中国共産党は近年、世界のマスメディアを通じて世論誘導を行う「影響力工作」を活発化させている。官製紙を折り込み広告に変え、有力紙の販売ネットワークに入り、プロパガンダの輸出を強めている。米主要シンクタンクの上席研究員は中国メディアの影響力などについて自身の見解を示した。
米外交問題評議会(CFR)上席研究員のジョシュア・クルランツィック氏は、中国政府の影響力工作に関する著書『北京のグローバルメディア攻撃:アジア及び世界に影響を与える中国の偏向的なキャンペーン』を出版した。
クルランツィック氏は、著書の中で影響力工作の例として、中国国営の新華社通信と中国の国営英字紙チャイナデイリー(ChinaDaily)傘下の「チャイナ・ウォッチ」を取り上げている。
クルランツィック氏は、エポックタイムズに対し「新華社は発展途上国や先進国の大手報道機関とコンテンツ共有契約を締結しており、一部の国ではAPやロイターなどと同格のニュースソースとして認識されるようになっている」と語った。
またクルランツィック氏によれば、新華社通信の報道内容は米メディアの間で使用されることは少ないものの、「チャイナ・ウォッチ」は浸透しつつあるという。
チャイナ・ウォッチは、「広告」と表示があるにも関わらず、紙面は中国英字官製紙チャイナ・デイリーの記事で構成されている。中国政府のプロパガンダ色が強く、近年英国や豪州の有力紙が掲載を中止するなど国際社会で警戒の目が向けられている。
チャイナ・ウォッチは世界中の大手マスコミの販売網を借りて共産党イデオロギーを拡散するという目的で、1992年に創刊した。現在30以上の各国大手報道機関の広告枠を購入し、折り込み広告として挿入されている。米紙ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズ(NYT)、仏紙フィガロ、日本の毎日新聞などと契約している。
クルランツィック氏は、「ウォール・ストリート・ジャーナルなど米紙の中には広告の詳細を明確にする優れた仕事をしているところもあれば、そうでないところもある。チャイナ・ウォッチはチャイナデイリーの記事内容を転載しているが、一部の読者は気付かないかもしれない」と話した。
ロシアによるウクライナ戦争 対中印象悪化
中国メディアの現在の影響力について、クルランツィック氏はロシアによるウクライナ戦争で減退したとも見ている。
「中国共産党は他国の現地メディアをコントロールしたり、影響を与えたりしていた。しかし、戦争によるロシアの偽情報キャンペーンと中国メディアの姿が重なり、全体としての効力は限定的となっている」
また中国政府がウクライナ戦争でロシア擁護の立場を示したことで国際社会、特に欧州での対中感情が悪化し、中国メディアの発信力は薄まったと分析する。さらに、中国の経済的圧力や威圧的な外交姿勢などの要因とともに、「多数国で中国を非常に否定的に見るようになっている」とした。
いっぽう、習近平国家主席が中国共産党の総書記として異例の3期目入りを決めたことで、「プロパガンダの輸出にいっそう拍車がかかる」と予想されている。
習氏は15年12月軍機関紙・解放軍報の本部を訪問した際に、「読者がどこにいても、視聴者がどこにいても、そこにプロパガンダが触手を伸ばさなければならず、プロパガンダとイデオロギー活動の焦点と終着点がそこにある」と述べ、プロパガンダ報道の重要性を強調した。
第20回党大会から数日後の10月25日、中国共産党機関紙・人民日報が中国SNS「微博(ウェイボー)」で、党大会の報告で使用されたホットワード上位40語を発表し、中国語原文に英訳が添えられた。
台湾香港協会理事長で政治評論家の桑普氏は、米政府系メディアのボイス・オブ・アメリカ(VOA)の取材に対し、「この手法は、党の専門用語を公式に提供し、中国共産党の定義を英語に訳し、プロパガンダを輸出することが目的だ」と語った。
桑普氏は上位40語の一つに選ばれた「新征程」を例に挙げた。「new journey」と英訳されているが、中国語にある闘争のニュアンスが省かれており、「中国共産党の思想を輸出する際の典型的な戦術だ」と指摘した。
ほかにも、「人民就是江山(人民こそ江山):the people are the country」、「共同富裕:common prosperity for all」、「打虎、拍蠅、獵狐(トラもハエも叩き、キツネも捕まえる):take out tigers、swat flies、 fun down foxes」などの用語が列挙されていた。
クルランツィック氏はエポックタイムズに対し、中国国営メディアを外国代理人として登録したことは有効な手段であるとしたいっぽう、「プロパガンダのコンテンツ共有や有料広告には対処できないだろう」と指摘。そのうえで「質の高い情報源を理解するリテラシーを養成」「中国からのネット上の偽情報拡散を取り締まる制度」が不可欠であると訴えた。
米国では18年9月、米司法省が中国国営新華社通信と国営中央テレビ放送(CCTV)傘下の英語ニュース・チャンネル(CGTN)に対して、外国代理人登録法(FARA)への登録を義務付けた。
(翻訳・河原昌義)
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