【花ごよみ】タケ

2022/12/30
更新: 2022/12/29

古典落語竹の水仙」は、江戸時代の名匠・左甚五郎が主人公である。

 東海道の神奈川の宿。上方から流れてきた貧しい風体の男が、ある宿屋に泊まった。長逗留しながら大酒を飲むこの男が本当に金を持っているかどうか、宿の夫婦は気になってたまらない。

ついに本人に尋ねると「金は一銭もない」。あきれ果てる夫婦に向かい、ならば宿賃の代わりにせよと「竹の水仙」を彫り上げる。

竹の水仙は、まだ固い蕾(つぼみ)のままで開いてはいない。

男に言われた通り水に挿しておくと、ある日、パチリと音を立てて「竹の水仙の花」が咲いた。芳しい香りが漂う。その香りを籠のなかで知ったのは、通りかかった肥後熊本の細川の殿様であった。

殿様が「竹の水仙」を三百両で買い上げると、半金の百五十両が宿の夫婦へ。驚きのあまり腰を抜かす夫婦。「もう少しご逗留いただき、もっとたくさん竹の水仙を彫ってくれませんか」と懇願すると、男(つまり左甚五郎)は「いや、やめておこう。竹が花を咲かせてしまったからな」。

竹は東アジアに広く分布する植物で、釣り竿から建築材まで利用価値が高いばかりか、竹を扱う職人の創造力によく応える、実に有用な素材である。

ただ竹という植物にこれほどの神性や霊性を見るのは、やはり日本人ならではの感性ではないだろうか。「竹に花が咲くのは不吉の前兆」という知識がなければ、先の落語のオチが理解できない。

正月を迎える門に、青々とした竹がよく似合う。