オピニオン 上岡隆次コラム

習近平の下克上と未来

2023/04/29
更新: 2024/06/13

ロシアの影響力が低下した

ロシアがウクライナに侵攻すると多くの者はロシアが勝利すると分析した。だがロシアは勝利できず戦争は長期化しウクライナ軍の善戦が世界に報道される。ロシアは自軍の損害を隠すが世界はロシア軍の損害を把握する。骨董品の戦車までウクライナに投入することで損害が事実だと明らかになりロシアの地位は低下した。

ロシアの弱体化は連邦内部に影響し加盟国を守ることすら困難になっている。このためロシアの国境付近の国ではロシアの覇権から抜け出す動きが出るようになった。それに対して中国は覇権が拡大しウクライナとロシアの仲裁国を行なうまで成長している。これは国際社会では中国とロシアの地位が逆転したことを世界に示した。

 

仲裁国の意味

国際社会では仲裁国は強国が行なえる立場。だから国家間の戦争に仲裁国として名乗り出ることは世界に強国であることを示す。さらに仲裁国は公平な立場ではなく強国の友好国を有利にする立場でもある。日露戦争では新興国のアメリカが仲裁国になり日本が有利になるようにした。アメリカとしては日本が得ると思われるシベリア利権を目当てにした仲裁だった。

仲裁国の立場は公平ではないことは現代も同じで、ウクライナとロシアの仲裁国に中国が名乗り出た。ロシアと中国は友好国だからロシア有利にすることは明白。だからウクライナは不利な立場で条件を突き付けられる。

習近平はウクライナと停戦に向けて交渉しているがウクライナが応じるはずがない。それでも習近平は国際社会で下克上が有ったことを宣伝することが目的だから困らない。なぜなら仲裁国は強国が行なう立場だから、当事国であるロシアの仲裁国を行なうことはロシアと中国の立場が逆転したのだ。本来ならばロシアが仲裁国の立場にいるはずが逆なのだ。だから何方に転んでも習近平は下克上で結果を出した人物として記される。

 

漁夫の利で得た結果と現実

ロシアのプーチン大統領は成功が見えないし、ロシアと中国の地位を逆転させた下克上の敗者として名を残す立場。誰もがロシアの勝利を確信したがウクライナが逆転勝利する勢いを見せている。ロシア軍は損害を出すだけで敗北が見え始めた。するとロシアの国境付近の加盟国がロシアに対して不信感を持った。

アルメニアはロシアの保護下で生きているから、ロシア軍が救援に来ないなら独立が困難になったのだ。軍事力は覇権だからロシア軍が助けに動かないならトルコの覇権が拡大するのは当然。3000年の戦争史を見ると覇権の空白地帯は存在せず必ず別の覇権が拡大する。

そんな時に中国の覇権がロシアの領域に拡大している。経済はロシア市場に侵食し、外交はロシアよりも上位になった。だが中国の軍事力は外国に派遣するまで成長していないのが現実。つまり習近平の下克上はプーチン大統領の失態が原因で意図的に行った結果ではない。だから砂上の楼閣の下克上なのだ。

アルメニアの様な国は軍事力による保護を求めている。こんな時に軍隊を派遣した国は強国として地位を得られるが習近平は人民解放軍を投入することは無い。なぜなら中国の人民解放軍は国家の軍隊ではなく共産党の私兵。このため中国国内で人民を征服することが目的なので海外に遠征して作戦することは困難。

習近平も知っているから外交と経済で強気に出ているだけで、人民解放軍を用いた実質的な覇権拡大はできないのだ。別の言い方をすれば脅しと買収で中国に従わせる策を使っている。仮に相手国が軍事力を用いると人民解放軍が活動できない領域が判明するから困るのだ。

人民解放軍が活動できるのは東シナ海・南シナ海などの沿岸部だけ。これ以上は基地ネットワークが無いから活動できないのだ。軍隊は基地ネットワークが有るから補給が得られて継続的に活動できる。しかも基地から継続的に戦場まで往復することで制空権・制海権を獲得できる。これが現実だから、人民解放軍は国内では活動できても国外では継続的に活動できる範囲は限られている。

この状況だからロシア領まで人民解放軍を派遣することは困難。なぜなら中国共産党は地方の省は反乱軍の候補と見ているので、地方の省に有力な基地を建設すると未来の反乱軍を育てることになる。だから海外遠征に必要な基地ネットワークを国内で作ることができなかった。実際に人民解放軍の有力な基地は北京周辺に限定されており、中国の空母・潜水艦は必ず北京周辺に戻らないと整備できない。端的に言えば、人民解放軍を全力で投入できるのは台湾・沖縄に限定されている。だから他の領域に人民解放軍を投入して覇権拡大はできない。これが中国の現実。

 

買収とハッタリしか使えない

実際に習近平がウクライナに行っているのはハッタリによる外交。国際社会では軍事力を背景にした外交を行なうのが基本だが、ウクライナに対してはロシアの代弁でもなく人民解放軍を見せ付けた外交もしていない。習近平はウクライナまで仲裁国として出てきたが人民解放軍を派遣できないからハッタリでウクライナに譲歩を求めている。仮にウクライナに人民解放軍には遠征能力が無いことを知る者がいれば、習近平の言葉を無視することを進言したはずだ。

習近平はプーチン大統領の失態で漁夫の利を得ただけで、流れに乗ったら下克上が成功した立場。ロシア軍は損害回復が難しい状態だからロシアが地位を元に戻すことはできない。そうなるとロシア連邦の崩壊に合わせて中国が覇権を拡大できるとは限らない。軍隊を遠征できる国が覇権を拡大できるから、トルコ・イランが軍隊を使ってロシアの領域に進出する可能性も有る。

今の中国の地位はロシアが存在しているから有効だが、ロシアが崩壊するとロシア経済を植民地化したことが逆に中国経済を苦しめる可能性も有るのだ。習近平がこのことを理解しているなら、中国・ロシア国境付近の土地を素早く奪い取る方針を進めているはず。なぜならロシアの地下資源を獲得すれば資産を得ることと同じ。仮にしていないなら、ロシア崩壊に合わせて習近平も巻き込まれて終わることになるだろう。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。