台湾めぐる認知戦、一段と激しく 記者のフェイクニュースに米中台当局が反応

2023/03/09
更新: 2023/03/08

台湾に対する硝煙のない認知戦は、昼夜を問わず行われている。先月、米国の台湾政策に関する一件のツイートが世論を揺るがし、米台当局が対応に追われた。外国政府の「代理人」が拡散する偽情報の問題が浮き彫りとなるなか、台湾情勢に詳しい評論家は「認知戦こそ現時点における台湾への最も猛烈な攻撃だ」と指摘した。

バイデン氏の「台湾破壊計画」

米ワシントンで活動するラジオ番組の司会者ガーランド・ニクソン氏は2月15日、以下の内容のツイートを投稿した。

「速報:ホワイトハウスの内部情報によると、ネオコンのウクライナ計画よりも大きな惨劇が起こるのかと尋ねられた際に、バイデン大統領は『私たちの台湾破壊計画を見ておくがいい』と答えたという」

ニクソン氏の投稿は中国国内のネットユーザーの注意を惹きつけた。中国で人気のミニブログ・微博(ウェイボー)では2月22日にハッシュタグ「米国司会者がバイデンの台湾破壊計画を暴く」が作られ、翌日には1.4億ものPVを集めた。

「秘密計画」の話題は台湾にも飛び火した。国民党の元立法委員(国会議員に相当)である蔡正元氏はニクソン氏の投稿を翻訳してリツイートした。さらには蔡氏の投稿に中国政府系メディアは積極的に反応、「環球時報」や「参考消息」は軒並み蔡氏の発言を引用し、バイデン氏の秘密計画について恐怖を煽った。

中国紙「人民日報」によると、中国外交部の汪文斌報道官は2月24日の会見で「私も『台湾破壊計画』とは何かを知りたい。米国側は明確な説明をするべきだ 」と述べた。

外国政府との繋がり

「秘密計画」について投稿したニクソン氏のツイートでは情報源(ソース)が明らかにされていない。ツイッター上での質問に対し、同氏はただ「ソース?」と同じ単語を繰り返し投稿した。「それ(計画)を証明できるのか?」との質問に対しても、同氏は「ソース?」と返すだけだった。

「中国メディアがあなたのツイートを引用したため、衝撃的な話題になっている」とのユーザー投稿に対しても、「台湾が粉々に吹き飛ばされることは誰もが知っている」と弁明さえしなかった。

「米国による台湾破壊計画」説を拡散したニクソン氏は、のちにロシアと繋がりがあることが明らかになった。ロシア官製メディアのラジオ・スプートニクに所属していると台湾外交部は2月22日の声明で指摘したのだ。

外交部は同氏の個人アカウントには米国を非難するセンセーショナルな投稿が多く、信頼できる情報源ではないとも付け加えた。さらに、ラジオ・スプートニクはロシア官製メディアRossíya Segódnyaの傘下にあり、ロシア大統領の行政命令によって設立されたものであると記した。

米国務次官補も困惑

米国のダニエル・クリテンブリンク国務次官補(東アジア・太平洋担当)は台湾外交部が声明を発表した22日の記者会見でこの騒動に言及した。

クリテンブリンク氏は「台湾破壊計画」をめぐる質問を記者から受けて当惑を見せた。確認のために記者に何度か問いかけたうえで「おそらく私の反応を見れば、これが今まで見た中で最も不可解な情報の一つであることがわかるだろう」と述べた。「私があなたの質問を正しく理解しているならば、そのいわゆる速報には何の意味もないのだ」。

クリテンブリンク氏は続けて、「一つの中国」政策に何ら変更はないとし、台湾が十分な自衛能力を維持するための支援を行うなど、「台湾関係法」の義務を果たしていくと語った。

時事評論家「認知戦こそ最も猛烈な攻撃」

台湾情勢に詳しい時事評論家の唐浩氏は自身の番組で、中国共産党は台湾に対する認知戦を絶えず発動しており、米台関係を悪化させようと様々な工作を仕掛けてきたと述べた。

その上で、トランプ政権の対中政策ブレーンを務めたマイルズ・ユー(余茂春、Miles Yu)ハドソン研究所上級研究員の分析を引用し、中国共産党は台湾の親中共メディアと親中共政治家を取り込み、台湾人に対して誤った「認知」を刷り込んでいると語った。代表的なものとして「米国の台湾防衛に対する決心について懐疑的に思わせること」や「米国は台湾を犠牲にして中共の実力を削ぐ」ことを挙げた。

台湾の元立法委員が「台湾破壊計画」を拡散したことについて、唐浩氏は、元政治家が故意にロシアのフェイクニュースを用いて、台湾に認知戦を仕掛けていると指摘。「認知戦こそ現時点における台湾への最も猛烈な攻撃だ。硝煙の匂いはないものの、昼夜の隔たりなく台湾人に影響を与え続けている」と強調した。

政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。
清川茜
エポックタイムズ記者。経済、金融と社会問題について執筆している。大学では日本語と経営学を専攻。