2カ月前には「バーベキューの聖地」 今は売却店舗があふれる惨状に=中国 山東

2023/07/06
更新: 2023/07/06

今年の5月の労働節(メーデー)の大型連休期間中、中国で一大ブームとなったのが、山東省淄博(しはく)市の「ご当地グルメ」である「淄博バーベキュー(BBQ)」だった。その「バーベキューの聖地」が今、惨憺たる有様になっているという。

やはり「偽りの繁栄」だった淄博BBQ

中国の官製メディアをはじめとする中国メディアの宣伝もあり、「淄博BBQ」を目当てに、一時は、全国各地から来訪する旅行者がこの小さな地方都市を埋め尽くさんばかりの勢いだった。

バーベキューを提供する飲食店だけでなく、宿泊施設から食材を納入する関連企業まで、確かに当時は大盛況を呈した。官製メディアは、これを「中国の景気回復の兆し」として大いに宣伝した。

中国経済は、昨年12月初めまで続いた「清零(ゼロコロナ)政策」によって企業の倒産が相次ぎ、まさに瀕死の状態にまで至っていた。街には失業者があふれ、大学新卒者もほとんど就職できない経済の惨状は現在も続いている。

そこで、手段を選ばない中国政府は、民衆の不満をなんとか抑制するため「露店の商売」まで奨励した。

もちろんこれは中国経済を回復させる実質的な政策ではなく、あくまでも民衆を爆発させないための方便にすぎない。民衆は、苦しい今を必死で生きている。その民衆へ「自分で露店をやって生きろ」と政府が言うことは、自己の無能を露呈したに等しい愚策と言ってもよい。

そのような背景があって一大ブームとなった「淄博BBQ」は、もとより政治的な必要性から意図的に演出された「偽りの繁栄」であった。

今年のメーデー旅行の特徴が、あまり費用をかけない「貧乏旅行」だったこともあり、旅行者数が増えたわりには、国内の観光収入の増加はわずか0.66%にとどまったとするデータもある。つまり連休中、人の動きはそこそこあったが、経済は期待したほど活性化しなかったのだ。

淄博BBQをふくむ連休経済がもたらす賑やかさについて、「これは一時の繁栄でしかない。大型連休が終われば、必然的に、さらに長期間にわたる不況が訪れるだろう」として、ブームが盛んだった当時から冷静に分析する専門家も少なくなかった。

実際、あの大盛況から2カ月経った現在、「バーベキューの聖地・淄博」は本当に専門家の予測通り、あるいはそれ以上の「惨状」を呈しているようだ。

BBQの「火」は消え、あふれる売却店舗

中国メディア「中国新聞週刊」5日付は、生活サービスプラットフォームである「58同城」のサイト上に見られる情報を引用して「淄博BBQの店舗を譲渡する広告が数百件もある」と報じた。

つまり、あれほどブームに沸いた「バーベキューの聖地・淄博」の景気はわずか2カ月あまりで急落し、今や「売り店舗」の広告があふれているというのだ。

これらの売り店舗の多くには「新規オープン」「リフォーム済」「設備も新しい」といった共通した特徴がある。

つまり、2カ月前のブームに乗じて新たに投資した物件であったが、店舗として稼働する機会もなく、いきなり譲渡先を探すはめになっているのだ。

それらの店舗は「譲渡後すぐに営業可能」とうたったものも多く、譲渡費用は十数万元~数十万元だという。仮に「50万元」とすれば、日本円で1000万円ほどであろう。すでに値崩れした結果がその値段であろうが、それでさえ、今の状況では買い手がつくかは分からない。

早く譲渡しなければ「損失が大きくなる」

5日、「淄博BBQどうなった?」のハッシュタグがつけられた話題が中国SNSウェイボー(微博)のホットリサーチ(トップ10)入りした。

地元である淄博の業界関係者によると、ほとんどの店舗の主な譲渡原因は「ブームが冷めてから、さっぱり客が来ないからだ」という。

そこには「市場が完全に冷え込む前に売却してしまったほうが、損失が少ない」という、完全に「守り」や「逃げ」に入った淄博の実状がある。

業界ごとのトレンドなどを分析する外部分析ツール「巨量算数」のデータによると、キーワード「淄博BBQ」の検索指数は4月9日時点では247万だったが、4月29日にはピークの「1105万」に達した。

しかし、メーデーの連休中から数値は下降傾向になり、6月30日になると10万まで落ち込んでいたという。わずか2カ月で、かつての「聖地」は全く忘れ去られたのだ。

今年4月から淄博BBQに新規参入し、150平方メートルのBBQ店を経営する周さんは、かつての繁栄を振り返ってこう語った。

「メーデー期間中は、午後3時から長蛇の列ができていた。明け方の3時になってもまだ満席で、1日にお客が100回も回転するほど繁盛した。当時は忙しすぎて、2~3時間寝るのがやっとだった」

だが、今では1日営業しても2、3テーブルしか客が来ないという。「これでは日常の経費すら賄えない」と嘆く周さんは、わずか2カ月でこのようになった今の惨状を「断崖式の下落」と呼んだ。

「断崖式」は中国語の言葉で、株価や自身の政治的地位が急落するような場合に使われる。その文字の通り、崖から落ちるように「バーベキューの聖地」の火は消えた。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。