中国主導「トロール漁マフィア」が跋扈する…パキスタンの漁師、収入枯渇

2022/07/17
更新: 2022/07/16

現地の漁業者によると、パキスタン南部沖で中国主導の「トロール漁マフィア」が漁業を壊滅させ、海底を破壊し、海の恵みに頼る合法的に操業する漁業者とその家族の生活を破綻させている。

さらに、中国の国営企業がグワダル港を漁業者に対して閉鎖するなどの「セキュリティ」対策を実施し、地元経済への悪影響が深刻化している。

伝えられるところでは、大型船舶と、多くは中国人で一部に付近の州出身者も含まれる乗組員たちは、通常夜間に違法操業している。70~80%の人々が小型ボートでの合法的な漁業に収入を依存する港町グワダルでは壊滅的な影響が出ているにもかかわらず、中国当局者からの強制的な圧力を受けて、パキスタン当局は不法漁業をしばしば黙認していると批判が上がっている。

2022年6月にオンラインニュース誌「ザ・ディプロマット(The Diplomat)」が報じたところによると、非倫理的な漁業者は禁止された網で海底を引きずり、貴重な違法種を狙い、大量の混獲を引き込んだり、不要の魚を投棄するか、または極めて低い価格で売ることで海底を傷つける「トロール漁マフィア」と呼ばれている。

違法漁業は、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)の構築をつうじて長年にわたり行われてきた。2015年、中国は、一帯一路計画の一環として620億米ドルのインフラプロジェクトを開始し、かつては閑静な漁村の経済的中核だったグワダル港をCPECの沿岸ターミナルに選定した。完了すると、アラビア海から中国の新疆ウイグル自治区まで3,000キロメートル以上に及ぶ、鉄道、道路、パイプライン、工業地帯の貿易ルートが生まれることになる。

戦略国際問題研究所(CSIS)が2018年4月に発表した報告書によると、中国共産党がグワダル港に別の目的を持っている可能性があることは以前から憶測されていた。「パキスタンのグワダル港:インド太平洋の中国の真珠の首飾りの中にある新しい海軍基地」と題された戦略国際問題研究所の報告書には、「グワダルにおける人民解放軍海軍の展望は、インド太平洋地域での海軍の存在を拡大しようという中国の取組みとつながっており、より深刻な安全保障上の問題を投げかけている」と記されている。

バロチスタン州の深海グワダル港を運営しているのは、中国共産党が運営する中国海外港湾保有会社(COPHC)だ。開発計画の一部には、グワダル漁業者に対して港の多くを閉鎖するなど、厳重な警備の提供が含まれている。

中パ経済回廊はパキスタン沿岸部の住民、特にグワダルの住民に経済的繁栄を約束して発表された。しかし、違法漁業の増加による漁業の枯渇と、治安対策の強化による合法的な漁獲量の減少に対して、1年以上にわたり怒りや抗議の声が挙がっている。

「中パ経済回廊とグワダル港(取引)が始まる前には、開発と雇用をもたらされることで私たちの生活が変わると聞いていた」とガーディアン紙(The Guardian)に語ったのは、パキスタン沿岸海域で50年にわたり漁業を行ってきた70歳のアクバル・ラエス(Akbar Raess)氏だ。「しかし、私たちは生計手段と海を失った」

一部の抗議者は、中国の船舶と乗組員に100件もの漁業許可証を発行したとして当局を非難しているが、当局はこれを否定しているとガーディアン紙は報じている。

バロチスタン沖で起こっているような違法・無報告・無規制漁業(IUU)は世界中で問題となっている。2022年6月下旬、ジョー・バイデン(Joe Biden)米大統領はIUU漁業に関する国家安全保障覚書(National Security Memorandum)に署名した。また6月には、世界貿易機関(WTO)がIUU漁業を抑制し、減少する漁業資源の負担を軽減し、保全と管理措置の改善を通じてより高い透明性と説明責任を確保するという歴史的な合意に達した。WTO協定は、環境保護主義者によって世界中の魚の個体群を枯渇させる最大の要因と見なされている補助金を明示的に禁止している。

「グローバル・タイムズ(The Global Times)」紙によると、2022年6月に中国共産党はパキスタン海軍に4隻の強力な054 A/P型フリゲートのうち2隻を納入し、残りの2隻が上海で建造中だ。

2022年6月のシンクタンク「Geopolitica.info」, による分析によると、軍艦は機械的な問題を多く抱えているものの、特にインドでは、中国共産党がインド洋での戦略的な位置づけに舵を切っているのではないかとの懸念が高まっている。

Geopolitica.infoによると、軍艦が目標に命中しないのは、搭載されたミサイル・システムが目標にロックオンできない等、さまざまな欠陥が原因だという。その例として、船舶の上空・地上監視センサーにも欠陥があったことが、独立的なセキュリティ・防衛ニュース「TheDefensePost.com」によって2022年6月に報告されている。

中国はこれまでにも、スリランカのハンバントタ港やミャンマーのベンガル湾のチャウピュー港など、受け入れ国にとって経済的に持続不可能な一帯一路プロジェクトに資金を提供するなど、他の地域の港湾を掌握してきた。

2022年3月、「ポリティコ(Politico)」誌は「中国はインド洋で何を望んでいるのか?」と題した記事の中で、「短期的に見ると、中国は中東の石油供給、海外で働く数十万人の中国人移民労働者、および海外投資を保護することを目指している。しかし、長い目で見た場合、中国は必要に応じてインド洋に相当の軍事力をもたらすための基礎を築いてきた」と述べている。

グワダル港の使用が経済的、軍事的、またはその両方が目的であれ、海軍による取り締まり強化も、ほとんどの例外を除いて、違法漁業を防ぐことができていない。

ガーディアン紙によると、パキスタン海上保安庁(Pakistan Maritime Security Agency)は2021年7月、グワダル付近で違法漁業を行った疑いで5隻の中国籍トロール船を拘束した。だが、違法漁業の容疑で船舶が拘束されるケースは稀だ。

5隻のトロール船とその漁獲物が没収された後に高まった批判に対して、中国海外港湾保有会社は、中国船舶は嵐を避けるために海岸近くを航行したと主張しているが、現地の漁師は信憑性がないと述べた、とガーディアン紙は伝えている。

2021年12月の「ザ・ディプロマット」の報道によると、中パ経済回廊は地元住民に損害を与えている。「開発作業の結果、地元の人々は生計の基盤を失い始めている。多くの人たち、特に漁業従事者が職を失った。中国のプロジェクトや労働者を過激派の攻撃から守るために港町のセキュリティが強化されており、地元経済は混乱に陥っている」

ガーディアン紙に対し、漁師のラエス氏は「何世紀にもわたって私たちはここで漁をしてきた」とした上で、「祖父も漁師をしていたし、子どもたちも漁師だ。この海は私たちに生計をもたらしてくれる。中国のトロール船は私たちの生計を台無しにしている。政府が彼らに漁業権を与えるのを止めるまで、私たちは彼らに抗議する」と語った。

Indo-Pacific Defence Forum