中東・アフリカ 中国による重要鉱物の独占防止に向けて

米国-コンゴ間の協定は、中国がアフリカで独占するコバルト産業の腐敗を立て直せるか

2023/03/30
更新: 2023/03/30

昨年末、米国はコンゴ民主共和国(DRC)およびザンビアとの覚書(MOU)に署名した。この協定は、電気自動車(EV)用バッテリーのサプライチェーン開発の促進を目的としたもので、それにはコバルトや銅などの重要鉱物の採掘が含まれている。

現在、DRCでのコバルト採掘を中国が独占しているため、この協定は注目を集めている。一方、MOUによって、米国が国内の鉱物資源を開発するのではなく、信頼性のあやふやな資源に注力するようになり、最終的には中国を利するのではないかと危惧する批評家もいる。

ザンビアとDRCはどちらも金属資源の最大の原産国だ。なかでも、DRCはより多くの賦存量に恵まれている。通常、銅とニッケルの副産物として採取されるコバルトだが、その世界生産量の70%以上をDRCが占めている。

専門家がエポックタイムズに語ったところによると、「12月13日に署名されたMOUは、米国がサプライチェーンを確保し、中国人が形成してきた腐敗した慣行に徐々に置き換わることを可能にする」という。

国際エネルギー機関(IEA)は2021年に次のように指摘している。「エネルギー転換の中で、コバルトのような重要鉱物のための新しいサプライチェーンの開発が、21世紀のエネルギー安全保障を決定付ける。なぜなら、EVバッテリー駆動製品の消費が増加しているにもかかわらず、少数の国がコバルトの生産を独占し続けているからだ」

3月6日、戦略国際問題研究所が発表した論説の中で、中国-アフリカ関係専門家のクリスチャン・ジェロー・ニーマ・ビャムング氏は、「上手く行けば、DRCとザンビアでEVバッテリー生産の統合型バリューチェーン開発の促進を目指すMOUによって、アフリカ拠点の鉱物サプライチェーンに対する中国の支配を打破できるかもしれない」と述べている。

1月18日、米国務省は次のように発表している。「商業開発のために、米国の民間部門は技術と資金を提供できる。また、米国政府は、DRCおよびザンビアと協力して、民間事業者が当該プロジェクトに公平な立場で参加できる条件を確立していく」

米企業による質的改善へ

トランプ政権時代にアフリカのサヘルおよび大湖沼地域で米国特使を務めたJ.ピーター・ファム氏は、米国の参加はDRCにプラスの影響を与えるだろうとエポックタイムズに語った。

「更なる米国の関与、特に多くの優良企業が参加すれば、環境・社会・ガバナンスの現状が改善されるだろう。競争力を求めていた中国に支配的な地位を与えながら、何年にも亘ってDRCに関わってこなかったことの結果は何だろうか」

昨年の外交専門誌ディプロマットのレポートによると、アフリカで進められている19のコバルト事業のうち15が中国の事業者によって所有または共同所有されている。現在、DRCは中国企業の事業内容について精査している。

スペインの日刊紙エル・パイスの調査報告によると、中国が所有する企業はDRC北部で、白紙委任状態で違法に天然資源を採掘している。

MOUが署名される数か月前に、アントニー・ブリンケン国務長官がDRCを訪問した。国務省は、「米国は蔓延する汚職根絶のために、DRCの新たな誓約を歓迎する」と報告している。

「長期にわたりDRCに組み込まれていった汚職問題が、一夜にして消えてしまうことは期待できない」とファム氏は述べる。これらの問題を克服するには、コンゴ政府と国際投資家の長期的なコミットメントと警戒が必要だ。

「そうだとしても、米国企業は、中国本土の競合他社に比べて、良質な経営改善を行うだろう」とファム氏は述べる。「米国企業は、海外腐敗行為防止法やその他の米国法に基づく強力な法的義務の対象となるだけでなく、企業経営に敏感で、異なる文化的背景を有する株主たちに対しても説明責任がある」

2022年10月12日、コンゴ民主共和国(DRC)コルウェジ近郊のシャバラ鉱山で働く採掘人たち (Junior Kannah/AFP via Getty Images)

多次元の課題

中国によるDRCでのコバルト採掘の独占に対して、業界関係者、人権活動家、議員の間で懸念が持ち上がっている。

DRCのキンシャサで臨時代理大使を務めていた元米上級外交官メリッサ・サンダーソン氏は、独立系ビジネスニュースサイトのインベスターインテルに寄稿し、「DRCとザンビアの資源は、信頼に足るものとは定義できない」と述べている。彼女は、世界的な材料不足によってEV、グリーンエネルギー、防衛産業が直面するであろう大惨事を解決するための米政権側の必死さがこのMOUに示されていると感じている。

「国防と政治的優先事項という二つの狭間で、米国政府は上記の資源の信頼できる調達先を見つけようとやっきになっているが、国内で新たな鉱山を認可する必要性は感じていない」とサンダーソン氏は語る。

サンダーソン氏ら批評家は、なぜ米政権が国内でコバルトや銅などの資源のサプライチェーンを構築する努力をせずに、真逆に見える動きを奨励しているのか疑問を呈した。

北米のコバルト埋蔵量

一方ファム氏は、そうした議論はコバルトには当てはまらないとした。

コバルトはEVバッテリーのみならず、戦闘機用の耐熱性合金やステルス技術で使用される磁石など、多くの用途に使用される。米国のコバルト埋蔵量は非常に限定したものであるため、採掘されたとしても8年以上はもたないだろうと、ファム氏は指摘してる。

「単純な事実として、神様は米国に豊富なコバルトを与えなかった。対照的に、DRCは国外の総賦存量と同じだけのコバルトを賦存している。もし私たちが自分のニーズに十分な量のコバルトを持っていたいのであれば、DRCをサプライチェーンの一部にしなければならず、他に方法はない」

鉱業専門誌マイニング誌(デジタル版)によると、DRCのコバルト埋蔵量360万トンと比較して、米国には5.5万トンしかなく、カナダは23万トンだという。

同誌によると、ビル・ゲイツ氏を含む投資家がカナダでのコバルト探査に資金を提供するほどカナダの埋蔵量が最高水準にあることは、北米のコバルト・サプライチェーンにとって明るい兆しだという。ビル・ゲイツ氏やジェフ・ベゾス氏などの億万長者が支援する、カリフォルニアに拠点を置く新興企業コボルド・メタルズ社は、データ駆動型のアプローチを取り、「機械探査」と呼ばれるものを使用して、カナダに埋蔵されているコバルト資源を見つけようとしている。

コンゴの鉱業エコシステム

一方、コンゴで運営されている巨大な採掘エコシステムでは、問題や論争が絶えない。

ミシガン州立大学のビジネス学習ブログ「グローバルエッジ」の記事で、寄稿者のケード・アリジャン氏は、コバルトは中国とDRCの2カ国だけが支配するユニークな鉱物だと指摘している。DRCは世界のコバルトの約70%を供給しており、中央アフリカ諸国の工業用コバルト鉱山の80%は中国が資金提供、あるいは所有している。

もし、自由と民主を標榜する国々がこの現状に挑まず、自国経済をこのサプライチェーンに依存させるのであれば、DRCでの採掘作業で児童労働が蔓延することになる。ウィルソン・センターの報告によると、コンゴの鉱山では4万人の子供が働かされており、下は6歳の幼児まで含まれると言う。

根底にあるのは、過酷な生活・労働環境下で働く金鉱採掘人の問題だ。ロイターは、現在、最大20万人の採掘人がDNRで働いていると報じている。ウィルソンセンターの報告によると、DRCのコバルト生産量の20%を占める小規模鉱山には適切な保護具がなく、安全基準もほとんどないという。

2021年3月、DRCは「採掘人および小規模鉱業(ASM)」の問題に対処するために、国が支援する「エンタープライズ・ジェネラル・ドゥ・コバルト(EGC)」を立ち上げ、人権、安全、環境基準を尊重し、維持および保護することを主目的として、ASMコバルトサプライチェーンを発足させた。EGC社がリリースで報告している。同社は、採掘人が採掘した全てのコバルトに対する独占的権利を有している。リリースによると、同社はワシントンに本部を置くNGO「Pact」と提携して、「責任ある採掘基準を確立する予定だ」という。

また、サンダーソン氏は「DRCの東部と北部に武装民兵グループがはびこっているため、問題が発生している」と指摘している。

課題への取り組み

ファム氏は、DRCでのコバルト採掘の課題は克服できないものではないと述べている。

「人権やその他の懸念に関して、コンゴが完璧であると主張する人はいない。他のどの国でもそうだ。コバルトが欲しければ、他に現実的な選択肢はないと地質学から学ばなければならない」と述べた上で、DRCにおける米国企業の存在がコンゴでの業界のポリシー・スタンダードを高める可能性があると、付け加えた。

MOUが調印された直後、コボルド・メタルズ社は、ザンビアのミンゴンバ銅鉱床の探査と開発への1.5億ドルの投資を発表した。

2018年2月16日、コンゴ民主共和国(DRC)ルブンバシの工場で、原料コバルトの塊が載ったベルトコンベアを眺める男性。コバルトは主に中国に輸出され、精製される。(Samir Tounsi/AFP via Getty Images)

中国の腐敗対策

専門家たちは、中国企業がコンゴにおけるコバルト生産を独占するために悪意のある戦術を使用したと語っている。

「多くの場合、中国企業は汚職を通じて鉱業ライセンスを取得しており、約束した義務を果たさないこともある。ジョセフ・カビラ前大統領が締結した『ミネラルズ・フォー・インフラ取引』はその悪名高い例だ」とファム氏は述べた。

2007年に署名されたいわゆるシコミン協定は、数十億ドル規模のインフラ用資材の取引きであった。それは、DRCにおける交通・社会インフラの建設と引き換えに、中国のパートナーに鉱業権を与えるもので、国営の中国国際金融銀行からの融資で賄われた。

「米国はDRCのフェリックス・チセケディ大統領に、シコミン合意を含む過去の中国との取引を修正するよう政治的に働きかけたが、これまでのところ具体的な結果をもたらすことができず、ワシントンを大いに失望させた」とビャムング氏は述べた。

ファム氏は、アフリカ大湖沼地域の米国特使を務めていたときに、DRC政府は「これらの疑問についての調査」を開始し、中国企業との「いくつかの論争」もあったと述べている。

中国がボトルネックにならないために

ファム氏は、問題はコバルト採掘以上のことに及んでいると述べている。

「米国にとっての戦略的課題は、コバルトにアクセスできるサプライチェーンを確保することだ。結局のところ、中国企業がコバルトを採掘するかどうかはそれほどの懸念事項ではない。問題は、中国がサプライチェーンのボトルネックになり、米国が加工コバルトにアクセスできなくなることだ」 

「MOUの意図は、大量の銅を賦存しているDRCとザンビアを支援し、自国で加工処理出来るようにして、バリューチェーンの一端を形成させることだ」

「したがって、中国企業が採掘権を保持するとしても、採掘後の鉱物処理は、DRCやザンビア、そして米国および利害関係者による、ある種の合弁事業によって現地で行われるだろう」

「この試みが成功すれば、すべての人が市場価格でコバルトを入手できるようになる。中国がバリューチェーンを獲得することも、コバルト加工の難所になることもできないだろう」

インドと南アジアの地政学を専門とする記者。不安定なインド・パキスタン国境から報道を行なっており、インドの主流メディアに約10年にわたり寄稿してきた。主要な関心分野は地域に立脚したメディア、持続可能な開発、リーダーシップ。扱う問題は多岐にわたる。