バイデン大統領の経済政策「バイデノミクス」 その特徴と問題点(1)

2023/07/12
更新: 2023/07/12

次期米大統領選挙を見据えて、ホワイトハウスはバイデン大統領の経済政策を「バイデノミクス」と呼ぶ新たな広報キャンペーンを開始した。

6月17日、バイデン氏は東部ペンシルベニア州フィラデルフィアで開かれた労働組合主催の選挙集会で「それが何なのか……わからないけど、うまくいっている」と述べ、バイデノミクスについてアピールした。

ホワイトハウスの声明によると、バイデノミクスは、先端半導体やクリーンエネルギーといった重点分野への投資、労働組合と国内製造業への支援、競争促進という3つの柱から成っている。

ホワイトハウスは、バイデノミクスの下で「我が国の経済は、80万人近い製造業の雇用を含む1300万人以上の雇用を生み出し、製造業とクリーンエネルギーブームを引き起こした」と経済政策の成果を誇示した。

2022年のCHIPS法は、米国の半導体製造を強化するために2800億ドル(約38兆円)の連邦資金を拠出。2021年のインフラ法では、「クリーンエネルギー」プロジェクトに650億ドル(約9兆4千億円)以上を拠出し、2022年のインフレ削減法では、税制優遇措置、融資、助成金という形で、クリーンエネルギーの開発に更に3940億ドル(約56兆円)が割り当てられた。

米国立法交流評議会(ALEC)のチーフ・エコノミスト、ジョナサン・ウィリアムズ氏は、エポックタイムズに対し、バイデン政権について「私ならトリクルダウン型の大きな政府と定義する」と述べ、バイデン政権の経済政策の特徴は「政府権力の成長と拡大、そして確かに巨額の政府支出である」と語った。

米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)ジェイク・サリバン氏によれば、バイデン氏が大統領に就任した際、「米国の産業基盤は空洞化していた。戦後、アメリカン・プロジェクトに活力を与えてきた公共投資というビジョンは、我々の歴史の大部分において色あせてきた」と述べた。

サリバン氏は、安全保障問題を担当しているにもかかわらず、経済政策のスポークスマンとなっていることも否めない、バイデノミクスと対比されるレーガノミクス(減税、貿易自由化、規制緩和)への強い批判を繰り返している。

サリバン氏はワシントンのシンクタンク、ブルッキングス研究所での4月の講演で、「この政策(レーガノミクス)の中心には、市場が常に生産的かつ効率的に資本を配分するという前提があった」と語った。

いっぽう、サリバン氏はバイデン政権の経済政策について、「バイデン大統領は…21世紀のクリーンエネルギー経済の構築は、21世紀における最も重要な成長機会の1つであると確信している」 とし、そのうえで「このチャンスを生かすために、米国はイノベーションを推進し、コストを下げ、良い雇用を創出するための、計画的で実践的な投資戦略を必要としている」とした。

政府は民間産業を指導するのに最適な立場にあるというバイデン政権の主張にかかわらず、一方で無駄と失敗が政府の産業政策の特徴だという批判もある。

「政治的な投資家」

レーガン大統領、トランプ大統領およびサッチャー英首相の元顧問で、経済学者のアーサー・ラッファー氏は、エポックタイムズに対し「政府は良い投資をすることが職責ではない」としたうえで、「彼らは良い投資家ではなく、政治的な投資家だ」と指摘した。

政府が民間部門に影響を与えようとすればするほど、民間部門は政府が望むものを生産する方向に向かい、消費者が望むものは生産しなくなる。

レーガン政権の経済諮問委員会の元委員で、ジョンズ・ホプキンス大学のスティーブ・H・ハンケ経済学教授は、バイデノミクスについて「ホワイトハウスが考えるように経済を誘導し、指示し、再構築するために政府が介入することにほかならない」とエポックタイムズに語った。

「この種の介入主義は、『産業政策』と呼ばれている。税金や補助金、規制、関税、割当、更には全面的な禁止などの政府の政策手段を駆使して勝者と敗者を選ぶのだ」と語った。

政府が民間産業に参入した例として、カリフォルニア州の太陽光発電パネルメーカー「ソリンドラ」がある。ソリンドラは、破産する前にオバマ政権から総額5億3500万ドル(約747億3千万円)もの巨額の連邦融資保証が供与された。

バイデノミクスの下、自動車メーカーは消費者補助金や製造補助金、強化され続ける排ガス規制などにより、ガソリン車やトラックは電気自動車(EV)への生産切り替えを迫られている。しかし、その投資を正当化できるような消費者のEV乗り換えブームが起きるのか、自動車メーカーがEV用バッテリーを大量に製造できるだけのリチウムやコバルトなどの鉱物を調達できるのか、米国の電力網がEVを大規模に充電できるだけの発電容量を新設し、充電ステーションを接続できるのかなど、懸念事項が多い。

同時に、バイデン政権は石油やガス、石炭の国内生産を削減し、風力発電や太陽光発電を推進しようとしている。風力タービンやソーラーパネルに必要な鉱物は通常、米国に友好的でない国々で採掘され、これらの鉱物の精錬の大半を支配する中国への依存度が高い。

ハンケ氏によれば、「バイデノミクスは目新しいものではない。1980年代の産業政策の擁護者たちは、日本を産業政策のモデルとして取り上げ、それが第二次世界大戦後に日本が経済大国として台頭するのに貢献したと主張していた」という。

「しかし、日本ではこの失われた過去30年以来、産業政策の擁護者は沈黙を守っている」とハンケ氏は指摘。「間違っても何の代償も払わない人たちに決断を委ねることほど、見当違いの方法はないだろう」と述べた。

(続く)

経済記者、映画プロデューサー。ウォール街出身の銀行家としての経歴を持つ。2008年に、米国の住宅ローン金融システムの崩壊を描いたドキュメンタリー『We All Fall Down: The American Mortgage Crisis』の脚本・製作を担当。ESG業界を調査した最新作『影の政府(The Shadow State)』では、メインパーソナリティーを務めた。
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