「ドナーは法輪功」 元組長が見た闇の臓器移植の現場

2022/06/23
更新: 2024/10/03

 

「隣の部屋にドナーがいるから見ないか」。

元山口組系暴力団の組長で、現在「猫組長」の名前で活動する経済評論家の菅原潮氏は15年前、思わぬきっかけで闇の臓器移植の現場に立ち会った。

武装警察の高官が関与

菅原氏の知人が肝臓を悪くし、余命宣告されたのは2007年だった。臓器移植しかもう残された道はなかった。米国やフランスなどの国も候補として上がったが、最短で手術可能な中国を知人は選んだ。

ドナーは1ヶ月後にすぐ見つかり、同年8月に手術の準備が整った。斡旋したのは日本での留学経験をもつ中国人で、中国の富裕層を日本の病院に案内する医療ツーリズムの業者だ。

しかし、手術直前になって、病院側が用意したアルブミンという血液製剤が偽物だと判明。菅原氏はアルブミンを日本で調達し、北京に届けるよう依頼を受けた。そこで闇の臓器移植の一部始終を知ることとなった。

中国側関係者の指示で大連経由で北京空港に到着したが、ハプニングに見舞われた。無許可のアルブミンの持ち込みが禁止されているため、一時身柄を拘束された。その時、登場したのは武装警察の高官だった。

中国では、権力を持つ高官の関与がなければ、臓器移植ビジネスを行うことは不可能だと菅原氏は指摘した。

無事解放された菅原氏は、4人の武装警察の護衛を受けながら、高官とともにVIP専用の通路やトンネルなどを利用して北京市内に入った。

手足の腱を切られた「ドナー」

手術の前日。知人を見舞うため北京武装警察総病院に行くと、「隣の部屋にドナーがいるから見ないか」との誘いを受けた。

カーテンを開けると、手足に包帯を巻いているドナーが寝ていた。「21歳の男性だった。薬で眠らされているから、本人に意識はないのだが」。

2014年7月20日、台湾の法輪功学習者は、臓器狩りのデモンストレーションを行い、問題を周知させようとしている(Mandy Cheng/AFP/Getty Images)

男性は両手両足の腱を切る手術を受けたという。逃走防止と緊張緩和のためだという。臓器を良い状態に保つためでもあった。「若くてとてもいい肝臓だ」と紹介された。

病院で移植コーディネーターを務める医師は、ドナーが「死刑判決を受けた犯罪者だ」と説明した。詳しく尋ねると、「法輪功」と打ち明けられた。

「いずれは死ぬから人の役に立って死ぬのだ」。コーディネーターに罪悪感は全くなく、むしろ正しいことをやっているような口調だった。

さらに「中国は人が多いので、いくらでも適合するドナーは用意できる」と言い放った。

菅原氏は病院でドイツやサウジアラビアからの患者も目撃した。「日本人もたくさん来ていると聞いた」と同氏は語る。

臓器は「ドナー」が生きたままの状態で摘出され、移植された。「当然でしょう。一番良い状態で移植できるから」という。

だが、移植手術は失敗し、知人はそのまま亡くなった。遺体を日本に搬送するための費用を含めて、総額3000万円ほどかかった。

法輪功学習者やウイグル人が犠牲に

2006年、アメリカに亡命した中国人女性は、中国で法輪功学習者をターゲットとする臓器摘出・売買が行なわれていると告発し、「臓器狩り」事件はようやく明るみに出た。

法輪功は1992年に中国で伝え出された気功修煉法で、中国当局の統計では国内に7000万人から1億人の学習者がいた。しかし、人数の多さに脅威を感じた江沢民元共産党総書記は1999年7月に弾圧を命じ、多くの学習者は投獄された。

中国での法輪功修煉者からの臓器摘出問題に関する調査報告の共著者、人権擁護弁護士デービッド・マタス氏。2007年5月29日、カナダ議会での公聴会で。(大紀元)

臓器狩りを調査したカナダのデービッド・マタス弁護士らが、中国の病床数や稼働率などから割り出した臓器移植数は年間6万件から10万件。中国は移植臓器の供給源は死刑囚だと説明しているが、年間数千人とされる死刑囚の数と乖離がある。

マタス弁護士は、法輪功学習者やウイグル人が「生きた臓器バンク」として、需要に応じて臓器を摘出されていると指摘した。

法整備待ったなし

「臓器移植はとても闇が深い」と菅原氏は語る。

日本の医師も中国の臓器が出所不明だと分かっているが、あえて触れないのだという。「利害が患者と一致するから医師も目をつぶっている」。知人の移植手術に日本の医師が北京まで付き添った。

現在、世界各国で違法な臓器売買の温床になりうる海外渡航移植を規制する動きが出ている。イスラエル、スペイン、台湾、イタリアなど7つの国と地域で移植ツーリズムを禁止する法案が成立している。

台湾では法整備後、中国本土への移植ツーリズムが大幅に減少したとの報告があった。海外での手術を希望する患者が少なくない日本での法整備が急がれる。

政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。
高遠