財政難にあえぐ中国の地方政府 次なる「奇策」はロック音楽?=中国 石家荘

2023/07/19
更新: 2023/07/20

中国の地方政府は今、どこも例外なく深刻な財政危機に陥っている。そこで地方政府は、瀕死の状態にある地元経済をなんとか救うため、さまざまな「奇策」を打ち出そうとしている。

河北省の石家荘市政府はこのほど、「Rock Home Town」と題する地域振興策「ロック・シティ」計画を打ち出した。政府主導のロック音楽で「町おこし」を狙うという。しかし民間では「どうせ上手くいかない」とする冷ややかな声も上がっている。

中共の政府が「ロックで町おこし」?

音楽のロックンロール(ロックミュージック)を中国語で「搖滾楽」という。石家荘市政府は今月13日、「今年7月から10月まで、本市を『中国のロック・シティ(搖滾之城)』に作り上げるべく、一連の大規模な公演イベント開催する」と発表した。

同市の「ロック・シティ」計画の関連イベントは16日から始まっており、2チームのロックバンドが市内の地下鉄車内で演奏を行ったり、夜には小規模のロックコンサートが連続で20公演も行われているという。

 

そのようななか、同市で開かれる「ロックミュージックの研究座談会」の参加者リストがネット上に出回り、いささか物議を醸している。

このリストを見ると、ロックバンドの代表がわずか6人であるのに対し、これをはるかに上回る数の、政府関係者や広報担当者、文化観光部門の役人、国有企業、公的団体の役人など「お偉方」がずらりと名を連ねていたからだ。

このリストをめぐって、ネットユーザーから皮肉たっぷりのコメントが殺到した。「要するに、これは中国共産党の『ロック・シティ』だね。どうせ曲目リストは『主旋律』なのだろう」と呆れる声が目立っている。

この場合の「主旋律」とは、国威発揚や愛国精神などの、中国の国策を反映した主題や基調のプロバガンダ作品のことである。当然、その趣旨に則した歌を演奏したり、歌詞の一部を変えることが要求される。

しかし、そもそも米国や英国で発祥し、それぞれに発展を遂げたロックミュージックは、若者の爆発的なエネルギーをもとに、反体制や反権力、既成の社会秩序への否定などを表現する激しい音楽であった。

そのロックミュージックが、まるで中共御用達の「お雇いバンド」になれと言わんばかりに、冷えた地方経済を活性化させる道具として扱われようとしている。つまりは「体制に利用されるロックになる」というのだ。

ロックの歴史を知るオールドファンにしてみれば、椅子から転げ落ちるほどの馬鹿馬鹿しさであると言うしかない。

2カ月で「消えた炭火」となった淄博BBQ

それでも一部の官製メディアは、何を根拠にそう言うのか、この石家荘ロック・シティ計画を起死回生の「奇策」と称し、これをきっかけに市内の各業界に好景気をもたらすことが期待される、などと高く評価している。

いっぽう民間では、2カ月前の「淄博バーベキューブーム」が見せた栄枯盛衰が記憶に新しいためか、早くも「どうせ、上手くはいかないだろう」とする冷ややかな声が上がっている。

山東省で、ほとんど無名の地方都市だった淄博(しはく)は、官製メディアによる大々的な宣伝もあって、今年春には「バーベキューの聖地」となった。

今年5月の労働節(メーデー)の大型連休期間中、中国で一大ブームとなった淄博市の「ご当地グルメ」である淄博バーベキュー(BBQ)を目当てに、確かに一時は全国各地からこの小さな地方都市を埋め尽くさんばかりの観光客が押し寄せた。

官製メディアは、これを「中国の景気回復の兆し」として大いに利用し、宣伝した。ブームに乗って一儲けしようと、多くの個人や企業が淄博BBQの経営に新規参入した。

しかし、その人気はわずか2カ月しか続かなかった。今では「断崖式の下落」と呼ばれるほどの惨状で、淄博市内には「消えた炭火」のような売却店舗があふれかえっている。

はたして、この石家荘「ロック・シティ」計画が、わずか2カ月で消滅した「淄博BBQブーム」から何かを学び、その教訓を少しでも生かせるか。それとも、始めから惨敗が分かっている短命の「あだ花」で終わるのか。

ロックミュージシャンの気概が試される時

中国ロック界の草分け的な存在である崔健氏は、80年代に大ヒットした曲「一無所有」で知られている。89年六四天安門事件の前、崔健氏は「赤い布の目隠し」をしてステージに立ち、この「一無所有」を歌って民主化運動の学生たちの喝采を浴びた。

2014年の旧暦元旦(中共のいう「春節」)の前夜、中国中央テレビ(CCTV)恒例の特別番組「年越し晩会」に崔健氏が出演すると伝えられた。しかし崔健氏は、直前にこれを辞退している。

辞退の理由は、崔健氏のマネージャーによると「(主催者が求める)歌詞の変更には応じない」「一切の検閲を受けない」としたことによる。

もしも崔健氏が「中共賛美の番組で歌うことは、ロック歌手である自身の信条に反する」と考えたならば、その判断はまことに正しい。

さて、石家荘ロック・シティ計画にエントリーしている現代中国のロックミュージシャンに、崔健氏のような覚悟や気概があるか。

中共に利用されることを容認すれば、もはやロックの名折れであり、真のアーティストとしての「死」を意味する。

そう考えれば、愚かな「奇策」にうかれる石家荘が、淄博以上の悲惨な結果を招くことは目に見えていると言ってよい。淄博BBQがそうであったように、中共に作られたブームは必ず去る。しかも、あっという間にである。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。