英国のトラス元首相は東京で講演し、中国共産党の経済的威圧に対処するため、多国間の協調的な経済制裁を提案した。「締結国一国以上の攻撃を全締結国に対する攻撃とみなす」と定める北大西洋条約(NATO)第5条になぞらえ「経済版NATO第5条」と呼び、協調行動の重要性を訴えた。
17日、対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)などが主催する人権外交フォーラムが開かれた。トラス氏のほか豪モリスン前首相、各国国会議員らが集まり、主要7カ国(G7)の議長国を務める日本および広島サミットに向けた人権外交推進のための具体策を提起した。
トラス氏は、G7とその同志国が世界の国内総生産(GDP)の50%を占めていると強調したうえで、「経済力の重み」を使い貿易や投資、技術輸出に関する制限を講じることができるとした。また「G7と同盟国が経済NATOとして行動して、その影響力を行使すべきだ」と語った。
トラス氏は、中国が今後、経済が困難な状況に陥ることを想定して国内市場を調整しているものの、今なお西側諸国の輸出に依存していると指摘。
「貿易や商業は自由であり、強制的でないことを確認する時だ」「『一人が全てのため、全てが一人のため』の原則といった基本的な価値を守るため」にも、経済的な第5条の導入は必要だと論じた。
トラス氏はこのほか、中国共産党政権による軍事圧力を受ける台湾について言及し、国際的な支援が必要だとも述べた。
トラス氏は孔子の名句を引用して、「安全で自由な未来を確保するためには、過去の教訓を学ぶ必要がある」と強調。ロシアのプーチン大統領による軍事侵略が行われたことを例に挙げて、台湾支援の調整的な防衛、経済、政治的措置のパッケージを策定すべきとした。
「最も重要なことは、手遅れになる前に今必要だ」と力説した。
提言採択
17日夕方、フォーラムは「G7議長国となった日本として能動的な人権外交に舵を切るべき」とする提言を採択した。主催の人権外交を考える会は、人権弾圧や自由で開かれたインド太平洋の実現など、4分野からなる政策提言を発表した。
以下はその全文となる。
今年は世界人権宣言が国連総会で採択されてから75周年目に当たる。ここで謳われている普遍的人権への侵害行為に対して「沈黙」することは「黙認」と同等であり、IPAC 加盟国を含む国際社会は一丸となって行動を起こす必要がある。特に、このような節目の年に G7 議長国となった日本は、今こそより能動的な人権外交に舵を切るべきだ。これらの目標を達成するための具体的な政策として、以下を提言する。
【国際的な人権弾圧】
- 新疆ウイグル・チベット・香港・ミャンマー等で常態化している民主主義の弾圧や人権侵害に対して、無感覚になったり、忘れたりせずに声を挙げ続け、当該行動の停止や抑止に向けた施策や、被害者への救済措置を取り続ける。
- 各国で展開されている中国警察の海外拠点に関する実態解明調査の強化、リスク緩和措置の実施、対象とされた人々への支援体制の整備等を行い、多国間での対応連携を強める。
【マグニツキー法】
- 各国でバラバラに運用されているマグニツキー法制裁の連携を強化させる。特に、G7 諸国は人権外交の足並みを揃えるために、人権侵害に関する情報共有を深め、同法が有する抑止効果にも着目しつつ、共通の人権侵害者を対象とした制裁連携を図る。また、各国は政府と市民社会の間での協調関係を育む。
- この動きをリードすべき G7 議長国である日本は、この国際連携の輪に入るそもそもの前提条件である日本版マグニツキー法を早期に制定させる。同時に、他国における人権侵害状況に関する現状把握能力を高めるために、インテリジェンス能力を向上させる。
【人権とビジネス】
- 各国は政府・企業・消費者が、意図せず間接的に人権侵害に加担してしまわないように、人権 DD の強化、人権侵害製品の市場からの排除、人権侵害に用いりうる製品・技術の輸出規制等の「人権とビジネス」に関する能力構築・法整備を進展させる。
- 日本は人権 DD のガイドライン策定に留まらず、実効性を伴う法制化に取り組む。また、人権侵害製品の市場アクセスや人権を理由とした輸出規制に関する議論を開始する。
【自由で開かれたインド太平洋の実現】
- 各国は自由で開かれたインド太平洋を実現するために、安全保障・経済・価値観の側面において包括的な協力を行う。
- 各国は武力による現状変更を拒否することを確認し、安全保障協力を進展させる。
- 各国は経済的な威圧を繰り返し用いている国に対するサプライチェーン・市場依存を減らし、同志国間での経済関係を活発化させる経済安全保障協力を進展させる。
- 各国は影響力工作や偽情報による自由や民主主義といった価値観への脅威に対し、状況把握に必要な能力構築、対抗策のベストプラクティス共有、多国間の情報共有等を促進させる。
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