「善意が、なぜ有罪に?」 自費でかけた橋、それは村民の安全のためだったが=中国 吉林

2023/07/12
更新: 2023/07/12

「勝手に川に浮き橋をかけ、通行料を徴収した」。そんな罪状を問われて、吉林省白城市の村民・黄徳義氏とその友人や親族、計18人が有罪判決を受けた。この事件が今、中国世論の大きな反発を招いている。

この「浮き橋」とは、黄氏とその親族、友人などの協力者が、自腹で費用を出し合って中古の小船を買い集め、それらを溶接してつなぎ「一つの橋」にしたものである。

黄氏一家が、この川に「浮き橋」をかけたのは2014年。きっかけは、川を渡ろうとした親友の溺死だったという。黄氏とその協力者は、自腹で13万元(約260万円)を投じて橋をかけたが、橋を利用する村民に対して、強制的に通行料を徴収したわけではない。

お金を払うかどうか、またいくら払うかは全て利用者の判断に任されていたという。黄氏は、村民に対して「建設費用がかかったため、橋を渡る際には通行料を料金箱に入れてほしい。金額は任意で、いくらでもいい」と告げていた。

そのため、村民は橋を渡る際に、全く任意で1元(約20円)から5元(約100円)を料金箱に入れていた。

今月9日、黄徳義氏の自撮り動画がSNSに拡散された。黄氏はまず、自身の身分証明書をカメラに向けて見せたあと、事件に関する説明を行った。

黄氏は「ここに浮き橋をかける以前には、22人の村民が川を渡る際に溺死した。橋を撤去した後、また10数人が溺死した」と前置きした後、「なぜ村民の行く道を断ち、道を作った人間、橋をかけた人間を逮捕するのか?」とカメラに向かって問いかけた。

実際、黄氏がかけた浮き橋がある期間には、この場所で、水の事故によって死亡した人は出ていない。

 

だが、黄氏とその家族、親友までふくむ計18人は「法律に違反した」として、地元水利局から橋の撤去を命じられた。黄氏は、橋を無償で地元政府に寄付することを申し出たが聞き入れられず、結局、再び自腹で費用をかけて橋を撤去した。

さらにその後、黄氏は「社会秩序騒乱罪(尋釁滋事罪)」の罪名で有罪となり、執行猶予2年の懲役2年の判決。その他の親族や友人にも、同じ罪名でそれぞれ判決が下った。

2021年末、一審判決を不服とする黄氏は上訴を申し出たが、今年3月に上訴申請を却下されている。しかし、黄氏の善行を支持する世論の圧力を前に、現地の裁判所は今月8日「橋建設の件について再審を行う」と発表した。

地元の村民は中国メディアに対して、「通行料を払わなければ橋を通行させない、といった事実はない。いくら払うかは全く自由だった」と証言している。

大勢のフォロワーを抱える中国政法大学の刑法教授である羅翔(ら しょう)氏は、「(上述の)村民たちの証言が本当ならば、関連の罪名は成立しない」と明言している。

「橋が撤去されてから、地元民は川の向こうの畑へ耕作しに行くため、大きく迂回することを余儀なくされている。片道70キロ以上の距離だ。この点からみても、橋をかける行為が有益であったと立証できる」

羅翔氏はそう指摘した上で、「いくら個人的に橋を建設することが違法だとしても、その行為が重大な結果を引き起こしていないかぎり、行政処分を科すべきではない。まして刑事責任を追及するなど、もってのほかだ」と述べた。

橋が撤去された今、中国メディアの取材に応じたある地元の農民は「(対岸の畑へを行くのに)農作業用の車に乗って片道3時間以上かかる。橋があった時には、10数分で行くことができた」と、浮き橋があって便利だった当時を振り返った。

この事件があって以来「今の中国では、いくら善行をおこなっても、良い応報が得られない」とする嘆きが広がっている。

その一方、この案件を担当した裁判官に「代理受験」「代理進学」の過去があることが告発によって判明。世間を騒然とさせた。

事件関連の議論がネット上で炎上するなか、判決を下した裁判官の名前が公表されると、これを告発するユーザーが出てきた。なんと、この案件を担当した裁判官の「孫利」という名前は、実は他人の名前だったのだ。

裁判官の本名は「曹国軍」だという。曹国軍は「孫利」という名前で大学を受験して合格し、そのまま入学した。替え玉受験の「替え玉」が、そのまま大学生になったということだろうか。

曹国軍がそのようにした理由や背景などの詳細は不明だが、この「氏名詐称の件」は関連部門の調査で事実確認が取れたため、ニセ裁判官の「孫利」はクビになった。中国メディア「大風新聞」が報じた。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。
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