中国軍事ネット番組、マスク氏のスターリンクは「脅威」と報道

2022/06/10
更新: 2022/06/10

中国や米国の軍事情報について報じるオンライン番組「軍武次位面」の公認ライターは、米宇宙技術大手スペースXの衛星通信サービス、スターリンクが「中国にとって脅威」であり、反撃能力を備える必要があると主張した。いっぽう、軍事専門家は大紀元の取材に対して、現在の中国の技術力ではスターリンクの機能を無効化できないと指摘する。

軍武次位面は、武器や軍事などをテーマにした映像番組を制作する北京軍武科技有限公司が手がけている。同社の文章コンテンツである5月27日付の記事は、スターリンクの軍事的価値とロシア・ウクライナ戦争における重要な役割を指摘する。同時に、中国の対衛星兵器はスターリンクを打ち負かせるのかを分析している。

スターリンクはウクライナに実質的な通信技術支援を行い、ユーザー端末は数万台にも及ぶ。この支援により、戦場での状況把握や打撃指揮の効率化において、ウクライナ軍の通信はロシア軍を上回ることができた。

「スペースXのイーロン・マスクCEOは、宇宙技術で米軍高官と協力し、間接的にロシア軍に大きな損失を与えた」と記事は伝えている。そしてスターリンクは今後、「中国がロシア・ウクライナ戦争よりはるかに困難で重要な戦いで直面しなければならない相手であり、その脅威は無視できない」と述べている。

スターリンクは、地表から約340マイルの軌道上にある数千個の小型通信衛星を使って、自然災害や戦争で破壊された遠隔地に高速インターネットを提供する。今年5月時点で32カ国で利用可能で、日本では2022年第3四半期にサービス提供予定だ。現在2000基以上の衛星を地球の軌道に乗せているが、2024年には4425基を運用する計画だという。

2月末のウクライナ侵攻後、マスク氏はスターリンクによるブロードバンドサービスをウクライナの人々に提供すると発表した。

スターリンクは、数百の病院や診療所など戦禍の地域に情報ライフラインを届けるいっぽう、ウクライナ軍のドローンがロシアの戦車や陣地に対して効果的に反撃するための役割も果たした。専門誌によると、スターリンクのブロードバンド衛星は全地球測位衛星(GPS)と同じく、インターネット通信のほかに、地球上の位置を8メートル以内の精度で特定できる。

さらにブロードバンド衛星には大きなアップグレードの可能性がある。高精度の偵察やナビゲーション能力を得るなど、軍事技術との互換性が高い。

「他の衛星の通信妨害のほか、無人兵器を搭載すれば敵国衛星を破壊も可能になる。(スターリンクの協力を得られるなら)米国は宇宙戦争で優位に立つことができる」と評している。

いっぽう、「スターリンクには脆弱性があり、電子戦や電磁波の干渉によってシステムが麻痺する可能性がある。北京は対衛星兵器の開発で大きな進歩を遂げている」と強調。運動エネルギーミサイル、ロボット、レーザー兵器を紹介した。

また中国の衛星測位システム、北斗衛星導航系統について「精度を向上させアップグレードが必要だ。中国がハッキング手法を強化できれば、宇宙開発競争の勝算は間違いなく高まる」と記事は伝えている。

2021年、中国甘粛省九泉市の九泉衛星発射センターで行われる神舟12号の打ち上げ前の記者会見で、中国スペースステーションの関係者が会場に参加する (Photo by Kevin Frayer/Getty Images)

専門家「北京はスターリンクに勝てない」

北斗航法衛星が数十基であるのに対し、スターリンクは単独で2000以上を所有する。5月28日、軍事評論家で中国専門家の夏洛山氏は大紀元に対し、圧倒的な衛星数の差はこの宇宙競争において中国の劣勢を示していると述べた。

「スターリンクを無力化する前に、(反撃を受けて)北京はグローバル・ナビゲーション衛星を失うかもしれない。測位能力を失えば中国では多くの軍事機器や民間施設が麻痺する。無論スターリンクを壊すことなどできなくなるだろう」

コンピューターネットワークによる衛星攻撃は、各国が衛星撃墜を決定する前に試みる標準的な方法である。「北京の運動エネルギーミサイルは、ある軌道高度にいる衛星を攻撃できるかもしれないが、中国は他国の衛星を落とそうとする前に、いくつかの課題を考慮しなければならない」と夏洛山氏は付け加えた。

「他国の衛星を破壊する場合、自国衛星の生存を確保できるのだろうか。他の国も中国衛星を破壊する能力を持つことになり、より高い代償を払うことになるかもしれない。もし北京が上記ミサイルで衛星を撃墜する場合、宇宙ゴミが軌道上に残るため、中国の衛星や他の宇宙船にも被害が及ぶ。国際的な怒りを買い、中国への厳しい制裁を招くことになる」と、夏洛山氏は語った。

夏洛山氏は、高度な宇宙船を使っての衛星捕獲や無力化する技術があることを示唆したが、中国はその分野ではまだ米国に追いついていないと指摘した。

米国、中国とロシアが「重要な」衛星を標的にした兵器を追求

国防情報局(DIA)の報告書によると、中国とロシアは米国の衛星を攻撃できる兵器を開発しており、過去数年間、中露の宇宙資産が大幅に増加していることも判明している。

「宇宙はますます軍事化されており、複数の国が衛星と対空間兵器を開発し、テスト、配備している」と報告書は述べている。

この報告書「2022 Challenges to Security in Space」によると、宇宙空間の軌道上にある衛星の数は、2019年から2021年の間に中露で合わせて70%以上増加した。米国と同盟国による宇宙空間の優位性を揺るがそうとする中露の野心がうかがえる。

「特に医療、災害対応、天気予報、金融取引など重要な社会・経済分野において、より多くの国やサービスが宇宙基盤能力に依存しているため、これらの能力が損失や劣化してしまえば、日常生活に支障をきたすだろう。宇宙資産の混乱は、おそらく重要な軍事・情報能力の劣化につながる」と報告している。

GPSからミサイル警告技術に至るまで、無数のシステムが効率的な運用を人工衛星に依存しているため、宇宙の支配は大国間の近代戦争に勝つために不可欠であると考えられている。

そのため、米国の宇宙基盤は、長い間、中露の軍事・情報活動の標的になってきた。11月、デービッド・トンプソン宇宙軍将軍は 「米国の宇宙基盤に対して、中露は毎日一方的なサイバー攻撃と電子攻撃を行っている」と述べている。3月、アヴリル・ハインズ国家情報長官は、中露の協力は今後数年で大きくなると証言している。

DIAディレクターのスコット・ベリエ中将は、この報告書の出版記念声明の中で、「宇宙基盤である通信とナビゲーション・サービスの喪失は、紛争時に戦闘員に壊滅的な影響を与える可能性があり、最も深刻なシナリオの1つである。中露の宇宙基盤能力と電子戦活動が成長し続ける中で、安全で安定した、アクセス可能な宇宙領域は非常に重要である」と語った。

このように、「米国の宇宙基盤インフラを弱体化、攻撃したりする中露による努力は、緊急かつ長期的な脅威となっている。北京の目標は、広範で完全な能力を持つ宇宙大国になることである。安全で安定、アクセス可能な宇宙空間を確保するための米国の努力は、現在厳しい脅威の下にある」と報告書は述べている。