最後の香港総督パッテン氏「中国共産党は信用できない」 自著の発表会にオンライン参加

2023/06/12
更新: 2023/06/12

1997年7月1日、香港は英国の統治を離れ、中国領となった。来月1日は香港の中国返還26周年に当たる。

これに合わせて「最後の香港総督」を務めたクリストファー・パッテン(漢字表記は彭定康)氏は今月8日、自身の新著『香港日記(The Hong Kong Diaries)』の発表会にオンラインで参加した。その際、パッテン氏は「中国共産党(以下、中共)は信用できない。香港を警察社会に変えてしまった」などと述べた。

元香港総督「中共は信用できない」

同著書は今年5月に出版されており、また最近、台湾では中国語版も出された。作中では、同氏が香港総督として在任した5年間に起きた様々な出来事について、詳細に記されている。

クリストファー・パッテン氏の新著『香港日記』の発表会。(鍾元/大紀元)

1997年7月1日に、英国の統治下にあった香港が中国に返還された。元保守党議員だったパッテン氏は1997年のその日、150年以上に及ぶ英国統治が終った香港で、英国旗ユニオンジャックが粛々と降ろされるの見守った。

「最後の香港総督」であったパッテン氏は、5年間の在任期間を通じて、市民の選挙によって議員(間接議員)が選ばれるなど、香港の政治の民主化に尽力した。それは、政治体制の異なる大国である中国に返還されても、香港が築き上げた民主と自由が引き続き堅持されることを確実にするため、パッテン氏が残した功績といってよい。

実際、香港の返還にあたって、北京の中国共産党政権は、鄧小平氏が提示した一国二制度(一国両制)をもとに「社会主義政策を将来50年間(2047年まで)香港で実施しない」ことを約束していた。

この「中英共同声明(中華人民共和国政府とグレートブリテン及び北アイルランド連合王国政府の香港問題に関する共同声明)」は1984年12月に北京で署名され、翌年5月より発効する。中国側代表は国務院総理・趙紫陽氏、英国側はマーガレット・サッチャー首相である。

しかしその後、今日に至るまでの結果は周知の通りである。50年のほぼ半分である25年で、北京政府の強権的な統治は香港を完全に呑み込んだ。パッテン氏の述べた通り、今や香港は「警察社会」となり、自由と民主は「風前の灯」となっている。

2017年、中国政府は「もはや中英共同声明は意味を成さない歴史的な文書」であると表明した。つまり中国が英国に対し、全く一方的に「一国二制度」の約束を反故にしたのである。まさに、元総督の「中共は信用できない」という一言に尽きるだろう。

新著発表は「中共の本質を知らせるため」

パッテン氏は今回の会見で、中国側が「意味を成さない歴史的な文書」と呼んだ「中英共同声明」についても言及し、「中共は近年、香港を警察社会に変え、香港人の自由な生活スタイルを破壊した。(香港の)自由はどんどん侵食され、約束が次々に破られていった」と述べている。

パッテン氏は「中共政権の本質は、香港に対する接し方を見ればわかる」と指摘し、中共が信用できないことは明らかだと述べた。だからこそ同氏は、この「日記」を発表するに至ったのだという。

さらにパッテン氏は「香港は台湾の鏡だ」という。つまり、台湾を「不可分の領土」と主張する中国が、台湾に対して現行の民主制度の保持を約束し「一国二制度」を提示してきたとしても、それを飲めば「香港と同じ運命をたどる」と警告する。

だからこそパッテン氏は、オンライン参加した自著の発表会で「台湾人は、現在ある民主や法治、報道の自由といった価値観を大切にすべきだ」「全体主義的な独裁体制(中共)に未来はない」と述べた。

カナダ在住の中国人作家で人権活動家の盛雪氏は、鄧小平氏が提示した「一国二制度」について、これは中共自身のいわゆる「中華人民共和国憲法」に反するものであるため、実現はそもそも不可能だったとして、この制度は「中共が香港を掌握するまでの一時的な偽装でしかない」と指摘した。

香港は「人権の泥沼」になっている

現在、中国共産党による浸透いわゆる「紅色浸透」を恐れた香港人の「国外への大脱出」が続いている。

英政府のデータによると、今年3月時点で、英国へ移住するための「英国海外市民パスポート(BNO)」の申請件数は12万件以上にのぼる。

香港人の国外流出に加え、外国資本も相次ぎ香港から撤退している。香港は現在、人材と資金のダブル流出に直面しており、香港当局の調査によると、74%の企業が人材不足に悩んでいる。また、以前には常に満室だった高級オフィスビルが、昨年のテナント空室率は15.1%に達するという。

しかし、香港から脱出するといっても、実際それができるのは経済力のある人や、海外に縁故のある人に限られている。多くの庶民は、この場所で生きていくしかないのだ。

1989年の六四天安門事件から34年を迎えた今月4日、米ロサンゼルスの中国領事館前で行われた「記念イベント」に参加したある市民は、その集会で、今も香港に住むある高齢者が書いたという手紙を読み上げた。

以下に、その内容(原文と邦訳)を記す。香港を脱出したくても、それは決して容易ではない。そのような香港市民の苦悩が、この手紙に凝縮されている。

「今時今日,香港已經成為人權的沼澤地,文字有罪!聲音有罪!漫畫有罪!專業人士有罪!藝術家有罪!仍然留在香港的人,在白色恐怖管治下,你會壓抑,會窒息;離開香港,可能在經濟上、生活上、工作上都會面對挑戰。目前,香港人是艱難的!」

今の時代、香港は「人権の泥沼」になってしまった。               文字も、発言も、漫画も、専門家も、芸術家も、みな有罪にされてしまうからだ!   香港に今も残る人たちは、白色テロの統治下で圧迫され、窒息しそうなほど苦しい。                                  しかし香港を離れれば、経済的にも、生活や仕事の上でも困難に直面するだろう。 今、香港人は本当に辛いのだ!
 

 

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。