【寄稿】激しさ増す米中の宇宙覇権争い 防衛から切り離された日本の宇宙開発は生き残れるのか

2023/04/04
更新: 2024/06/13

H3失敗とサイバー攻撃

3月7日、日本の次世代大型ロケットH3の打ち上げは失敗した。2月17日に打ち上げが計画されていたが、このとき1段目のメインエンジンに着火したものの補助ロケットに着火せず、打ち上げは中止となった。

今般は万全を期して打ち上げに臨んで、1段目には着火してロケットは打ちあがったものの、2段目に着火せず、打ち上げは失敗に終わった。H3はH2の後継として日本が総力を挙げて開発に取り組んできただけに、関係者に与えた衝撃は計り知れない。

開発に取り組んできた技術者の涙ぐましい努力と苦労は、しばしば報道されており、疑いようもなく真摯なものであり敬服に値する。この失敗にめげずに挑戦を続けてもらいたいと私も心から願うものである。

だが宇宙開発において諸外国にあって日本にかけているのは、常に軍事の視点であろう。日本以外の国においては宇宙開発に必ずと言っていいほど、軍事の影がある。宇宙開発は平和的に行われるべきだなどと言う綺麗ごとを信じているのは日本だけであって、宇宙開発の真の目的は宇宙覇権の獲得なのである。

現在、米国は火星に基地を建設するアルテミス計画を推進しており、H3ロケットは、その計画で資材の運搬などの重要な役割を担っている。現に、今回の失敗でアルテミス計画に支障が出ると懸念されている。

アルテミス計画には中国は参加しておらず、中国は独自に火星開発を推進しようとしている。やがてロシアも中国の計画に参加することは間違いなく、東西両陣営は今や惑星の争奪戦を行っている。

宇宙開発は実は宇宙覇権の争奪戦である。19世紀、軍艦が開発された結果、制海権を取った国が世界の覇者となり、20世紀には航空機が発明されると制空権を取った国が世界大戦の勝者となった。従って21世紀には宇宙覇権を取った国が地球の覇者となると見て、両陣営は宇宙覇権の争奪にしのぎを削っている。

従って各国の宇宙開発の部局には必ず軍事関係者や情報機関の部員がいる。ところが日本は例外で、JAXAには、防衛など安全保障の関係者はほとんどいない。そもそも宇宙開発が安全保障の問題であるとの認識すらない。

宇宙開発が敵対陣営から妨害を受けるかもしれないとの警戒心は日本のなかで皆無であり、サイバーセキュリティも通常レベルでしかない。しかし、軍事部門のサイバー攻撃技術は中露とも抜きんでており、通常レベルのサイバーセキュリティでは、攻撃を受けた認識すらできないだろう。

H3の2回のトラブルはいずれも電気信号の異常により生じているが、電気信号を制御するのは半導体であり、半導体は極めて微弱な電流でも誤作動する。電波信号を通じて半導体に誤作動を起こさせる攻撃方法は、日本では認識されていないが、サイバー戦争の最先端では、既に実用化されている。

日本は米国の宇宙開発に協力している。つまり米国の宇宙覇権の獲得に協力しているわけで、当然のことながら米国は日本の宇宙開発を大歓迎するのである。だが、中国は欧米とは一線を画して独自に宇宙開発をしている。米国と宇宙覇権を争っているのだ。

その中国の目には、日本の宇宙開発は中国に対する敵対行為に映るはずである。ならば中国にとっては日本の宇宙開発の挫折は望ましいことであり、軍事的な視点で言えば、妨害することが正しいことになろう。

「疑わしきは罰せず」とは、刑事事件の場合であり軍事の世界では「疑わしきはもっと疑え」というのが原則である。その可能性ないしは危険性があると言うだけでも、広く知らせ注意を喚起することは報道の観点から見ても重要であろう。

中国のスパイ気球と測量艦

2月4日に米空軍の戦闘機F22は、米サウスカロライナ沖で中国のスパイ気球を撃墜した。この気球は米国内の軍事施設の周辺を飛行し、情報を収集していたと見られるが、以前にも同様の気球が米国内を飛行していた。

米軍によって回収された中国共産党のスパイ気球 (U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 1st Class Ryan Seelbach)

米軍は以前から中国が気球を米国に送り込んでいることに気付いていたが、気球から収集できる情報などは限られている筈だから、どんな情報を収集しているのかを探るべく、気球の動向を追跡調査していたのだ。

だがやがて、米軍は恐るべき真相に気付いた。気球はスマホを含む極めて微細な電波情報を収集していたのだ。今日、電子機器の多くはインターネットに接続されており、接続方法に電波信号を用いている。従って、電波信号を悪用すれば、どんな電子機器にも侵入できるのである。

米国が気球を撃墜したことに対して、中国が強い反発示したことから、米国内でも本当に撃墜が必要だったのかという議論が生じた。下院情報委員会の共和党委員長であるマイク・ターナー議員はNBCの番組に出演し、気球が米国全土の機密ミサイル防衛施設や核兵器インフラへと辿るように浮遊したと指摘。追撃の必要性を強調した。

米軍は2月4日に中国の気球を撃墜した後、同月10日、11日、12日と3日連続で正体不明の気球を撃墜した。中国の気球かどうかさえ、定かでない気球を突然撃墜したのは、いかにも過剰反応だと思われるが、過剰反応を米軍がしなければならなかった理由は、上記のような核兵器施設へのリスクを米国防総省が抱いたためだと思われる。

ところが同種のスパイ気球は日本にも飛来していた。2019年11月に鹿児島県上空を飛行していたのが確認されている。言うまでもなく鹿児島県の種子島から日本のロケットは打ち上げられている。ICBMを誤作動させられるのなら、ロケットの発射を妨害することもできるはずである。

さらに興味深いのは中国海軍の測量艦の動きである。中国の測量艦はしばしば、種子島に隣接する屋久島で領海侵入を犯している。事実上の情報収集艦であり電波信号の収集も可能である。昨年9月15日に領海侵入したが、翌月の12日に種子島から打ち上げられたイプシロン6号機は失敗した。

11月、12月と領海侵入し、今年2月12日に再び侵入したが、5日後にH3は補助ロケットが着火せず、打ち上げは直前に中止になった。そして7日には2段目ロケットが着火せず、打ち上げ失敗となった。

いずれも電気信号系統のトラブルと見られるが、サイバー攻撃によって電気信号に障害を起こすことは容易なのである。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
軍事ジャーナリスト。大学卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、11年にわたり情報通信関係の将校として勤務。著作に「領土の常識」(角川新書)、「2023年 台湾封鎖」(宝島社、共著)など。 「鍛冶俊樹の公式ブログ(https://ameblo.jp/karasu0429/)」で情報発信も行う。