「救急車を呼ばないで。お金がないから」 病院を出て路上で震える男性=中国 成都

2023/06/26
更新: 2023/06/27

今月21日、四川省成都市の路上で撮られたという動画がSNSに拡散されている。

動画に映っているのは、路上に座り込み、足をガタガタと震わせながら、苦しそうな表情を浮かべる男性だ。鼻にはチューブが繋がれ、手にも何か医療器具のようなものを持っている。

男性は携帯電話に向かって「それならば結構です。必要ありません。ありがとうございます」と涙ながらに言った。

そのあと、親切な通行人が「救急車を呼びましょうか」と声をかけてくれたが、しきりに手を横に振り、その申し出を辞している。その男性は、自分の名前を「刑涛」といい「(多病のため)救急車の常連です」と息切れしそうな声で返答した。

動画を投稿した中国SNSウェイボー(微博)ユーザーによる説明は、以下の通り。

絶えず(心臓のある)左胸のあたりをかきむしり、苦しそうな表情を浮かべる男性。それに対し、ウェイボーユーザーの市民が「救急車を呼びましょうか」と尋ねた。すると男性は「(救急車を)呼ばないで。払うお金がありませんから」といって断った。

聞くと男性は「先天性の心臓病を抱えているが、もうお金がないため、病院から出てきたばかりだ」という。その手に持つ医療器具の酸素袋は病院からもらったと答えた。

男性が救急車要請を辞したので、はじめに声をかけた市民は、道路の向かいにある火鍋屋へ長椅子を借りに行った。せめて椅子に座らせてあげようと思ったからである。

長椅子を持って男性のところへ戻ると、男性は再度震える右手をしきりに振りながら、今にも途切れそうな声で「ありがとう。でも(長椅子を)戻してください。私はこのようにしゃがんでいたほうが落ち着くから。もう行ってください。どうぞ私にお構いなく」と涙声で断ったという。

そばにいた別の複数の市民も協力して「皆であなたにお金をあげるよ。そのお金で救急車に乗って」と再度この男性を説得したが、やはり男性は「私は必要ないです。ありがとうございます」と涙を拭きながら何度もお礼を言ったという。

救急車に乗って病院へ運ばれたとしても、その先の医療を受けるには高額の費用がかかる。それができないから、この男性は病院を出てきたのだろう。人々の厚意は有難いが、今の彼にとってそれは不可能なのだ。

 

中国では、健康保険制度が未発達であるため、一般の人が病院で医療を受ける場合は、非常に高額な医療費を全額自己負担しなければならない。また救急車を要請するにも、高額の実費がかかる。この動画をシェアしたツイッターユーザーは、次のような怒りのコメントを添えた。 

 「医療、教育、年金、これらは(中国以外の)他の国では最低限の社会福祉事業であり、国が国民(納税者)のために負うべき責任だ。しかし中国では、それらはすべて国の基幹産業として運営され、国民から一銭でも多く搾取するためのビジネスになっている」

「中国人の命の価値を知りたければ、中国の病院に行けばいい。そこ(病院)では(医療費が)高すぎて、多くの庶民は生きることをあきらめざるを得ないのだ」

この動画を見て、怒りのネットユーザーらが引き合いに出したのが、国家が全額負担してホテル住まいのような最高レベルの医療を享受する「中共高官」の例だった。

路上にいて、お金がないために救急車の要請を辞退した男性の「その後」については、動画からは知り得ない。しかし、男性が置かれた状況から推察すれば、そのままどこかで亡くなった可能性が高いだろう。

周囲の市民も気の毒に思い、なんとか彼を助けようとした。しかし男性は、「我不需要幇助(お助けいただかなくて結構です)」といってその厚意を辞した。

すでにこの男性は無欲の人となり、「せめて皆さんにご迷惑かけたくない」という明確な意志で、最期の時を迎えようとしている。

この多病の男性は、おそらく身寄りがなく、お金もない人であっただろうが、他人に迷惑をかけないという意味では善人であったに違いない。

小さなロウソクの灯が燃え尽きるように、名もない庶民の命がまた一つ消える。こうした中国の一般庶民と、特権階級である中共高官との間には、その命の価値においても天地以上の格差があると言ってよい。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。
関連特集: 中国