売り出しニッポンの島 問われる領土保全 沖縄のっとりの危惧も

2023/02/17
更新: 2023/02/17

万里を飛ぶ大鵬のように、我も島を飛びたたんーー。農民の子として生まれた尚円は、思想家・荘子「逍遥遊」に登場する伝説の鳥、大鵬に自らをなぞらえ、生まれた島を離れた。

15世紀から19世紀まで続いた琉球王国の初代国王となる尚円の旅立ちだ。尚円の故郷、伊是名村では今も毎年4月に玉御殿に葬られた尚円王を供養する行事、「公事清明祭(くーじぬしーみー)」が執り行われる。

沖縄の伝記に名を残す伊是名村だが、その歴史が揺さぶられつつある。伊是名村の有する2つの無人島、屋那覇島と具志川島は、中国を含む外資によるリゾート開発計画が報じられた。関係者は、中国共産党の政治的な狙いを疑う。「琉球の歴史の乗っ取りではないか」。

試される日本の姿勢

2月初旬、山東省青島出身の30代女性が沖縄県の無人島・屋那覇島を「日本の無人島を購入した」とTikTokで流した動画が波紋を広げている。中国国内のポータルサイトが取り上げ「中国の領土が広がった」「軍事基地を作ろう」などの書き込みも見られる。

屋那覇島をめぐっては、東京都の中国コンサルティング企業がリゾート開発のために2年前に取得したと公表している。島の約半分の土地が2020年から2度に渡り競売にかけられたが取り下げられた。女性とコンサル企業との関係について、大紀元は問い合わせている。

松野官房長官は10日および13日の記者会見で2度に渡りこの問題に言及した。松野氏は、屋那覇島が安全保障上重要な土地の利用を規制する「重要土地等調査・規制法」の対象外としつつ「関連動向について注視していく」と述べた。

沖縄県宮古島の浜辺、参考写真 (Photo by Carl Court/Getty Images)

屋那覇島の購入について数年前、打診されたという不動産業のA氏に話を伺った。実際に何度か島に上陸もしているというA氏だが、リゾート開発計画は中国共産党の政治的思惑を疑っていた。

「30代の女性のSNS発信を不審に思う。超富裕層をターゲットにしたビジネスは目立つようなことは避ける。『私だって島は買えてしまうのよ』と挑発とも取れるアピールだ。政治的な狙いがあるのではないか。こう騒ぐことで、日本の姿勢を試しているのではないか」

小島の物件も取り扱うA氏には、女性のSNS発信以降、一日3件ほど問い合わせがあるという。「中国人が運営する東京の不動産会社からだ。彼らは中国本土の顧客向けに仲介となって日本の不動産を案内している。こうした会社は今かなり増えている」

沖縄の物件については「相当センシティブ。中国のみならず外国籍の方には売れない。売主さんも考慮して売ろうと思わないだろう」と述べた。

A氏は2012年の尖閣諸島国有化をめぐる中国との軋轢に触れ「国は国境離島にもっと国益を見据えて厳しい管理をするべきではないか。こうした土地を外国人に買われるなど失望させられる」と語った。

もうひとつの無人島

伊是名村には無人の島が3つある。屋那覇島が南に位置するのに対し、北には具志川島がある。この島でも、高級リゾートを運営するソネバグループ(ソヌ・シブダサニ最高経営責任者)の開発計画が報じられたばかり。

琉球新報は昨年12月、具志川島でのソネバによる富裕層向けリゾート開発計画について伝えた。初期に200億円を投じ、水上ビラと呼ぶ水上区画コテージ23棟に加え、陸上に低層の客室129棟を建設するという。

ソネバの沖縄リゾート開発については、すでに4年前から公表されている。開発計画にあたり、シンガポールの政府系ファンドGICと米デンバー拠点のプライベートエクイティ・KSLキャピタルパートナーズが2億ドル以上を投資すると、KSLが2019年にリリースしている。どの島の開発計画かは公表していない。

いっぽう前出の中国人女性は、ソネバと屋那覇島の売主との契約頓挫を知って、意欲的に同島の購入に取り組んだと杭州の天目新聞の取材に語っている。

女性は以前TikTokで、法務局や競売などを映した動画を公開。そこで「ソネバ屋那覇島プロジェクト」と書かれた文書ファイルを披露している。文書には島周辺の自然環境、船着き場、水上ビラ、給水施設などの記載がみてとれる。

民間企業の屋那覇島や登記、法務局の資料などを公開する女性のTikTok投稿動画(スクリーンショット)

安全保障だけで語れない 沖縄工作

村については安全保障上の観点では語り尽くせない問題があると、沖縄の歴史専門家で一般社団法人日本沖縄政策研究フォーラムの仲村覚理事長は述べた。

「尚円王の生まれ故郷である伊是名村は、琉球の信仰と歴史にとって重要だ」。ながらく中国共産党の沖縄接近に警告を発してきた仲村氏によれば、外資による「伊是名島の全体を購入する」という話も耳にしたことがあるという。

「琉球王国に縁の深い伊是名、ひいては沖縄のっとりも考えられる。歴史戦で攻めるのであれば、『戦わずして勝つ』つまり歴史を変えて未来をコントロールしようとしているのではないか」

このほか2018年3月に、中国共産党に近い、尚氏末裔を称する男性が福建省を訪れ、沖縄と中国との距離を縮めようとした例を挙げた。

女性の目立ったSNSの情報発信について、意図的との見方は否定しつつ「のちに中国共産党は望むのであれば女性の不動産を入手しうる」と警告した。

実際、中国国内法の規定によれば「収用」は可能となる。時事評論家の唐浩氏によれば、民間企業あるいは個人による投資は、国防動員法や国家情報法により、当局が必要と判断すれば、国防や国家安全保障の名目でその資産を収用可能と解釈できるという。

日本の島 売り出し情報 

日本領土に関する関心は沖縄の伊是名村に限らない。日本の他県の無人島も、中国オンラインで不動産情報として回覧されている。

ポータルサイト九州旅游信息ネットは12日付の記事で、和歌山県、三重県、熊本県などに位置する日本の小島の不動産について紹介し、購入を促している。「この島は私のものだという充足感は何にも変え難い」「未来の島主になろう」。

これらは「日本の国有の島は政府が競売にかけなければ民間人は買うことはできない。 しかし、私有地に購入の制約がなく、お金さえあれば国籍に関係なく誰でも購入することができる」と説明する。

中国による土地購入は安全保障問題も無視できない。

中国政府と繋がりの深い上海電力によるメガソーラーパネル事業で揺れる山口県でも、瀬戸内海に浮かぶ人口わずか3人の小島の一部が中国資本に購入され、建造物が目下建設されている。岩国市の石本崇市議によれば「米軍岩国基地に配備されている飛行機の飛行ルートにあたる」という。

すでに米国は超党派で中国共産党政権を敵対国とする姿勢を一致させ、土地購入規制を州政府レベルで導入している。

日本の領土保全の意識が強く問われている。

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。