「イブプロフェン輸出大国」にもかかわらず 中国では深刻な薬不足

2022/12/28
更新: 2022/12/28

中国政府が「ゼロコロナ政策」を打ち切ってから、約2週間が過ぎた。現在、各地で感染が急拡大中で、北京などの大都市では病院の発熱外来に患者が殺到して、病院も火葬場も多忙を極める状態である。

深刻な医薬品不足で薬が買えない市民が多く、一部の薬は通常の18倍まで価格が高騰している。

中国は言わずと知れた製薬大国だ。鎮痛剤・イブプロフェンは、世界の生産能力の3分の1を占めている。しかし、イブプロフェンの輸出大国である中国の国民ですら入手するのに苦労している。薬を求める市民らは薬局だけでなく、製薬工場の門前にまで直接並ぶようになり、長蛇の列を捉えた動画などがネット上に流れている。

中国メディアによると、中国の大手製薬会社は現在、増産に努めている。だが、感染が拡大する中で流通などが滞り、薬が市民の手に届くまでにはまだまだ時間がかかるという。

医薬品不足の事態について、在米中国人学者の王軍涛氏は、「原因としてゼロコロナ政策によるサプライチェーンの中断や混乱、当局による医薬品の厳しい購入規制などが考えられる」と分析。また、「短期内のサプライチェーンの回復は不可能だ」という。米ラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

中国政府は先月に新型コロナ防疫措置の緩和措置を打ち出している。7日に発表された緩和策「10か条」の中には、各地の薬局の身勝手な閉店を禁じ、薬の購入制限が取り消された。

ゼロコロナ政策下では、感染者が自ら薬を飲んで症状を抑えて病院に行かずに感染を拡大させる事態を防ぐために、多くの地方政府は、解熱薬や咳止め、抗ウイルス剤、抗生物質などの薬の販売を規制している。

上海などでは、風邪薬などを購入する際に実名登録を求めるといった措置がとられた。厳しい制限により製薬会社は減産を余儀なくされ、薬局でも慢性的な品切れが続いている。

「先月には防疫政策の緩和の兆しが見えたものの、製薬企業のところには生産再開や増産を許可する通知が届かなかったため、企業側は様子見の態度だった。これが在庫不足に繋がった」と医薬メディア「賽柏藍」が情報筋の話を引用して指摘した。

また、医療関係者100人が立ち上げたSNSウィーチャット(微信)の公式アカウント「医院院長」はこのほど、「中国にはイブプロフェンを製造するメーカーが500社以上もある。もし(緩和の)1カ月前に通知を出していれば、例え200社だけでも動いてくれていたら、中国人全員分を確保することはできた」と指摘した。「工業大国として、疫病が3年間も続いたのに、今、全国で風邪薬が不足していることは『本当に不可解だ』」と批判した。

解熱剤などの買い占めにより医薬品が品薄になっている事態を受けて、各地政府は購入制限を再度設けた。北京市や広東省珠海市では、イブプロフェンなどの解熱剤は箱ではなく中身を分けて販売するよう薬局に指示した。また、1人1週間につき1種類、6錠までしか購入できないなどの制限も科した。

海外にまで広がる「買い占め」現象

中国での医薬品不足の影響は他国にまで及んでいる。中国本土の親戚や友人に薬を届けようとする在外中国人らによる「買い占め」の現象は香港や日本、タイなどにも広がっている。

中国のSNSには「日本の薬には胃を守る成分が入っているうえ、効き目が早い!まさに神薬だ」と称賛する声などが投稿されており、注目を集めた。症状を緩和させる大正製薬の風邪薬「パブロンゴールドA」などが特に人気が高い。日本各地のドラッグストアを巡り医薬品やコロナ検査薬を購入していく、在日中国人による「爆買い」の様子もみられる。

中国の感染急拡大を受けて、岸田政権は今月30日から、中国からの入国者を対象に入国時の検査を実施するなど、臨時的な水際措置をとることを決めた。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!