オーストラリアのニューサウスウェールズ大学(UNSW)の原子力工学専門家は、原子力潜水艦(以下、原潜)の配備は、核兵器開発に直結しないと主張している。
2021年9月、オーストラリアが英米と三国間安全保障協定「AUKUS(オーカス)」に署名し、オーストラリアは少なくとも8隻の原潜を配備することとなった。これは、インド太平洋地域における脅威の抑止力と安定維持の強化を主目的としている。
オーストラリアは核兵器不拡散条約に署名した1970年以来、核兵器を拒否してきた。しかし、原潜の配備がそれを踏みにじるものではないかと批判が上がっていた。
しかし、UNSWのエドワード・オバード原子力工学プログラムコーディネーターは8月、「AUKUS協定は、オーストラリアの原子力技術に関する一般的な理解を促進するかもしれないが、新しい加圧水型原潜(PWR)で核兵器開発が実現できるという想定は、実にばかげている」と述べた。
原潜配備は核不拡散条約に違反しない
「原子力エネルギー、原潜、核医学、核兵器など、原子力と呼ばれるものは全て同じだという考えを改めなければならない。なぜなら、実際そうではないからだ」と、彼はUNSWのパネルディスカッションで聴衆にこのように語りかけた。
もちろん、これらのカテゴリーには大きな共通点がある。そして軍事用原潜プログラムの運営は、技術者や政府、政策立案者の間で、原子力エネルギーや技術の仕組みに対する理解を深めることにも繫がる。しかし「核兵器は加圧水型原子炉とは全く異なるもの」として「非常に大きな国家規模のインフラを必要とし、莫大な費用も要する」とした。
「核兵器に必要な量の核分裂性物質を作るには、国家規模のインフラが必要であることはよく知られていることだ。現在の核保障措置の下では、秘密裏の製造など到底不可能だ」
「核兵器を手に入れる唯一の方法は、最初から非常に明確に、核兵器こそが探し求めるものであると決定を下すことだ。これは、どの国であっても同じだ。偶然にそうした立場になることはあり得ないからだ」
オーストラリア国防省によると、原潜の「核」とは核兵器の搭載ではなく、船の推進力を意味するため、その配備は核兵器不拡散条約に抵触しない。
政府ウェブサイトにも「核兵器不拡散条約は、海軍の核推進を禁止するものではない」「通常装備の原潜の配備は、核不拡散条約へのオーストラリアの長年のコミットメントに沿ったものだ」と掲載されている。またオーストラリア政府は、民間で原子力発電の事業を始める計画はないと強調した。
なぜ通常の潜水艦ではなく原潜なのか?
中国共産党のインド太平洋地域における近年の動きを考慮し、オーストラリアは、将来にわたって戦略的ニーズを満たせる最高装備の潜水艦を求めていた。
原潜は、ステルス性、速度、操作性、生存力、耐久性の全てにおいて、従来の潜水艦より優れている。探知されるリスクが低いため、紛争水域での活動も期待できる。
さらに、従来型のようにバッテリー充電のためにマストを浮上させる必要もなく、無人潜水艇を配備できるほか、より先端的な武器を大量に搭載することも可能だ。
オーストラリア政府は、英米の原潜に原子力事故は起きておらず、人間や海洋生物に害を与える放射能の放出を一度も経験していないとし、「この技術を制御してきた英米両国の数十年の経験を生かし、オーストラリアもこうした安全を確保し維持していくことを保証する」と主張している。
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