野球WBC、侍ジャパンが世界に示した「真の愛国心」とは?

2023/03/29
更新: 2023/03/29

22日に閉幕したWBC(ワールド・ベースボール・クラシック…/2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™)の第5回大会では、侍ジャパンが3度目の栄冠に輝いた。この勝利の背後には数々の心温まるエピソードがあるが、私は侍ジャパンの言動から「真の愛国心とは何か」を垣間見たのである。

「今日だけは憧れるのをやめて、勝ちにいこう」

決勝戦の前、スター選手揃いの米国との一戦を前にして、ロッカールームで大谷翔平選手は「憧れていたら越えられない。今日だけは憧れるのをやめて勝ちにいこう」と、チームメンバーに向けて自分達の気持ちを上げるべくスピーチをした。

対戦相手を貶めるわけでも、批判することもなく、相手が「本当に素晴らしい」ことも素直に認めたうえで、しっかりと相手に敬意を示しつつも、「決勝戦であるこの日だけ」は、そんな相手に対する憧れを一時的に置いて「勝つことだけに集中し、ともに頑張ろう」という。

これから日本を代表して国家の栄誉勝ち取るために、一戦を迎えようとしている時だ。それでも対戦相手へ敬意を示しつつ、自分や仲間を励ましている。

この大谷選手による素晴らしいスピーチは後に米メディアなどによっても取り上げられている。米メディアは「大谷選手のスピーチやその精神にとても感動した」などと報じた。このエピソードを聞いた米国の選手やファンたちは、決勝で日本に敗れたが、野球のことはさておいても、「侍ジャパン」の品格に心から感服せずにはいられないだろう。

「真の愛国心」とは何か?

大谷選手のスピーチは「真の愛国心」とは何かを教えてくれた。それは、祖国をより良くしていくため、さらには世界が祖国のことを「素晴らしい」と言ってくれるように、祖国に対する自分たちの愛と尊敬の念を実践的な行動に移していくことだ。

同時に、世界にも自分たちの団結や善良、他人への尊重なども示す。自分たちが自分たちの国を愛するのではなく、他国の人たちにも、自分たちの国を好きになってもらう。これこそが「真の愛国心」ではないだろうか。

中国では「歪められた愛国心」

しかし、海を挟んだお隣の中国では、その「愛国心」はかなり事情が異なっている。

中国共産党(中共)が統治する今の中国で、その「愛国」とは、国民に米国を憎み、日本を憎み、台湾を憎み、そして全世界を憎むように仕向け、その恨みを表現することで「党への忠誠」や「愛国心」と見なされる。

もちろん、いわゆる「愛国」の過程では絶えず他国を敵視し、貶しつづけなければならない。こんなことでは、どうして中国が他国から認められ、尊敬されるだろうか。世界から敬遠され、ますます孤立されるのがオチだ。案の定、今日の中国はまさにそのように包囲討伐される局面に直面しているのではないか。

もしこの決勝戦が中国対米国だったら、と思いを馳せてみる。おそらく、試合前のロッカールームには、どこぞの偉そうな指導者がやってきて「同志たちよ。絶対に米帝(アメリカ帝国主義)を倒せ!」「(1900年の)八カ国連合軍の恥辱を晴らせ!」とでも叫んだのではないだろうか。

つまり、中国共産党のロジックの中での「愛国」とは、中国以外の世界の正常な国からしたら、ただの「外国憎み」でしかないのだ。

対戦チームの監督まで虜にした、紳士的な振るまい

WBCではもう1つの、侍ジャパンによる感動的なエピソードがあった。侍ジャパンの佐々木朗希投手(21=ロッテ)の紳士的な振るまいに、チェコ代表が感激したのだ。

佐々木投手は11日のチェコ戦に登板した際、チェコのウィリー・エスカラ選手の膝に162キロという剛速球のデッドボールをぶつけてしまった。同選手は、一時は倒れ込んで悶絶した。

佐々木選手はこの日、降板時にも帽子を取って同選手に謝罪をしたが、エスカラ選手は笑顔で返していた。だが、エスカラ選手は翌日の韓国戦にも出場したが「膝がまだ腫れて痛い」と語っていた。

そこで、死球をぶつけてしまった日から2日後の13日早朝、佐々木選手は自身で購入したという大量のお菓子を持参して、チェコ代表が宿泊しているホテルの前で球場に向かうエスカラ選手を待った。

佐々木選手は自分のロケット(速球)がエスカラ選手の膝に当たってしまったことについて改めて謝罪をし、そのお詫びに大袋2つ分の「ロッテのお菓子」をプレゼントしたという。その後、2人はハグをし、仲良く記念撮影などをした。

                    (チェコ野球協会の公式ツイッター)

佐々木選手のこの紳士的な行動は、ツイッターのトレンドランキングで「ロッテのお菓子」が一時2位に入るほど、大きな話題を呼んだ。チェコ野球協会も公式ツイッターに佐々木選手がお菓子を手渡す様子を映した動画を投稿し、大反響を呼んだ。

同ツイッターアカウント(@BaseballCzech)は8年かけてこつこつ増やしてきたフォロワー数は約2千ほどだったが、侍ジャパン・佐々木の「お見舞い動画」投稿後わずか2週間でフォロワーがその8倍以上の1万6,000を突破したそうだ。

2人の絆に両国のファンのみならず、世界が感動した。チェコのパベル・ハジム監督まで「なんというジェントルマン」「日本の文化には驚かされ続けている」などと語り、「佐々木選手のファンになったよ」と表明するほどだ。                    

佐々木朗希選手(左)とチェコのエスカラ選手の2ショット。(チェコ野球協会公式ツイッターより)

もしも、中国チームが日本選手にボールをぶつけたら?

佐々木投手は日本のスーパースターだ。そんな人が直(じか)に謝罪に行くことで、怪我をした選手は尊重されていると感じたことだろう。スター選手であるのに、高いプライドなど持たないばかりか、むしろ礼儀正しく、他人に気を遣う。誰しも「日本という国は本当に素晴らしい国だ」と思わずにはいられないだろう。

そして世界中の野球ファンも、侍ジャパンのこの「愛ある行動」をみれば、おのずと日本という国が好きになるのではないだろうか。

もしも、中国チームの投手が、同じように日本の選手にデッドボールをぶつけたとしたら、どうなるか。

中国選手は佐々木投手のように、休みの日の朝早くから相手選手に個人的に謝るためにわざわざ足を運んだのだろうか。おそらく謝るどころか、その選手は中国国内で「よくぞ小日本(日本への侮蔑語)にボールをぶつけてくれた!」などと褒められ、「抗日の英雄」として称賛されるだろう。これが、いわゆる「中国人の愛国」なのだ。

今大会で、日本チームである「侍ジャパン」は間違いなく、世界に向けて「愛国とはこういうものだ」という形を身をもって示してくれた。

外国を貶し恨むのではなく、自分たちの善意や平和、そして尊重をもって、より多くの国からの評価と尊敬を勝ち取ること。侍ジャパンはそういう「愛国の形」を示してくれたのだ。
 

(翻訳・李凌)

唐浩
台湾の大手財経誌の研究員兼上級記者を経て、米国でテレビニュース番組プロデューサー、新聞社編集長などを歴任。現在は自身の動画番組「世界十字路口」「唐浩視界」で中国を含む国際時事を解説する。米政府系放送局ボイス・オブ・アメリカ(VOA)、台湾の政経最前線などにも評論家として出演。古詩や唐詩を主に扱う詩人でもあり、詩集「唐浩詩集」を出版した。旅行が好きで、日本の京都や奈良も訪れる。 新興プラットフォーム「乾淨世界(Ganjing World)」個人ページに多数動画掲載。
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