竹本能文
[東京 1日 ロイター] – 9月中旬に衆議院を解散し、自民党総裁選を先送りする観測が急浮上したものの、自民党内の一部から強い反発が起き、菅義偉首相は火消しに追い込まれた。菅首相は党や内閣の人事を使って求心力を高めようとしているが、衆院選で苦戦が予想される若手を中心に総裁交代論は根強い。
9月解散論が浮上したのは菅首相自身が総裁選での劣勢を認識しているためだと、自民党の幹部は解説する。出馬表明した岸田文雄元政調会長の人気が菅氏よりも高く、「総裁選の延期手段として解散の検討を始めた」と、同幹部は言う。
毎日新聞は8月31日夜、菅首相が9月中旬に衆院解散に踏み切る意向と報じた。他の国内メディアも表現は異なりながら、9月中旬に解散し、9月17日告示・29日投開票の自民党総裁選の先送り観測が浮上していると伝えた。
これに対し、菅氏が総裁のままで衆院選を戦うことを危惧する党内の一部から批判の声が上がった。中谷元・元防衛相は谷垣グループの会合で「総裁選の日程は決まっており、勝手な個人の都合などで変更すれば自民党の信頼を失う」と発言。「新しい総裁のもとで、しっかりした政治基盤のもとに政策を実行していく、そのような総裁選を実施すべき」と語った。
報道各社の世論調査で内閣支持率は3割を切る水準に低迷、自民党が8月後半に実施した調査では衆院選で40─70議席減るとの予測が出た。8月22日の横浜市長選挙では、菅氏が強力に支援した元国家公安委員長の小此木八郎氏が大差で敗れた。
当選3回以下の議員を中心に選挙で勝てる顔として総裁交代を求める声は強く、閣僚経験もある中谷氏はこうした若手の声を代弁する形となった。「120万人の全国自民党員による党員票では岸田さんがダブルスコアで菅さんに勝つ可能性もある」と党幹部は話す。
菅首相は1日午前、官邸で記者団の質問に答える形で9月中旬の解散説を否定した。すでに日程が決まっている総裁選の先送り観測も打ち消した。
もっとも、政府・与党内で早期解散や総裁選の先送りを支持する声もある。9月に新総裁を選んでも、衆院選で大敗するなら引責辞任で再度総裁選を開く可能性があるとして、「2回実施するよりは衆院選後に先延ばしするのは合理的判断だ」と首相に近い幹部は言う。「9月中旬に今後(新型コロナウイルスの)感染状況が改善するならば、解散するのは当然選択肢でないか」と同幹部は語る。
しかし、時事通信の元解説委員で、政治評論家の原野城治氏は「国会を開いておらず(そもそも)解散は難しい」と指摘。政府のコロナ対策に対する不満から、安倍晋三政権時代は自民支持に回った若年浮動票が批判側に回る可能性があり、「衆院選は自公で過半数割れの可能性もある」と予想する。
複数の与党関係者によると、菅首相は近く党役員人事と小幅な内閣改造を実施する見通し。任期が5年の長期に渡り、党内で批判の高まっている二階俊博幹事長の交代などがメインとなる。
中谷氏は「人事で釣るという方法もあるが、党員や国民がどう見るか」とした上で、「コロナ対策に必要な予算とか法律を成立させて、国民に理解をいただけるよう努力して、それから解散すべき」と語った。
(竹本能文 編集:久保信博)
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