国際環境法に適用される二つの重要な原則は、領土管理責任の原則(Principle of Territorial Jurisdiction)と均等利用の原則(Principle of Equal Use)である。領土管理責任の原則は「国家が領域主権に基づき自国の領域を使用または使用させる際、他国に重大な損害を発生させないよう相当の注意を払う義務を負う」というものであり、均等利用の原則は「国際河川のような自然資源はそれを共有する2つ以上の国々が均等に利用することができる」というものだ。ここで同等とは、上流と下流の区別がなく、占める流域面積の相対的な大きさにも関係はないことを意味する。
これらの原則に違反すると、国際機関を通じて解決したり、条約を締結して解決策を模索したりするが、極端な場合には戦争にもつながる可能性がある。 実際、1967年6月の第3次中東戦争は河川をめぐる均等利用の原則に違反したため勃発した。 シリアがガリラヤ湖に注ぐヨルダン川の上流を遮断し、ヤルムク川(Yarmouk River)に流そうとすると、イスラエルが全面攻撃を行った。たった6日で終えたこの「六日間戦争」は、「ヨルダン川水戦争」とも呼ばれ、シリアは国際的非難の対象となった。そして、イスラエルはヨルダン川上流管轄権を得た。
領土管理責任の原則も世界各地で違反事例があった。代表的なのがヨーロッパの酸性雨問題だ。 欧州各国は、1984年にジュネーブ議定書、1985年にヘルシンキ議定書、1988年にソフィア議定書、1994年にオスロ議定書を立て続けに締結し、酸性雨の原因物質を削減した。特に隣国に被害を与えた国家が主体的に自国の領土管理を改善した。
近日、日本の福島第一原発の処理水の海洋放出が韓国の海に与える影響について、科学的真実をめぐる攻防が政治的な世論戦争にエスカレートしている。(韓国国内の)反原発勢力と反日勢力に加え、中国まで割り込んできた。これらの勢力は真実を埋没させ、数多くのフェイクニュースを作り、扇動に乗り出している。自分たちの力では日本政府の決定を覆すことができないと知りつつ、韓国国民の反原発・反日感情を刺激するためにあらゆる手段を尽くしている。
福島原発事故は2011年3月11日14時46分、宮城県東海底23.7キロメートルにおいて発生した、マグニチュード9.0という日本の観測史上最も大きな地震に起因する。津波の影響により地下の非常用ディーゼル発電機が浸水し、原発の水蒸気爆発を引き起こし、放射性物質が放出された。最初の2年間、原子炉周辺に落ちた雨水と地下水により放射性物質が海へと流れた。そこで日本政府は2013年3月から、原発周辺に遮断壁を設置し、放射性物質の海洋流出を遮断した。さらに、放射能汚染水を東芝が開発したアルプス(ALPS、Advanced Liquid Processing System)という放射能除去システムで浄化し、タンクに貯蔵し始めた。
韓国の原子力安全委員会は2005年から自国周辺海域で海水や堆積物、海洋生物に含まれる放射能と放射性物質を定期的にモニタリングし、インターネットで公開している。福島原発の放射能汚染物質が(遮断壁設置前までの)ほぼ2年間にわたり海に放出されたにも関わらず、韓国周辺海域ではなんら異変が観測されることはなかった。これは、福島沿岸に流出した汚染水が海流に沿って太平洋に流されて希釈され、影響を及さないという理論を裏付けている。
日本政府はこれまでタンクに貯蔵していた処理水について、国際原子力機関(IAEA)の専門家による検証を経て、2021年4月13日に海洋放出を決定した。法令手続きや設備などを準備し、2年後に放出する計画を立てた。漁業関係者の反発はあるものの、海岸から1キロ離れた場所に海底トンネルを完成させ、7月から30年間かけて放出する予定だ。
過去には多くの国々が船舶を利用して公海上に廃棄物を捨てたり、焼却したりした。1972年、国際海事機関(IMO)はこれらの行為を禁止するロンドン条約(London Convention)を採択し、1996年にはロンドン議定書(London Protocol)としてさらに厳格化した。日本が処理水を公海上に捨てず、自国の海岸に放出するのは、ロンドン議定書に基づく国際的な非難を避け、浄化処理効果を確信しているからだと推測される。公式発表によると、処理水の放射性物質は世界保健機関(WHO)の飲料水基準より6~7倍もきれいな水準だ。
2011年の福島原発事故以降に観測されたデータからは、日本が国際環境法に違反したと言える証拠はない。しかし、処理水の海洋放出に反対する韓国国内の人々は、いまだ懸念を示している。事故直後の2年間、汚染水がそのまま海洋に流入していた時期でさえ韓国周辺海域では異変が見られなかったのに、飲料水よりもきれいな状態に浄化された処理水が放出されることで被害を受けるという主張は非科学的だ。
国際環境法違反の有無を知りたければ、処理水放出後の観測データを確認すればよい。実際のところ、北東アジア地域で黄砂や微細粉塵、そして海洋汚染などで領土管理責任の原則を頻繁に違反している国は中国とモンゴルだ。この機会に北東アジア全体で領土管理責任の遵守に関する深い議論が行われることを期待する。そして違反が確認された場合、どの国であれ断固とした対応を取るべきではないだろうか。
※原文は2023年06月21日、韓国語エポックタイムズに掲載されました。
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