周知のとおり、中国は専制国家で、結社を厳しく禁止する。また、同氏は「外交」にも長けているようだ。ドイツのメルケル首相、米国のオバマ大統領とトランプ大統領、インドのモディ首相、ロシアのプーチン大統領、カナダのトルドー首相などと面会していた。 そして、見せびらかすために写真アルバムまで作った。なお、「馬雲:中国NO.1富豪の政界友人はどれほど強いか?」と題する記事は、馬雲氏の「外交成果」を総括した。これら数々の「輝かしい実績」は中国政府にとっては言語道断である。馬氏は「能ある鷹は爪を隠す」という共産主義国における重要な生存術を知らないようだ。

孫大午(ソン ダイゴ)氏も渦中の人物である。同氏は中国で最も波瀾万丈な運命をたどった民営企業家の一人といえる。創業したグループ企業「大午集団」は地元経済の活性化に貢献したとして、1995年に「中国民営企業上位500社」にランクイン、全人代の代表にも選ばれて、地元では一世を風靡する名士だった。しかし、孫氏は、経済以外の分野で中国社会に貢献しようと志し、学術界や人権活動家らと交友し、ホームページで政治や歴史、社会問題を議論するようになった。無論、それは中共にとって到底、許せないことである。2003年4月31日、政府の農業政策を批判する文章を掲載したことが引き金となり、問題のホームページが閉鎖され、約1カ月後、「違法な資金調達」という理由で、懲役3年、執行猶予4年の有罪判決を言い渡された。数年後、会社経営の第一線に復帰した孫氏は、中国政府に禁じられる「立憲」「共和」といった民主主義の理念のもとで、自社改革を行おうとした。そのことが政府の不興を招き、今年4月下旬、「暗黒勢力(暴力団)との結託」「社会秩序騒乱」など8つの罪で正式に逮捕された。

ハイテク企業に対する「整理整頓」は欧米と何ら変わりはない。 2020年のアメリカ大統領選挙後、イギリス、カナダ、オーストラリアなど米同盟国を含む世界各国は、ハイテク企業が首脳選挙に介入して世論を操作することを未然に防ごうとしている。ヨーロッパでは独占禁止法規制当局が、アマゾン、グーグル、フェイスブック、アップルなどに対する管理監督を強化するようになった。中国政府は別の方法で進めているが、目的は同じだ。データセキュリティ以外に、どの国も、企業がデータを制御した特権を振りかざして政治に介入したり、操作したりすることを望まない。

中国民営企業: 共産党の信頼を得るのは簡単ではない

中国の民営企業と党はかつて一時、蜜月関係にあった。鄧小平が打ち出した改革開放の初期から、個体経済(個人が企業を経営する)がはじめて許された。鄧小平は「個体経済は社会主義の公的所有権を補うために必要である」と宣言し、江沢民は第15回全国代表大会の報告書で「公有制を主体とし、多種類の経済セクターをともに発展させるのは、中国の社会主義市場経済の初期段階の基本的なスタンス」、「非公有制経済は中国の社会主義市場経済の重要な部分である」と明文化した。それから、資本家は党員になることが許され、その企業規模および社会への貢献度に応じて各級の全人代、政治協会(政治諮問会議)に参加することが許された。このような蜜月関係は胡温政権、第一次習近平政権の前期までに続いた。

2015年、「両会(全国人民代表大会、全国政治協商会議)」開催前の米紙ニューヨーク・タイムズの報道によると、「胡潤中国富豪ランキング」の1271人のうち、203人(7分の1)が両会の代表。その資産総額は3兆人民元(約51兆円)で、オーストリアの国内総生産を超えるほどだった。2017年両会の全代表者5100人のうち、209人は個人資産が20億元(約340億円)を超え、その資産総額は3.5兆元(約60兆円)で、これはベルギー、スウェーデン、ポーランドなどの国の国内総生産に匹敵する。

両会は中国の富豪クラブに化したとはいえ、歴代の中共最高指導者は民営企業に心を許したわけではない。一貫として民営経済を「利用する」というスタンスであり、私有資本の影響力は予測不能でしかも100%信頼するのはいけないと警戒する。習近平氏が共産党の最高指導者に就任した後、「クリーンな官(政治)・商(経済界)の関係を築く」と宣言し、反腐敗キャンペーンを通じて、大小さまざまな官・商結託のグループを取り締まり、さらに当時中国マネー業界の風雲児だった王健林(オウ ケンリン)氏、呉小暉(ゴ ショウキ)氏、肖建華(ショウ ケンカ)氏などを粛清した。それから、いよいよある大事に挑むことにした。すなわち、経済における国有経済と民営経済の比重を調整することだ。

習氏は2013年から反腐敗キャンペーンをはじめ、党、政府、軍の改造は2年以内にほぼ目標達成したことで、経済における民営経済の比重を見直す機が熟したと思ったのであろう。2015年10月、胡温政権時代に温めていた「中共中央委員会、国務院による国有企業改革の深化に関する意見書」(通称:「国有企業改革方案」)を発表した。それから2018年までに、「新公私合営論」および「民営経済退場論」をちらつかせ、国内民営企業界を大パニックに陥れた。

民営企業を称賛した習近平氏の本意

習近平氏の計画を止めさせたのは、米中貿易戦争だった。 2018年3月、当時のトランプ米大統領は中国との貿易戦争を開始した。大きなダメージを受けた習近平政権にとって、国内の安定は急務となった。習氏は仕方なく、右往左往の民営企業業界をなだめに出た。2018年11月1日に開催された民営企業シンポジウムで、習氏は中国の経済発展において民営経済が重要な役割を果たしたと高く評価し、民営企業を落ち着かせた。習氏は演説で、「民営経済は税収の5割以上、GDPの6割以上、新技術開発の7割以上、都市就業者の8割以上、企業数の9割以上を占める」と民営経済の中国経済に対する貢献を称賛した。これは「民営経済」の特徴を表す「五六七八九」としてよく知られる。しかし、メディアがほとんど取り上げなかった意味深な言葉もあった。「民営経済の発展はまず経済問題ではあるが、単なる経済問題ではない」。民営企業家たちがこの一文をどう受け止めているのか、知りたいところだ。

実際のところ、習氏の演説は単なるリップサービスであり、民営企業に対する融資は確実に緊縮されてきた。2020年10月に発表された米国のピーターソン国際経済研究所(Peterson Institute for International Economics)の報告書によると、中国の民営企業への信用貸付は年々減少しているのに対し、国有企業への信用貸付は増加する一方だという。 2013年には、銀行信用貸付の35%が国有企業に、57%が民営企業に、2014年に同60%が国有企業に、同34%が民営企業に、2016年になると、同83%が国有企業に、わずか11%が民営企業に割り当てられた。ピーターソンの同報告書によると、2016年以降は中国政府の公式データを得られなくなった。

一方、共産党機関紙「人民日報」は定期的に次の論調を強調する。「公有制を主体とし、多種類の経済セクターをともに発展させるという基本的な経済システムは、中国の特色ある社会主義制度の重要な部分」。民営企業に共産党委員会を設立するのは、中共が民営企業への統制を強化する重要な手段である。2015年末までに、非公営企業の53.1%にあたる157万9千社に共産党委員会が設立された。

当初、中共は政治目的から民営経済の存在、発展を許した。現在、一部の分野から民営経済を徐々に締め出すのも、政治的な利害関係からである。習近平氏は次期主席の続投が確実になった今、経済における国有経済と民営経済の比重調整を強行するのであろう。今後数年間、中国の主要民営企業の創業者たちは、さまざまな形で表舞台から姿を消していく。江沢民政権、胡錦濤政権時の両会の富豪クラブは、彼らにとって過去の栄光となった。

(翻訳・叶子)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。