写真撮影やサンプル調査さえ拘束リスク…中国「反スパイ法」、危険なNG行為7選

2024/10/31
更新: 2024/10/31

2023年7月11日に掲載した記事を再掲載

中国当局が1日に施行した改正版「反スパイ法」(反間諜法)では、「国家安全」に危害を及ぼす行為への対策を強化した。しかし、「スパイ活動」の定義は不明確なままで、通常の企業活動がスパイ行為とみなされる危険性も指摘されている。日本の外務省は同法の解釈は「不透明かつ予見不可能」であるとして、注意を呼びかけている。

米国や台湾も「不当な拘束リスク」があるとして渡航を再考するよう勧告している。中国本土に関する業務を取り扱う台湾の政府機関は、リスクを伴う行為を7つ挙げた。

外務省、危険情報を更新

日本の外務省は6月30日、「反スパイ法」改正に関して中国の危険情報を更新。改正法では具体的にどのような組織や人物が「スパイ組織及びその代理人」に該当し、どのような行為が「スパイ行為」となるかが明らかにされていないと指摘した。

反スパイ法の規定により、北京当局は「広範な文書、データ、統計または資料」を「国家機密」として扱い、スパイ行為で告発された外国人を拘束・起訴する広範な裁量権を有している。

米国務省は30日、不当に拘束されるリスクがあるとして、中国本土と香港、マカオを渡航の再考に該当するレベル3に引き上げた。このほか中国では公正かつ透明な法的手続きが保障されず、拘束された場合には領事館でさえ支援を提供できないと警告した。

デモへの参加や中国共産党の政策に批判的な電子メッセージの送信、あるいは機密とみなされる分野の研究などは、当局によって犯罪行為とみなされる可能性があると並べた。

7つのNG行為

中国との人的交流が盛んな台湾では改正版「反スパイ法」の施行を受けて、特定の行為を控えるよう呼びかけた。外国人に対する非友好的な取り調べや強制送還が度々発生しているとして、中国への渡航を慎重に検討するよう求めた。

中国本土に関する業務を取り扱う台湾の「大陸委員会」は、反スパイ法による取り締まりの危険がある7つの行為をリストアップした。

【NG行為7選と想定される罪名】

・学術交流や情報収集

⇨スパイ行為で国家安全を脅かす罪

・中国企業や共産党幹部との親密な交流

⇨スパイ行為で国家安全を脅かす罪

・港湾や軍事演習の写真撮影

⇨違法に国外勢力に情報提供した罪、スパイ行為で国家安全を脅かす罪

・民主主義や自由に関する宣伝

⇨国家政権転覆罪、国家分裂扇動罪、国家安全を脅かす犯罪活動に加担した罪、違法に国外勢力に情報提供した罪

・中国に駐在する外国機関との親密な交流

⇨違法に国外勢力に情報提供した罪

・中国本土の社会情勢等に対する情報収集

⇨スパイ行為で国家安全を脅かす罪

・国境地帯への頻繁な往来

⇨スパイ行為で国家安全を脅かす罪、違法に国外勢力に情報提供した罪

大陸委員会の詹志宏(せん・しこう)副主任委員は6月下旬の記者会見で、ビジネスなどで訪中する際には必ず事前に先方と話を通し、滞在期間中に理由もなく拘束されることがないよう、人身の自由に対する保証を取り付けるべきだと語った。

大陸委員会は公式サイトで、「反スパイ法」の内容が曖昧であり、中国共産党当局が民衆による密告を奨励していることにも言及した。万が一のときの備えとして、渡航前には「本土渡航登録システム」に登録を行うよう勧めている。さらに、香港の国家安全法にも気をつけるよう呼びかけた。

中共の法的根拠とは

中国当局がスパイ行為を認定する法的根拠とは何か。外務省によると、刑法や反スパイ法で規定された行為のほか、「軍事施設保護法」、「測量法」等に違反するとされる行為も「国家安全に危害を及ぼす」として取り調べの対象になる可能性がある。

国家安全部門に拘束されると取調べが長期にわたることがあり、裁判で有罪となれば懲役等の刑罰を科される恐れがある。

中国政府の国家秘密やインテリジェンス等の持ち出しや国外の組織に提供するほか、取得や保有だけでスパイ行為とみなされ、厳罰に処される恐れがあるという。「(手書きのものを含む)地図の所持」は特別に注意を呼びかけている。

中国の軍事施設保護法により、「軍事禁区」や「軍事管理区」と表示された場所への許可のない立ち入りや撮影は禁止されている。無許可の国土調査やGPSを用いた測量などを行なった場合も、「国家安全に危害を及ぼす」として拘束の対象となる恐れがある。

中国の「統計法」は、外国人による無許可の統計調査も禁止している。外務省は、学術的なサンプル調査(アンケート用紙配布等)も法律に抵触する可能性があるため、共同調査を実施する中国側機関(学校等)との十分な打ち合わせが必要だと記している。

外務省は緊急事態への備えとして、「在留届(3か月以上の滞在)」や「たびレジ(3か月未満の滞在)」に登録するよう求めている。

「危険国家」に立ち入らない

今年に入り、外国系調査会社の中国オフィスが公安当局の捜査を受け、閉鎖に追い込まれている。こうした中、米国議員は企業の「脱中国のチャンス」が到来したと考えている。

「米国は反スパイ法に対して何ができるのか。(米国企業の)CEOも役員も皆怯えている」マークウェイン・マリン上院議員はFOXニュースの取材にこう答えた。同法は米国民に対する直接攻撃であると非難し、中国ビジネスの安定性が損なわれ米国に戻ることを検討する企業が増えるだろうと語った。

「文字通り一夜にして、製造業が米国に戻るという大きなうねりが出来上がるだろう」とマリン議員。米国政府は中国から脱出する企業に政策的優遇を与えるべきであり、この動きをサポートすべきだと訴えた。

外国人に対する差別的な取り扱いが続くなか、そもそも渡航を控えるべきとの意見も出ている。台湾の立法委員(議員に相当)である王定宇氏は、「危険国家に立ち入らない」ことが大切だと指摘した。中国共産党が「対外関係法」と「反スパイ法」を改正したことにより、訪中する外国人は今まで以上に危険な状態に晒されていると強調した。

王定宇氏は、注意喚起に対して親中派が反発する可能性があるとも指摘した。その上で、リスクの発生元は中国共産党であり、是非善悪をわきまえない親中的な言論に気をつけるよう呼びかけた。

政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。
呉旻洲